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だいしゃりん!!  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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12 天ヶ崎理亜

「――そうか!? 礼宮院会長がこの学園に来た目的は、生徒会長になって実権を握ってしまえば久藤部長と六車さんの二人を潰しやすくなるって考えたからじゃ………………」

「おそらく、礼宮院の御令嬢がこの学園に入学して生徒会長になったのは、僕に新型車両を渡さない為だといっても過言ではないな……奴等ならそれくらいの事はやりかねない」

「なんてキタネェ連中なんだ、フェアに勝負しようとは考えられないのか!?」

「轟くん、残念ながら理想と現実は対極的だよ…………奴等だって絶対に勝たなければならないんだ……それくらいの事は当然してくるさ」

「俺、独裁的な支配体制って大っ嫌いなんですよね! 今の俺に何が出来るかわかりませんが……久藤さん、六車さん、絶対に勝ちましょう!!」

「ありがとう、君の可能性に賭けてみたいとは思うが、しかし残念ながら後一人だけメンバーが足りないんだ」

「僕ら三人だけじゃダメなんですか!? っていうか大会出場以前の問題じゃないですか!?」

「まだ人数も整っていなくて本当にすまない、基本的には『トラッカー』と呼ばれる押し手役と『ローダー』と呼ばれる荷物役の二人一組の構成で出場しなければならないんだが……」

「となると……後、ひとりだけ女の子が足りないという事ですね」

「候補はいるのだがね……只、なかなか首を縦に振ってはくれなくてね」

「久藤部長、それならきっともう大丈夫ですよ! 轟さんが入ってくれた事で男女ペアが出来るんですから、理亜もOKしてくれますよ!!」

「あの天ヶ崎くんがそう簡単に了承してくれるとはとても思えんが……まぁ、再び声をかけてみるしかないな」

「では、その天ヶ崎さんっていう女の子が首を縦に振ってくれたら問題はないんですね」

「問題がないというか、一応の体裁は整うって感じかな」

「そういう事なら善は急げです。皆で天ヶ崎さんを説得しましょう!」

「了解。と言いたいところだが、今日はもう遅いから、さすがに彼女も迷惑だろう……メールでアポイントメントをとってから明日、ゆっくり話をしよう。他にも轟くんには伝えておきたい事があるのだが……天ヶ崎くんと合流できるなら調度いい、それもまとめて明日、話をさせてもらうよ」


 久藤さんはそういうと、話は後日にして時間の許す限り、施設に展示してある過去の歴史的資料や様々なサンプルを俺に解説してくれた。元々、輪界の人間ではない俺に少しでも業界の事を知ってもらおうという気遣いと同時に、少しでも台車に興味を持ってもらおうとする久藤さんの熱意に俺は徐々に傾倒しつつあった。しかし、未だに現実味を感じられずに夢の世界にいるような感覚だった俺は、久藤さんの説明を一生懸命聞いてはいたのだが、話の半分も頭の中に入ってはこなかった――――――。


 ――そして、その日の深夜。久藤さんからのメールで後日、備品室の地下で放課後に天ヶ崎理亜さんとのアポがとれた事を知らされる。彼女について軽く説明を受けていた俺は、彼女に対してどこか冷たいイメージを持ってしまっていた。なんでも天ヶ崎さんはバリバリの技巧派で、特に台車の設計やカスタマイズを得意とするエンジニアタイプの人間のようで、とにかく緻密に計算してから動く性格らしい……理系の久藤さんとは相性が良さそうだが、逆に俺とは非常に相性が悪そうだ。しかし、俺の思い描いたこの勝手なイメージは、初対面でものの見事に覆される――――――。


「――さて、そろそろいくか」

「あれ? 轟くん、今日は早く帰るのね。普段は暇を持て余してボーっとしているのに」

「委員長……あんた、俺の事をいったいなんだと思ってるんだ」

「ん~、雇用の調整弁? 便利屋? みたいな感じかな……」

「ふざけんな、俺だっていつでも都合よく暇がある訳じゃねえよ」

「い、意外……そうなんだ………………」

「もぅいいよ……じゃあ、クラス委員がんばってな」

 言葉通り、意外そうに俺を遠目からまるで観察するように見つめ、委員長は俺の姿が見えなくなるまで廊下でたたずんでいた――。そして、誰よりも俺自身が自分の意外性に驚いていた。

 特に熱く生きた事もなく、漫然と過ごす事が当たり前だった日常が、ほんの些細なきっかけによってガラリと変わってしまい、そしてその事にどこか運命的なもの感じ、うまく言葉に出来ない衝動に駆られて俺は、備品室へと急いでいる……こんなに熱意を持って何かに身を投じるなんて、以前の自分なら考えられない事だったが、逆に今ではそれが当たり前のように感じ、奇妙にもその意外性に、どこか心地良さを感じていた――――――。


「――すみません、お待たせいたしました」

「いや、気にするな。僕らも今、来たばかりだ」

「あなたが噂の……とてもそんな風には見えないのですぅ………………」

「――え? あの……どちらさまで?」

「紹介しよう、彼女が天ヶ崎理亜くんだ」

「えぇ!? こんな、いかにも天然そうなちっさい女の子だったんですか!?」

「天然とか、ちっさいとか失礼ですぅ!!」

「あ、いや……すみません……あまりにイメージとかけ離れていたもので……」

「轟さん、こう見えても理亜は一流の技術屋なんですよ」

「そ、そうなんだ……大変失礼いたしました」

「人を見かけで判断したらダメなのですぅ!!」

「ほ、本当にすみません………………」

「………………ま、これで一応メンツはそろった訳だが……」

「そうですね、あたしと久藤部長、それに轟さんに理亜……これで四人ですから、人数的には問題なく出場できるハズです」

「出場だけできても、状況は絶望的ですぅ……もう、いっそ棄権した方がよさそうなのですぅ」

「――!? らしくない事いわないで!! 理亜はこのまま礼宮院グループに屈していいの!?」

「いいわけないのですぅ……でも、もし理亜が礼宮院グループの技術者として傘下に入れば、天ヶ崎技研は残してくれるって………………」

「礼宮院会長がそういったの? あの人のいう事なんて、どこまで本気かわからないのよ?」

「でも、勝ち目のない戦争をするくらいなら……いっその事…………天ヶ崎技研はどうしても潰したくないのですよぅ………………」

「天ヶ崎くん……それは僕等も同じだよ。六車さんも僕も代々受け継いできた組織を潰したくはないさ……でも、だからといって礼宮院グループに屈することは出来ない」

「仮に大人しく降参したとしても、遅かれ早かれ吸収合併されておしまいよ? 理亜にはそれがわからないの?」

「でも、でも……こんな旧式のマシンで戦えだなんて……自殺行為ですよぅ………………」

「天ヶ崎くん……奇跡を起こすしか僕らには道がないのだよ………………」

 奇跡――それは、起こそうとして狙って起こせるようなものではないと俺は思う。おそらく、みんなも似たような事を考えてはいるのだろう。しかし、背負ったモノの大きさや与えられた使命、そしてそれが世界の命運を左右するともなれば誰だって、奇跡を願わずにはいられない。


「――まぁ、そう悲観的にならずに……、大丈夫ですよ! 素人の俺が言うのもなんですが、条件は整ったのではないでしょうか。経験豊かでリーダーシップも抜群の久藤さんにバリバリの技術屋の天ヶ崎さん、それにもし俺がみんなの言うとおり、ナーヴレセプトラッカーとかいう秘めたる才能があるのならば、奇跡も起こせそうな気がします!!」

「……あの、轟さん? あたしは……?」

「ん? ……六車さんは……知識? かな……?」

「ひ、ひどい……あたしだって実力は確かんですよ!」

「そ、そうだよね……ゴメン………………」

「うん、轟くんのいう通りだな……条件は整っている! 六車くんもローダーとしての実力は確かだ、僕が保証する!!」

「ほらほら、轟さん! こう見えてもあたし出来るんですよ!!」

「へぇ、本当に凄いね。だったら今言ったように、条件は完璧に整っているんだから、奇跡を起こしましょうよ!!」

「人員的にメンツはそろったがね……しかし、肝心のマシンがな………………」

「……こいつ、どうにかならないんですか?」

「最新式の車両とは素材からして違い過ぎるからな……とにかく、出来る限りのカスタマイズをして戦線にでるしかない」

「カスタマイズか……それなら六車さんが出来そうだね、俺等が出会った時に上手い事やっていたのをよく覚えているよ」

「いえ、そんな……あんなのは只、調整しただけで……戦線に出られるほどの大掛かりなカスタマイズは無理です」

「そうなの? でも、六車さんがそれだと、どうしようもないんじゃ………………」

 不安げに俺がぼそっとつぶやいた次の瞬間、どういう訳か皆の視線が天ヶ崎さんに集中する。そして、その事象を目の当たりにして俺は、ある事に気付く――。

「――天ヶ崎技研……、それに一流の技術者……もしかして天ヶ崎さんって………………?」

「はぁ……みんなのその視線が痛いですぅ………………、確かに理亜はエンジニアですけど、この旧式を蘇らせるのは余程ですよ?」

「皆もそれはわかっている……しかし、無理は承知だが……やってもらうしかないんだ……」

「難儀な話ですねぇ……正気の沙汰とは思えませんが…………みなさん本当にこの旧式で戦うおつもりなんです?」

 奇怪で物珍しいものをみる様な眼で、天ヶ崎さんは俺たちに視線を投げかける。これまでに何度も何度も覚悟のほどを訊ねられたが、やはり今回も意思の再確認は行われた。だがしかし、今回は俺だけではなく、全員の覚悟のほどが試されている……それほどまでに、分の悪い戦いなのだろう――。

 だからといって、今さらここで迷いを抱くようなブレた気持ちの人間など一人もいやしなかった。俺たちの覚悟と熱い想いは、思っていたよりも遥かに深いところでつながっているようだった――――――。

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