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だいしゃりん!!  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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11 研究施設

「――な、なんてすごい設備……ここは、一体………………?」

「ここは、とある研究室さ……今はDLSの研究をメインにやっている」

「DLS……ダイレクト・リンク・システムですね」

「その通り、開発当初は機械に頼った邪道なシステムだと思っていたんだがね……君のような存在を目の当たりにして僕も考え方が変わったよ」

「俺のような存在?」

「ナーヴレセプトラッカー……簡単にいうと、独特の感受性を持った人間の事さ、滅多に存在しないがね」

「俺が……? 独特の感受性………………?」

「以前に何度か見たことがあるんだが、操台技術、システムの理解度、瞬発力に判断力、その他にも様々なセンスを持ち合わせている……台車と一心同体と言ってもいいくらいに、自らの手足の如く台車を扱っていたよ………………」

 そういうと久藤さんは、どこか儚げな表情で俺の顔をジッとみつめていた――、気のせいかも知れないが、その瞳はから恨み、つらみ、妬み、嫉み……そういった負の感情がこもっているようにも感じられた。


「まぁ、細かい話は後でゆっくりしよう……さ、こっちだ――――――」

 儚げな表情から一転して、久藤さんは険しい顔つきに戻り、俺たちを施設の内部へと誘導する。何層もの厳重なセキュリティを自身のカードキーにパスワード、それに加えて指紋認証、網膜や声紋での照合をひとつひとつクリアしていき、施設の奥へ奥へと進んでく……この施設は一体、そしてこの人は何者なのだろうか――――――。


「――さぁ、ここだ……入りたまえ」

「すげぇ……なんだここは……? 博物館? ですか……?」

「君にすべてを説明するには最適な場所だと思ってね、だからここに連れてきた」

「最適な場所って……ここは一体何なんです?」

「ここは久藤DAISYA製作工業の研究施設だ、過去の歴史的資料や様々なサンプルもここには展示してある」

「ひえ~、久藤さんって超セレブなんですね……」

「そんな事はないよ……六車くんの会社同様、うちの会社も風前の灯火さ………………」

「え? それってどういう……?」

「それは、順を追って説明するよ……六車くんから第一次輪界戦争から現代までの概要の説明は理解しているな?」

「はぁ、まぁ……大体は………………」

「ならば、それを踏まえて、現状の話をさせてもらうが……さて、何から話せばいいか……」

「久藤部長、それならまずは礼宮院グループの話がいいんじゃないかと……」

「そうかい? まぁ、六車くんがそういうならそこから話そうか」

「礼宮院グループ? 輪界戦争と何か関係があるんですか?」

「関係があるも何も、礼宮院グループなくして今の輪界を語る事は出来ないよ………………、轟くん……単刀直入にいうとだね、現在の輪界は礼宮院グループによっ支配されているといっても過言ではない」

「――!? 支配!? 支配って……そんな横暴な表現って………………」

「いや、決して横暴な表現ではない。今の輪界は完全に礼宮院グループに全権を掌握されている専横政治状態だ……この国の行く末は礼宮院グループの指先ひとつで、どうとでもなる状態なのだよ」

「そんなバカな……いくらなんでも、それは言い過ぎでしょう!? さすがにそれは信じられませんよ!?」

「僕だって信じたくはないさ……しかし、事実なのだよ。礼宮院グループが近年急成長を遂げたのはどうしてか、轟くんは知っているかい?」

「……いえ、知らないです」

「だろうね、もう随分と前の話だから無理もない……至極わかり易くいうと、礼宮院グループは輪界を制した事によって急成長を遂げたのだよ」

「――台車を制する者は世界を制する………………」

「その通り。礼宮院グループの前会長が亡くなられて、まだ若い新会長が非人道的ともいうべき新型車両を開発してからは、今日に至るまで毎度毎度、大会は礼宮院グループの独壇場だ」

「非人道的新型車両……? では、それによって礼宮院グループは常に大会を制し、政治的実権を握り、世界的な支配体制を構築しているという事なんですね? でも、非人道的新型車両って……それって一体………………?」

「我々の世界では、脅迫型精神感応装置と呼ばれるシステムを構築しているタイプの台車だ」

「脅迫型……? 精神感応装置?」

「まぁ、その反応も無理もない……君はまだ大会の苛酷さも知らないし、まともに台車で荷物を運んだ経験もないだろうからね……これは単純にいうとだね、自らの命を犠牲にしてでも、台車の荷物を守り、走り続ける事を精神的に強要する装置なのだよ……。この脅迫型精神感応システムを組み込んだ台車を使って大会に出た後の競技者たちは皆、廃人同然さ」

「廃人同然って……もしそれが事実なら、たしかに非人道的とは思いますが、しかし人命を差し置いてまで荷物を守るって……しかも、そうまでして大会に勝たなければならない事がピンと来ません………………」

「世界を制するという事がどういう事なのか、きみにはまだそれがわかっていないだけさ……それに、台車の荷物が最も君の愛すべき存在だとしたらどうする? 自分の身を犠牲にしてでも荷物を守ろうとは思わないかい?」

「そう言われれば確かにそうですが……最愛の存在が荷物って……?」

「大会ではね、荷物の代わりに女の子を載せて走る規定があるんだ……これには色々と事情があるのだがね、『お客様の荷物は最大限の配慮を持って大切に運ばなければならない』という古い思想から来ているらしい」

「なるほど、だから荷物の代わりに女の子を載せるわけか……そこだけ聞くと、なかなか面白そうな大会に思えますね」

「その部分だけを切り取って聞けばね……しかし、現実は残酷だよ……大会出場者はそれこそ命懸けだ、過去に何人もの人間が実際に命を落としている………………」

「――そんな!? 実際に命を落とすほどの危険って…………何故、そこまで勝利にこだわるんですか!? 俺にはどうしても理解できません!!」

「言葉では伝わらないだろうけど、皆それぞれ、夢や希望、愛する者たちへの想い……そういったモノを背負って大会に臨んでいるんだ……もちろん僕だって、六車くんだって、命を懸けて大会に臨む……今の輪界を変えたい……礼宮院グループの支配体制を崩壊させ、皆が幸せになれる世界を創りたいって……みんなそう思っているんだよ………………」

「それほどまでに礼宮院グループは強大で横暴なんですか……?」

「あぁ、礼宮院グループに勝たない限り、僕たちに未来はない………………久藤DAISYA製作工業も六車製作所も礼宮院グループから睨まれている……、奴等の裏工作によって、年々業績も落ち込み、株価も低迷の一途をたどっている……このままでは僕も六車くんも、礼宮院グループの支配下に置かれるのは時間の問題だ」

「そうなんですか……まさかそんな状況だとは……しかも、礼宮院グループがそんな酷い事をしているなんて夢にも思わなかったです」

「礼宮院グループの連中は勝つ為ならば手段を選ばない……恐い連中だよ………………」

「でも、その連中に勝たなければ未来はないんですよね……」

「その通りだ……勝つしかない………………」

「しかし、勝つ為には一体どうすれば……?」

「それなのだがね…………状況はかなり厳しい、まず僕らには新型の車両が供給されない以上、あのボロボロの台車で戦うしかない」

「台車くらいどうにかならないんですか? 久藤さんの家って台車製造関係の会社なんですよね? だったら台車の一台や二台、自前で簡単に手に入れられそうな気がするんですが……」

「台車が簡単に手に入るだと? 轟くんは、まだ現代においての台車の価値というものが理解できていないようだな。そこいら辺にあるような一般車両ならまだしも、残念ながら公式戦の直前に高性能な新型車両は極めて手に入りづらいのだよ。なにしろ皆が喉から手が出るほど欲しがっているモノだからね……それに、この時期はウチも六車くんの製作所もカスタマイズや調整に追われている時期で、公式戦に耐え得る程のまともな新型車両の手配など不可能だ……あまりにも時間がなさ過ぎる………………」

「――??? でも、礼宮院会長は新車両を十二台も発注したって………………」

「表向きには知られていないがね、我が光輪学園高校は伝統ある台車エリート育成校でもあるのだよ。だから僕や六車くんの様な輪界関係者が広く全国から集まってくる……、他校よりも遥かに優れた施設や設備、それに最新式の新型車両もこの学園には多く配備されることが輪界の人間なら周知の事実なんだ……、だから多くの人間はその最新式の新型車両を目当てに入学してくる………………」

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