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41.或る若人の物語~後編~


■□■---Side: ???---■□■


  十匹程度のゴブリンの群れは何とか撃退できた。

 事前に来ると分かっていたことが大きい。


 穴を掘って罠を作り、そこに嵌めて倒した。余所者達もゴブリンの誘導に協力してくれたから、多少の怪我人は出たものの、死人は出なかった。


 だが、これは前哨戦に過ぎない。

 ゴブリンの群れの本体は一○○匹を超えているらしい。



「仕方ない。備蓄を一部売って、冒険者を雇おう」



 父ちゃんの意見で、冒険者を雇うことが決定した。

 俺達がこれから冬を乗り越えるために貯めてきた備蓄食糧だ。勿論、反対意見は出たが、対案を出せる者はいない。そりゃそうだ。俺達に出来ることなんて限られているんだから。



「私達が外側に住めば、そのまま見張りにもなりましょう?」


 余所者の女がそう言い始めたのが切欠で、外周部分の開発が進んでいった。

 余所者達が中心となって、村の外周付近に家を建て始めた。家というにはお粗末な作りだけれど、一応家だ。家族で暮らすことが出来て、近くの荒れ地を開墾すれば畑も作ることが出来る。水も、川の水を引く水路を延長すれば届けることが出来る。


 余所者達はそこに住み、ゴブリン達を討伐するまで寝ずの番をしてくれるそうだ。

 デニスとウッツは余所者達に好意的に接していた。

 まぁ、分からなくは無い。あの余所者達は、美男美女が多い。肌も信じられないくらい白い者が多く、傷も殆ど無い。顔立ちが整っているのもそうだが、人懐っこい性格をした者が多いのも特徴だろう。表面的には、余所者達は馴染んでいるように見えた。



 五日後、冒険者達がやってきた。

 相変わらず粗野な連中で、早速余所者達と小さな揉め事を幾つか起こしている。俺は良く仲裁に駆り出された。


 そんな日が数日続いた後、俺達と冒険者とで、ゴブリン掃討作戦が始まった。

 何故かは分からないが、余所者達がゴブリンの痕跡を追えるという事なので、冒険者のグループの中に余所者達が混じり、巣ごと駆逐する作戦が実行された。


 また、デニスとウッツは余所者達の事を賞賛し、より親密になっていったと思う。


 しかし、俺は不思議だった。

 何で、ゴブリンの痕跡を追える者達が、ゴブリンの群れに遭遇するような事態になったのか?


 父ちゃんに聞いても「長旅の疲れで見逃したと言っておったじゃろう」と、余所者達の言うことを繰り返すばかり。

 俺が疑り深すぎるのだろうか。



 色々思う所はあるが、俺だって村の一員だ。

 村の決定には従うし、動き始めた作戦に水を差すようなことをするつもりは無い。

 割り当てられた討伐隊に参加し、何匹もゴブリンを狩って回った。


「強いんですね」


 俺にそう声を掛けて来たのは、ゴブリンの群れの存在を伝えに来ていた女性だ。

 あの時と同じ軽鎧を身に纏っていて、今日は槍を持っている。まぁ、槍とは言っても、木製の柄に古くなった鉄製の農具の先端をくくりつけただけの粗末な武器だが。


「冒険者の方が強いだろ。俺は、こうやって一匹倒すのに四苦八苦だ」

「彼らはそれで生きる糧を得ている人達だから。でも、貴方は違うでしょ?」


 近くに来た彼女からは、良い匂いがした。

 何となくそれが気まずくて、俺は顔を背けて距離を取る。――何やってるんだ。



「巣だ! 数が結構居る!」

「チッ、気付かれた! 奴ら破れかぶれで出てきてるぞ!」

「Dランク以下は村人達の護衛だ。Cランク以上は俺に付いてこい!」


 周囲の空気が変わったのを、俺でも感じた。

 バタバタと冒険者達の足音がして、三人が俺達の護衛に駆けつけている。残りの冒険者達は巣に突撃したようだ。


「距離を取る! こっちに!」


 冒険者に誘導されながら、山を走った。

 普段から狩りに来ている山だから、何なら冒険者より早く走れるが――。 そんな益体も無いことを思いながら何気無く余所者の彼女を見遣ると、右脚を庇う様に走っているのが目に止まった。

 見れば、初めて会った時と同じで、右の足首に包帯を巻いている。


「ほら、掴まれ」

「え?」

「遅くなると、冒険者の皆に迷惑を掛ける」


 何でこんなにぶっきらぼうにしか言えないのか。自分の感情であるはずなのに、自分で制御出来ない不思議な感覚に戸惑いながら。一度服の裾で拭いた手を差し出す。

 素っ気ない対応をする俺に、彼女はぱちくりと目を瞬かせた。長い睫毛が酷く印象的だった。


「ありがとう」


 小首を傾げる彼女の笑顔に、射貫かれたような衝撃が走った。

 そして、手を取られた時に感じたあり得ない程柔らかい感触に、動揺した。


「?」

「いや、何でもない」


「いちゃついてねぇで、早くしろ!」

「「?!」」


 冒険者の声に我に返った。俺も彼女も慌てて走り始めたけど、手は握られた侭だった。




「クソッ、数は少ないが追いついて来やがった! おい、俺達はついて来たゴブリンを狩るから、あそこの大木の影にでも隠れて待っていてくれ!」

「分かった!」


 冒険者達が来た道を引き返して行く。

 暫くすると、ゴブリンの叫び越えと、武器を打ち付ける音が聞こえてきた。


 俺は彼女の手を引きながら、急いで大木の影まで走る。

 いざとなったら彼女を守る心算はあるけど、複数のゴブリンを相手にして無事でいられるかは分からない。だから今は、冒険者の足手纏いにならないよう、言われたとおり木の陰に隠れるのが一番だと思った。


 その思いが行動にも出てしまったのか、彼女の手を強く引いて早く走ってしまったため、木陰に入る所で彼女が転けてしまう。


「い、痛た……」

「ごめんっ」

「ううん、大丈夫。――あっ」


 転けた拍子に、右足首の包帯が解けてしまったようだった。


「ごめん、巻き直――」

「大丈夫! 大丈夫だから」


 そう言って、彼女は慌てて背中を向け、右脚を隠す様にして包帯を巻き始めた。

 俺の声を遮ってまで声を上げる様子が珍しいとは思ったが、右足首の状態に思う所でもあったのだろうと、無理矢理、自分を納得させた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 多少のイレギュラーはあったものの、ゴブリン討伐は大成功に終わった。

 余所者達の活躍もあって、多くの巣が駆逐され、討伐した個体数は一五八体にまで上った。中にはハイ・ゴブリンも居たようで、このまま放っておくとゴブリンキングが誕生して厄介な事になっていたかも知れないと、冒険者が言っていた。


 大事に至る前に発見し、退治の依頼を発行した事に感謝されつつ村へと戻ると――。



「何だ、これは……」



 村の一部が焼かれ、多くの村人が殺されていた。


「あ、待って!」


 隣にいた余所者の彼女の制止を振り切って、俺は村へと駆け出す。

 幸いなことに、異変に気付いた冒険者の一隊が戻って来たため、全滅こそしなかったようだが、多くの村人がゴブリンに殺されてしまったようだ。



「……父ちゃん……」


 父ちゃんもその一人だった。

 父ちゃんだけではない。村の長老衆は軒並み殺されていたし、病気を患って動けなかった村人も殺されていた。無事だったのは、冒険者の避難誘導について行けた女衆と子供達だけ。



「うわあああああああああっ!!!」



 俺は、ずたずたに引き裂かれた父ちゃんの身体を抱きしめながら、泣いた――。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「やはり、そうじゃったか……」


 森で見つけた人影を追って来てみれば、洞窟の中で息を潜めるように隠れている集団に出くわした。

 そして、その中の一人を見て、確信する。



 どうして、お前はいつも嘘を吐くんだ――。



 そう思った瞬間、激情に支配されてしまった。


 一緒に来てくれていた二人に指示を出し、洞窟の別の通路から奴らの背後へと回る。

 どこかで奴らに気付かれていたなら捕らえられてしまったのかも知れないが、神が味方をしてくれたのか、気付かれること無く背後に回り込むことに成功した。


 適当な石を手に取って、合図を出す。

 初めに居た場所辺りに全力で投げた石が、洞窟の岩壁に当たって音を立てた。

 連中がそれに気付き、慌てて警戒を始めたところで、一緒に来ていた二人が姿を現す。


「皆さん下がって下さい!」


 何故か分からないが、メイド服を着ている娘が悲鳴のような声を上げて庇う様に出てくるが、それを制するように見知った男――確か、ウルガーと言ったか――が更に前へと出て行く。


「デニス殿、ウッツ殿、どうして此処に?!」


 ウルガーが、連れの二人を見て驚愕の声を上げた瞬間に、儂も背後から奴らに奇襲する。

 連中の一番後ろ――つまり、儂に一番近い所にいた知己を羽交い締めにしながら捕らえ、その首筋にナイフを突きつけた。



「どうしてと問いたいのはこちらの方じゃ。さぁ、答えて貰うぞ、ルイーザよ」


 視界の端に映った彼女の右脚には、あの日と同じように、包帯が幾重にも巻かれていた――。



「ヨーゼフ……。貴方まで……」


 ルイーザの瞳が、悲しげに揺れていた。

■Tips■

ヨーゼフ[人名]

ピルツ村の村長。

魔物に父親を、親同然の年配達を殺されながら、テールス王国と魔王国の国境付近で生きてきた。

普段は素っ気ないが、実は村の仲間を大切にする、仲間思いの村長。

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