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09.幕間 勇者の定義

本日は18時頃にもう一話投稿します。

こちらは1話目。


ちょっとだけ閑話が入るのじゃよ(1/2)


 時間は少々遡り──。

 神託の御子――改め、勇者をお披露目するセレモニーが開催されてから、一五日が過ぎた。


 テールス王国王都フリーデンブルグにある、ルートベルク公爵邸の執務室では、今日もクレーメンスこと、ルートベルク公爵が執務に追われていた。

 自領の統治に関する資料や、国の財務に関する資料、公爵自らが判断しなければならない決裁書類。少なく無い数のそれらを、ほぼ即決で判断していきながら処理していく。


 紙を捲る音と、ペンを走らせる音だけが、静かな部屋に響いていた。




 ──コンコンコン。




 扉をノックする音。

 クレーメンスは机の上に置いていた時計を確認する。針は、クラウスとの約束の時間を指していた。


「入れ」


「失礼します、父上」


 扉が開き、クラウスが執務室へと入ってくる。

 王城へ行っていた息子の報告を聞く約束をしていたクレーメンスは、視線で来客用のソファを促し、自らも執務机を離れ、ソファへと向かう。


 親子は、ソファに向かい合う形で座った。


「報告を聞こう」


 クレーメンスの言葉に、クラウスは小さく頷いてから、王城であったことを話し始める。



 勇者として世間に認知されてから、クラウスは日々王城で訓練に明け暮れている。

 テールス王国一の騎士であり、剣の達人でもある、騎士団長フェリクス直々の指導を受け、テールス王国一の魔術士である賢者フリードリヒに魔術と『聖炎』を学び、希有で強力なスキルを更に伸ばしていた。

 これまでは情報を統制し、クラウスの存在を秘匿してきていたため、大々的な訓練がしづらかったのだが、その制約が無くなって自由に訓練が出来るようになったことも大きい。



 ――とは言え、それはクラウス目線での話であり、この短期間で怠け癖が抜けたかと言うと、そうでは無い。


 潜在能力(ポテンシャル)は非凡であり、スキルの熟達も早い。しかし、直ぐに手を抜こうとするし、長時間の訓練を課すと機嫌を損なう。

 結果が出ていなければ、周囲の者達が叱責するなどして態度を改めさせることができたのかも知れないが、中途半端に結果を残すことと、替えの効かない(・・・・・・・)勇者であることが災いして、誰も強く言えない。


 その結果――



「『聖炎』のレベルは五まで上がりました! 『魔剣術』もレベル四です。勇者になってからの一五日で、スキルレベルが倍以上になりました」



 胸を張り、鼻息を荒くして自らの成果を誇るクラウス。

 クレーメンスも「良くやった」と褒めはするのだが、表情はどこか固い。


 確かに、スキルレベルが低いことを考慮しても、一五日でスキルレベルが倍増したことは素晴らしい成果と言える。

 スキル保持者が該当するスキルに対する理解を深めたり、使用する際のコツを掴んだりすることで、一気にスキルレベルが上昇することがあるため、クラウスは一五日の間で何かを掴んだ証左だろう。


 しかし、クラウスのサボり癖が改善したのかと言うと、そんな事は無い。

 偶々、騎士団長や魔術士との訓練がクラウスに合っていただけであろうというのが、周囲の見方だ。少なくとも、クレーメンスはそう感じていた。

 スキルレベルは六以上が熟達とされる領域のため、ここからどれだけスキルレベルを上げられるかが重要なのだ。レベル六以降は上がり方が遅くなる代わりに、レベル一つの差が大きくなることが特徴なのだから。

 そのために、クラウスには、もっと真摯に鍛錬に打ち込んで貰う必要がある。国の為にも、人類の為にも、クレーメンス自身の為にも。


「そうか、素晴らしい成果だな」

「はい!」


 だが、それを指摘できない。

 指摘しても、クラウスが臍を曲げてしまい、かえって訓練が進まなくなるのは、既に十日ほど前に実証済みだからだ。

 クラウス自身も、周りが強く言えないのを良いことに、傲慢になってきていると言える。中途半端に結果が出ている現状も、今回の場合においては悪い方向に作用してしまっている。



 ――神に選ばれた勇者であり、同時に天才である。



 クラウス自身がそう口にした訳では無いが、心の奥底をそれに似た思いが支配していることは疑いようが無かった。

 尤も、そう勘違いしてしまってもおかしくない結果と環境があることは否めないけれど。



「では、フレイスヒューゲル丘陵の攻略戦も、期待できそうだな」


 クレーメンスの言葉に、クラウスの表情が僅かに曇った。


 フレイスヒューゲル丘陵とは、テールス王国の東にある、キースリング辺境伯領だった(・・・)場所の丘だ。


 キースリング辺境伯が治めるキースリング領はテールス王国の東端にあり、魔王国と接している。

 現在は城塞都市フレイスバウムを拠点として魔族の侵入を防いでいるが、五○年程前までは、フレイスバウムの東にあるフレイスヒューゲル丘陵の砦を拠点として防衛していた。

 フレイスヒューゲル丘陵は、城塞都市フレイスバウムと、魔王国領である東の湿地帯の中間にあり、そのどちらも見下ろす位置となっている。

 つまり、彼の丘は、テールス王国にとっても魔族側にとっても軍事的価値の高い要衝なのだ。


 そのフレイスヒューゲル丘陵が、湿地帯を縄張りとしている蜥蜴族(リザードマン)達に占拠されている現在、どうしてもテールス王国側は攻勢に出ることが出来ず、対応が後手に回ってしまっている。

 そこで、勇者をフレイスバウムに派遣し、フレイスヒューゲル丘陵を奪還する王命が下ったのだ。



「……緊張しているのか?」


 クラウスの表情の変化を見て取ったクレーメンスが問いかける。

 クラウス自身は何の言葉も返さなかったが、その態度自体が、クレーメンスの問いを肯定しているようなものだった。


「お前は死なんさ」

「……え?」


 クレーメンスの言葉に、クラウスが首を傾げる。


「簡単な話だ。国としても、勇者の初陣が負け戦になるのは避けたい。だからこそ、王都の軍も派遣し、万全の態勢で挑む。万が一の事があれば、勇者の肉壁となるよう命令された上で、だ。

 ――兵士の換えはあるが、勇者の換えは無いのだからな」



 真冬の海を想起させる深く蒼いクレーメンスの眼は、底冷えするような冷徹さを纏っていた。


 そしてクラウスは、初めて理解する。

 自分は、神託の御子であり、人類の希望たる勇者であると同時に、換えの効かない存在なのだ、と。


 心の奥底で感じていた思いを、クレーメンスが初めて言語化してクラウスに伝えた事で、クラウスは、秘めていた思いを自分自身の確かな感情として認識した。



「そう、ですね」


 笑顔を見せるクラウス。

 息子が笑みを見せたことを、一時的であっても迷いが晴れたと感じたクレーメンス。



「勇者として、行って参ります」

「ああ、期待している」



 勇者自身が思う勇者と、周囲の者達が思う勇者と――。

 それは、同じ“勇者”という言葉でありながら、全く別物であるのかも知れない。

■Tips■

勇者[名詞]

人の数だけ正義があるように、人の数だけ勇者があるような気がする今日この頃。

最近は、主人公になれる、本来王道であったはずの勇者をあまり見かけない気がするので、非常に残念である。

勇者とは一体。今まさに、それが問われる時代になったのではないかと痛感する。

勇者と言えども、多様性が尊重される世の流れには逆らえないといったところか(違います)


しかしっ。

ご安心下さい。本物語では、勇者(頭のおかしい方)と、勇者(自覚は無いけど真っ直ぐな方)が居りますので、その辺りのケアも万全です(?)


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