31.プレリュード
本日投稿分が多くなってしまったので、2話に分けています。
こちらは後半部分です。
前半は7:00頃に投稿済みですので、よろしければそちらからお読みくださいませm(_ _)m
■□■---Side: クラウス---■□■
「見つかったってのは本当か?!」
俺――勇者たるクラウスは、待ちに待った一報を漸く聞くことができた。
「は。国境から二日程進んだ先に、コボルト達の痕跡がありました。現地の魔物と交戦したと思われる跡で、複数の血痕とコボルト達の持ち物と思しき荷物も発見されております」
「でかした!」
やっと、やっとだ!
キノコくらいしか取り柄の無ぇ村に着いてから十日、漸く俺が期待する成果を上げてくれた。
「発見者は誰だ?」
「第三調査隊です」
「第三……あぁ、俺が無理矢理、ピルツ村の住人を大量にねじ込んだ部隊か?」
「はい」
ほれ見ろ。俺の言う様に、さっさと村人を大量動員して探させれば見つかるんだよ。
確かに村人には、魔物を倒す力は無ぇだろう。だが、魔王国とは言え、この辺りの森の様子に詳しいのは地元の住人なんだよ。違和感に気づけるのは、そういう連中なんだ。なのに、ダミアンの野郎がいつまでも村人を使う許可を出さねぇから、こんなに時間が掛かっちまった!
だが、もう過ぎたことをどうこう言っても仕方ねぇ。
ダミアンの野郎を処罰するのは後だ。今は少しでも早く、テールス王国を嵌めやがった魔物をぶっ潰さなけりゃならねぇ。
「分かった。じゃぁ、第三調査隊のメンバには特別報酬を。参加した村人にも騎士団の物資を分けてやれ。連中、今日食べる物にも困ってるだろう?」
「はっ」
「分かったらさっさと動け」
「ははっ」
伝令兵がテントから出て行くのを見送る。
そうだ。成果を上げた者は、それが末端の兵士だろうが平民だろうが、等しく評価してやろうじゃないか。それが上に立つ者――人々を導く勇者だよな。だからしっかり、俺の為に働くんだ。
「……って訳だ、ダミアン。聞いてたよな」
テントの隅で、俺を監視するような視線を向けてくる鎧男のエロガッパを睨みつける。コイツが余計な口出しばっかりするから、後手後手に回ったんだ。
……なのに、何なんだこいつ。眉一つ動かしやしねぇ。反省してねぇのかよ。
「コボルト共の痕跡が見つかった。俺が指示した通り、村人を大量動員した部隊を派遣したら直ぐに、だ。お前が散々反対していた作戦を実行したらあっという間に、だ。何か言うことは無ぇのか?」
「……一刻も早く、王都に戻るべきです」
「未だ言うのか、お前は!」
本当に苛々する。
意見を求めりゃ、王都にもどれの一点張り。俺の足を引っ張っている自覚も無けりゃ、自分の行動を顧みる様子すら無ぇ。
だが、騎士団の連中からは確かに慕われているようだから仮団長に指名してやってるが、とんだ役立たずだな。王都に戻ったら即刻クビだ、クビ。
「まぁ良い。今は我慢してやる。――早く討伐隊を組め! 今すぐ出るぞ!」
「……御意に」
これ見よがしに溜息を吐くダミアンだが、本当に溜息を吐きたいのはこっちの方だよ!
ったく、辺境の騎士団はこんなにもレベルが低いのかよ。驚きだぜ。
兎に角だ。
コボルト共の尻尾は掴んだ。あとはさっさと連中を殲滅して、テールス国内の憂いを断つんだ。
王都に戻っての立て直し? 国境にこんなデカい不安要素を抱えたまま、おめおめ王都に戻って見ろ、父上に何を言われるか分ったモンじゃねぇよ。
ようやく、俺に運が回ってきたんだ。
証明してやる。俺こそが勇者なんだ。父上にも、母上にも、テールス王国にも、レオンじゃなく、俺こそが勇者なんだって分らせてやるんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
■□■---Side: イルーシオ---■□■
「まだ見つからんのか?」
この私が崇拝する主、マグダレーナ・イヴリーラ様の御屋敷に、何の先触れも寄越さず、こちらの都合を顧みず、我が物顔でやってきた黒龍族の御仁――アドヴェルザ様には色々と申し上げたいことがございます。
まずその汚れきった足を洗い、泥を落とし、湯浴みをしてから出直してきて戴きたい所です。ブレスケアもして欲しいですね。死臭がが酷い。何を食べたらこんな酷い匂いがするようになるのでしょうか。
このような酷い態で主様にお目通りしようなどと、十年早い。主様から丁重にもてなすよう言付かっていなければ、秒で叩き出してやったものを……。
「はい、目下全力で捜索はしておりますが、発見には至っておりません」
しかし、主様から対応するように申しつけ戴いている以上、感情は全て捨て、最上級の客人としておもてなしするのが、執事たる者の務め。
丁寧な言葉遣いを心がけ、アドヴェルザ様の質問には真摯に答えさせて頂きます。
ですが、そんな私の態度が今ひとつ気に入らなかったのか、アドヴェルザ様は不機嫌そうに眉根を寄せました。
――態度というより、お伝えした内容がお気に召さなかったようですね。
「我も国境付近を探索してやったと言うのに、何の成果も出ぬのか……」
「……畏れながら、アドヴェルザ様に探索頂いた地域は地形が変わっております故、再探索が必要になっております」
そうです。いくら主様の命令があるとは言え、このことはしっかりと苦情を申し入れておかねばなりません。
折角綿密に、付近に棲む主様の眷属をお借りしてまで探索しているというのに、この暴力龍が暴れ散らかしやがったお陰で、フレイスバウム周辺に近づけなかったんですよ。本当に、何考えてやがるんだ脳筋暴力龍め。
おっと、些か言い過ぎたのでしょうか。
剣呑な視線を感じます。威圧的な龍族の金眼が私に向けられています。
――成る程。流石は私の主様と同列の格を持つ魔族ですね。寒気がするほどの威圧です。
しかし、まだまだ甘い。主様ほどの底冷えする恐怖を感じません。これでは、私には勝てても主様にはほど遠い。
「我が探索した場所の再捜査は不要だ。あの場に魔王様は居なかった」
何を根拠にそのような戯れ言を。
人族が集まっていたのを蹴散らしたかっただけではないのですか、この短絡脳筋暴力龍は。
「それは信じても良い情報ですか?」
「マグダレーナの下僕風情が、良くほざくわ」
下劣短絡脳筋暴力龍の眼が光りました。その一瞬で、私の左腕が消滅しました。流石の威力と速さですね。全く動くことが出来ませんでした。
――私が身を挺して庇わなければ、主様の大切な御屋敷が傷ついてしまっていた所です。主様の所持品には、指一本、魔力一筋這わせることは許しませんよ。
「ふん」
無礼下劣短絡脳筋暴力龍は、鼻を鳴らして目を閉じました。
主様のご命令が無ければ、本当にこの御屋敷から叩き出してやるものを。……本当、主様に感謝頂きたいですね。
「まぁ良い。見つかっていないとしても、それなりに探索候補地を押さえてはいるんだろうな?」
「勿論でございます」
私は左腕を再生し、魔術を使って中空にこの大陸の地図を表示させます。光の魔術の応用ですね。こう言う説明の時に重宝致します。
「テールス王国の国境から少し東に行った辺りが怪しいと考えております」
私は、地図上に点を表示させ、探索ポイントを示しました。
漸く落ち着いてこられたアドヴェルザ様が、そのポイントを眺めています。
「ここは……、オドルアリウム群生地の近くか?」
「左様でございます」
「成る程。普通の魔族は近づきすらしない場所だが……、それ故に見落としがちではあるか」
「はい。ここを探索してもなお見つからないとなれば、一度探索は中断し、数年後に再探索することを提案致します」
「そうだな、それも良いかも知れぬ」
そう言うと、アドヴェルザ様が立ち上がりました。
ああ、今まで座っていたソファが汚れてしまっています。後で洗浄しなければ。
「では行くぞ」
「……アドヴェルザ様も赴かれるのですか?」
これは意外です。
戦闘以外にはあまり興味の無い御仁と思っておりましたが、まさか興味を示されるとは。
「勘、だがな。今回の魔王様捜しは、面白い何かに出会える予感がするのだ」
「左様でございますか……」
前言撤回です。
不良下劣短絡脳筋暴力龍は、全く落ち着いてなんかおりませんでした。
一緒に探索するなど以ての外。好き勝手暴れられたら、大切な主様の眷属に被害が出てしまうかも知れません。ここはどうにか諦めさせたい所ですが……難しそうですね。金色の瞳が爛々と輝いています。やる気に満ちた表情ですね。えぇ。何と迷惑な。
「……では、まずアドヴェルザ様がポイント周辺の探索を行って下さい。地形が変わろうとも、その後で我々が虱潰しに探します故」
「ふん。まぁ良かろう」
厚顔不良下劣短絡脳筋暴力龍が肩を竦めていますねぇ。やれやれと言いたいのは寧ろ私の方ですけれども。
正直、共同作戦なんてやりたくもありませんが、主様も魔王様を探されている以上、早く探し出したいものです。
今すぐに準備に取りかかりましょう。そうしなければ、あの厚顔不良下劣短絡脳筋暴力龍が全てを台無しにしかねませんからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
──夜が来た。
未開の地の夜は、不気味な程静寂が支配している。森の下草を踏みしめる音を立てることすら躊躇われるほどの静けさだ。
それはマキーナ=ユーリウス王国跡の湖上にある島も同じで、人の営みの気配など全く感じさせない静寂が支配している。
ただ、一度ダンジョンの入り口を潜れば、そこには喧騒があり、明々と光が灯り、人の営みが垣間見える。
「まぁ、できることは全部やったけど……」
古の魔族マキーナの亡骸の前に、僕は居た。
ここに来た時に、マオちゃんを見つけた場所だ。
「本当に上手く行くのかな」
不安ばかりが折り重なっていく。自分で立てた作戦だからだろうか。見落としは無いか、不備は無いかがいちいち気になってしまう。
でも、そんなことは、リーゼにも言え無いし、ウルガーさん達にも言えない。
僕の発案を、みんなが受け入れてくれたんだから、僕自身がぶれる訳にはいかないんだ。
「正直、ちょっと厳しい作戦ではあるけどね」
皆には明言していないけど、多分、戦闘にはなるはずだ。
相手が誰になるのかまでは分らないけれど、いずれにせよ、僕達以上の強敵を相手取る必要がある。
なるべく戦闘を避ける作戦とは言え、完全に避けられる可能性は低いだろうから。
――僕の力が通用するだろうか。
『継承』スキルが覚醒して、多くのスキルが開花した。
剣を振ってみた感触は大分違っていたし、飛躍的に力が増した実感もある。
――けれど。
それで足りるのか?
そう、僕が考え込んだ時だった――。
『――問題無い。其方の葛藤が我を呼び醒ました以上、憂いは欠片も残りはせぬ』
神の如き、声が響いた――。
■Tips■
イルーシオ[人名・魔族]
普段は半透明の美丈夫。レイス的な存在。
因みに無駄にイケメン。執事故(?)モノクル装備。
日々、主であるマグダレーナ様の為に生きる。
マグダレーナ様絶対主義。
主様が五○年眠っていようとも、毎日毎日巨大な御屋敷の掃除は欠かさない。
端から見るとやり手の執事であり、魔族としてもかなり格の高い存在だと目されているが、今回の話で、ちょっと中身に残念さが漂うことが判明してしまった、悲しい人。
しかし、本人はマグダレーナ様が全てであるため、自分の評価については全く気にしていない、ある意味で強い人。




