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05.ノア


 「何だ、これ……」


======================================

 名前:レオン


 スキル:

  継承   (Lv3)

  剣術   (Lv5)、槍術   (Lv2)

  格闘術  (Lv3)、投擲術  (Lv3)

  弓術   (Lv4)、狩猟   (Lv5)

  身体強化 (Lv4)、魔力操作 (Lv4)

  治癒術  (Lv2)、見切り  (Lv5)

  物理耐性 (Lv3)、魔術耐性 (Lv4)

  隠密   (Lv3)、気配察知 (Lv4)

  植物知識 (Lv5)、鉱物知識 (Lv3)

  薬学知識 (Lv4)、交渉術  (Lv3)

  経営学  (Lv4)、用兵術  (Lv4)

  料理   (Lv4)、鑑定   (Lv7)


======================================



 スキル情報に並ぶ数々のスキル。どんなに努力しても全く増えなかったスキルが、今は沢山並んでいる。

 そして、『継承』スキルだってレベルが上がっている。剣術なんかもうレベル五だし、鑑定まである。しかもレベル七だ。


 信じられない気持ちでスキルに触れてみる。



======================================

継承 スキルレベル:3

 汝、数多の命が世界に刻みし軌跡を承け継ぐ者也

 汝、其の軌跡を世界に承け継がせし者也

 ・知識の継承

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======================================

剣術 スキルレベル:5

 剣の極みへと至る術理

 ・斬撃強化

 ・剣の息吹

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======================================

鑑定 スキルレベル:7

 対象物/対象者の情報を読み取り、正確に把握する。

 本人の知識レベルによって、読み取り可能な情報が

 増加する。

======================================


 全く何も表示されなかった『継承』も、説明文や付随する技能が書かれている。剣術だってそうだ。

 鑑定については、付随する技能は無いが、レベル七もあればかなり優秀な鑑定士になれる。



「レオン様、急に静かになりましたが、如何なさいました? もしかして、実はおねしょをしちゃってましたか? ……はっ、おねしょではなく夢せ……」

「どっちもしてないからね?!」

「良いんです、良いんです。夢の中の私は、大人の色気に満ち溢れていいたことでしょう。レオン様に罪はありません。罪があるとするなら、それは可愛すぎる私にあるのです。膝枕をお預けしてしまった私にあるのです」

「この会話の流れで、よくそんな聖女様みたいな表情ができるね。流石に感心しちゃうよ」

「お褒め頂き光栄ですわ」

「全く、一ミリも褒めてないよ? というか、聖女様みたいな口調、そろそろやめようよ」


 聖女然とした態度のリーゼに半眼を向けつつ、僕は彼女に手を差し伸べた。

 このままだと話が進まないので、彼女にも僕のスキルを見てもらった方が早いと思ったからだ。


「リーゼ、手を。僕が驚いた理由を君にも見せるよ」


 彼女の手を取れば、僕のスキル情報を彼女に共有することができる。だから、彼女の手を取ろうとしたのだけれど。


「……レオン様、女性をベッドに誘うなら、もう少し言葉を選んだ方が……」


 そういって恥ずかしそうに目を伏せて頬を染めるリーゼ。

 いや、そんな気は全く無かったし、これもリーゼの悪ふざけだと分かっている。けれど、容姿端麗のリーゼがやると、演技だと分かっていたってドキリとしてしまう。


「ち、違うからね?! 僕のスキルを共有したいから手を取ってって意味だからね?」

「……さ、誘われてなかった。それはそれで、ショックですね」


 話が進まない。


「……リーゼ?」

「はーい。ちょっと悪ふざけが過ぎましたー。でも、可愛すぎるレオン様がいけないと思いまーす。ムラムラしてやりました。愛が溢れすぎていて堪えきれませんでした。後悔はしていないぞー。きらりんっ☆」



 半眼を向けた後に思わず溜息を吐いてしまったが、何とかリーゼが手を取ってくれたので、彼女にもスキル情報を共有する。

 今までは、レベル表記の無い『継承』一つだったスキルが、見ての通り二三個に増えており、それぞれにレベルも存在している。


 スキルのレベルは、多くの場合は最高レベルが一○だ。中にはレベル自体が存在しないものもあるし、最高レベルが異なるものもあるけど、僕のスキルの場合は、『継承』以外はレベル一○が最高とされているものになる。

 ただ、どのスキルも、大体レベル六を越えたあたりから熟達してきたと認識されるため、僕の場合は少しばかり幅広く手を出し過ぎているような印象だ。

 開花したスキルをある程度伸ばして、十分通用するようになってから別のスキルを伸ばすように訓練していくのが一般的とされているからね。


 まぁ、僕の場合、こんな状況になっているなんて知らなかったから、手当たり次第に色んな知識や技能に手をだしていたからこんなことになったのかも知れないけど。


 因みに、一番初めに開花したスキルは一行目に表示され、二番目以降のスキルは二行目以降に表示される。

 この表示形式からも、ファーストスキルは特別なものなのではないかと言われているけど、セカンド以降のスキルとの違いは正確には分かっていない。

 ただ、セカンド以降のスキルは取得スキルによっては統合されて別スキルになったりと、訓練次第で色々変化するのに対して、ファーストスキルが変化した事例は今のところ報告されていないらしい。



 そんな未だ解明されていない部分も多いスキルだが、スキルやスキル情報は広く知られているものであり、イルテアに住まう人族にとっては馴染みのあるものだ。



「れ、レオン様、これ……」


 僕のスキル情報を共有したリーゼが固まっている。

 まぁ、そうだよね。確実に昨日までは『継承』しかもっていなかったヤツのスキル構成とは思えないよね。


「ね? 僕が驚いた理由が分かったでしょ?」


 リーゼは無言で頷いた。


 どれだけ驚いたことだろうか。リーゼのそんな顔はなかなか見ることができない。

 僕はちょっとわくわくしながら、リーゼの横顔を見遣った。




 涙が、一滴(ひとしずく)、白磁のような肌を伝う。




「ちょ?! どうしたのさ、リーゼ」


 一滴だけではない。

 はらはら、と、いや、それ以上に止めどなく溢れる彼女の涙。その姿に、僕は呼吸すらも忘れてしまった。



「良かった。ああ、本当に良かった……」


 溢れる涙を拭おうともせず、リーゼは虚空を見遣ったまま、目を細めて破顔した。

 眼前の何かに優しく触れて、そっとなぞるような細い指先。



「おめでとうございます、レオン様」



 リーゼの視線が、真っ直ぐに僕を捉える。溢れる涙はそのままに、可愛らしく小首を傾げて。

 サイドテールにまとめた、絹糸のような房が肩からはらりと流れて。



 息を呑んだ。

 そして、理解した。



「あ、ありがとう」



 リーゼがここまで感情を露わにすることは凄く珍しいから戸惑ってしまった面はあるけれど、照れ臭くもなったけれど、リーゼが心からの祝福してくれているのだろうことは良く分かったし、何より、彼女の言葉は心に深く響いた。

 努力してきて良かったと、実感した。

 そして、それをリーゼがしっかりと見届けてくれて、嬉しかった。



 三年間。

 言葉にしてみれば、三文字(それだけ)の時間だけれど、確かに僕は僕なりに必死だったんだ。



 つ、と、僕の頬を伝う雫。

 たった一滴(ひとしずく)だけれど、溢れたそれを、リーゼの指先が拭ってくれた。

 ひんやりとして、心地良い感触。




「きっと、神様からの誕生日プレゼントですよ。そうに違いありません。……一生懸命、寝る間も惜しんで、誰よりも努力してきましたもの」


 リーゼが、ハンカチで目元を抑えながらそんなことを口にした。


「プレゼント、か」


 もしそうなのだとしたら、これがあと一週間──いや、一日早く届いていたら、僕は公爵家から追放されることは無かったのだろうか?

 少しだけ、そんなことを思ってしまった。


 これだけのスキル構成だ。もしかすると、追放される運命が変わっていたのかも知れない。



「レオン様?」



 考え込んでいる僕に気付いたリーゼが、心配そうに覗き込んでくる。

 僕は、その視線に笑みを向け、何でも無いと笑いかけながら、改めて思った。



 ──きっと、このスキル開花が誕生日()だったのも、運命なんだろう。



「リーゼ、ハサミか小さ目のナイフあるかな?」

「えと、ナイフなら小屋(ここ)に用意した旅支度の中に入っていますけど、何に使うんです?」


 リーゼはそう言いながら、棚に置かれている袋の中から、ナイフを取って持ってきてくれた。

 鞘に納められている刃は一○センチメルト程。武器と言うよりも、日常使い用の使いやすさが重視されたナイフだ。


 僕はそれを受け取ると、覚えたての『治癒術』スキルを使って右腕の骨折を治す。

 ──とは言え、まだ熟練度がそう高くないため、痛みが少し引いた程度で完治はしなかったようだ。


 でも、今はそれで充分。

 軽く右手が動くことを確認し、僕はナイフを鞘から抜いて、太股の上に置いた。



「心機一転。生まれ変わった気持ちで、今日から生きていこうと思ってね」



 いつまでも、起きてしまったことを考えるのは止めだ。

 開花したスキル(プレゼント)は、今日からの人生に対する祝福として授かったモノ。

 しっかりと、自分らしく生きていくことで、公爵様達を見返してやることにしよう。


 きっとそれが、僕を信じてついてきてくれたリーゼのためにもなると信じて。



 僕は、両手で長い銀髪を後ろでまとめた。

 普段なら、そのまま束ねてポニーテールにしておくのだけど、今日は違う。


 まとめた房を左手で抑え、右手にナイフを取る。




 そして、一息に、髪の房をナイフで切り落とした。




 首元を微風が擽る。

 今まで髪が長かったせいか、その感触がとても新鮮だ。


 驚きを隠そうとしないまま僕の方を見ているリーゼに笑いかけ、ナイフを太股の上に置いた。



「どう? 似合うかな?」



 僕の質問に、初めは驚いた表情のまま何も答えなかったリーゼだけど、直ぐにいつものように笑ってくれた。


「そうですねー。流石に不揃いなので、私が整えて差し上げます。感想は、その後ですねー」

「あはは、それもそうか」

「はいー。という訳で、大丈夫そうならベッドから降りて、こちらの椅子へとお掛け下さい、レオン様」


 リーゼはそう言って、自分が座っていた椅子を部屋の中心辺りへと持っていく。

 周りにテーブルやら家具やらが無い場所を選んだのだろう。


「お願いするよ。あと、レオンって名前も止めにしよう」


 僕はそう言うと、椅子に腰かける前に、棚の方へと足を向ける。

 そこにあるカバンの中から、この日の為に用意していたギルドカード(もう一人の自分)を手に取った。



「今から、僕は──“ノア”だ」



 部屋に差し込む爽やかな陽の光を受け、冒険者である証、ギルドカードがきらりと光った。

 名前と冒険者ランクが記されたそれは、冒険者であれば誰でも持っているもの。




========================

 ノア

 ランク:C


 剣士

========================




 冒険者としての僕。

 この日の為に用意してきたもう一人の自分。


 たった今から、僕はノアとして生きていく。


 放逐されて理不尽な目に遭ったけど、今を区切りとして、前を向いて生きていこう。

 後ろを気にするだけじゃ、きっとこれからの人生はつまらないし、リーゼもそんなことは望んでいないんじゃないかと思う。


 直ぐには無理かも知れないけど、前を向くんだ。





「分かりました。では、ノア様、こちらにいらしてください」



 リーゼはそう言って、僕に椅子を促した。

 僕はリーゼに背を向ける格好で、椅子に腰を下ろす。

 たった今から、新しい気持ちで生きていこう。そう決意を新たに出来たことに高揚していた。

 だから、リーゼの微笑みに僅かな憂いがあったことを気づけなかったのかも知れない。




「本当に、良かったですね、ノア様」




 それは、呟きにもならない程の小さな言葉。

 実際僕はそれを聞き取ることが出来なかった。



「ん? どうかした?」


 後ろに居るリーゼを肩越しに見上げたけれど、そこにはいつも通りの明るい笑顔があった。


「何でも無いですよー。感慨深いなーって思っただけです。――ほらほら、ちゃんと前向いてて下さいませー。切っちゃいけないとこまで、ちょっきんしちゃいますよー」

「ちゃんと揃えてよ?!」

「それはノア様次第ですねー」


 少なくとも、この瞬間のリーゼは、いつものリーゼだった。



■Tips■

ノア[人名]

いきなり主人公が改名してすいません(ジャンピング土下座

一応、

主人公の実父:アルフレート・フォン・フォルトナー

主人公の実母:ノーラ・フォン・フォルトナー

のそれぞれの名前から一文字ずつ取った、主人公の本来の名前が「ノア」であり、レオンの方が後付けの名前という裏設定があります。



いかがでしたでしょうか?

本話で序章が終了となります。


面白いなと思われた方、ブクマや評価をお願いいたします m(_ _)m

続きの執筆のモチベーションになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

感想なども気軽にお願いいたします(ぺこり)

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