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24.御子 ~陽~


 ――腹が立って仕方が無い。



 俺はルートベルク公爵の跡取りで、神託の御子で、勇者だぞ。

 物心ついた頃から万人がすり寄ってくるし、頼んでも無ぇのに剣や魔術のあれこれを手解きしてくれるし、人類の希望だと崇められる存在なんだよ。



 あんなレオン(クズ)とは違うんだ。クズスキルしか持てないあいつは偽者なんだ。

 なのに、俺より剣の扱いが上手いだと?

 なのに、俺より頭が切れるだと?

 なのに、俺より筋が良いと講師達(クソ共)が賞賛しているだと?




 だったら、スキルの一つくらい開花させてみろよ。




 弁えろよ。

 神託の御子は、“魔を征す”ことができてナンボなんだよ。

 多少剣の扱いが上手かろうが、魔術のセンスがあろうが、圧倒的な力で魔を征すことが出来なきゃ意味が無ぇんだよ。


 それなのに、馬鹿みたいに真っ直ぐな目で、僕は精一杯頑張ってますよ、みたいな目ぇしやがって。褒めて欲しいのか?

 反吐が出る。結果が全てなんだよ。それこそ、どんな魔物もぶっ殺して、魔王国を征服しなきゃなんねぇ。


 それが出来ないからお前は偽者で、追放なんて憂き目に遭うんだよ。

 自業自得だ偽者野郎。

 だが、もうこれ以上お前の、甘ったれた偽善だらけの目を見なくて済むと思うと清々するけどな。



 そもそも、努力なんてしなくても、生まれながらにして神様が覇道を保証してくれてるんだよ。俺が生きていることが、人々の希望になるんだよ。

 敢えて何かをする必要は無ぇ。

 『聖炎』(与えられた力)で、ただ生きて、魔を滅ぼせば良いんだよ。

 これ以上の力が必要なら、神様が、運命が与えてくれるだろうさ。


 全て上手くいくことが決まってるんだ。


 なのに、何でだよ。

 生まれた頃からより高い評価を得ているのはレオン(クズ)の方で。

 漸くいなくなったかと思えば、クソみたいに強い魔族が攻めて来やがって。




 マジで、許せねぇ――。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「で、逃げたコボルトの行方は分かったのかよ?」

「場所が魔王国で長時間の滞在が難しい状況で、巧妙に痕跡が消されていることもあり、未だ発見には至っていません」


 ――何言ってんだ、コイツは。


「ギャァアアアアアッ!」


 チッ。汚え声上げてんじゃねぇよ。『聖炎』で焼いただけだろうが。

 力は加減してやってるから死ぬことは無ぇし、騎士団付の治癒術士に治して貰えば痕も残らずに完治する程度の傷だ。

 寧ろ、一回聖なる力で炙られて、そのクソみてぇな運の無さがマシになってるかも知れねぇくらいだ。感謝しやがれ。



 近くにいた別の騎士に付き添われてどこかへ行くクズを視界の端に見ながら、俺は舌打った。

 それだけで、近くに控えている女騎士がビクッと震えやがる。

 やっぱり顔と体だけで選んだ新人だから、今ひとつ肝が据わってねぇのか?



 ――まぁ良い。



「やっぱり焼き払うか?」

「それはなりません」


 偉そうに俺に意見してくるのは、口髭がいやらしいエロガッパ――じゃねぇ、えぇと、確か……そう、ダミアンだ。

 三○歳を越えた暑苦しいおっさんで、辺境伯の騎士団の副団長だったかな。


 まぁ、肩書きなんてどうでも良い。

 今は俺の元に集っている辺境伯子飼いの騎士達のまとめ役だ。本来なら俺が直接仕切っても構わないと思うが、俺に反抗的な態度を取る馬鹿もいるらしく、このダミアンに任せている。

 勇者様に歯向かう奴は、みんな切って捨てれば良いじゃねぇかよ。マジで。


「何でだよ。もう七日だぞ? ピルツ村の奴らに道案内までさせてンのに、コボルト一匹すら見つけられねぇって、おかしいだろ?」

「魔王国領内が探索域になっているのです。更に、索敵に特化した者達の数も限られている現状では、これが精一杯です」

「はっ、とんだ無能集団じゃねぇか」

「申し訳ありません」


 ダミアンが頭を下げる。

 頭を下げるくらいならどうにかしろってんだ。

 偉そうに、目を閉じて腕組みしてるだけじゃ何の解決にもならねぇだろうが。


「森を焼き払うのも駄目、探索人数を増やすのも駄目、村人の動ける奴らを全員導入して捜索隊を組ませるってのも駄目。じゃぁ、どうするんだよ?」

「……王都へ向かいましょう。立て直しを図るべきかと」

「だから、それは出来ねぇって言ってンだろうが!」


 全力で、目の前のテーブルを叩いてやると、天板の薄い脆い机は割れてしまった。

 まぁ、持ち運び可能な小さいテーブルじゃ、強度はたかが知れてるか。


 女騎士はビビりまくってるようだが、ダミアンの野郎は眉一つ動かしやしない。それもまた腹が立つ。


「ピルツ村――つまりは、テールス王国内で魔族が隠れ住んでたんだぞ? 前代未聞の事態だろうが。キースリング辺境伯の治政はどうなってンだよ」


 何だ? ダミアンの奴がこっち見たぞ。

 普段殆ど目を合わせねぇくせにどうしたんだ。キレたのか?


「辺境伯様は、長年此の地を魔族の侵攻から守ってこられました」

「じゃぁ、領内に魔族が隠れ住んでる事実はどう説明するんだよ」

「それは……」


 見てみろ、何も言い返せないじゃねぇか。


「キースリング辺境伯は、魔族の侵攻を防いできたんだよな?」

「はい」

「テールス王国は、害にしかならねぇ魔物や魔族を追い出して、人が人として住める国を作り上げ、今日まで繁栄してきたんだよ。

 テールス王国だけじゃねぇぜ。エルフのシルウァ王国も、ドワーフのサンクガイアドバーグ王国も、イルテア聖教国も。傍若無人な魔族を、害にしかならねぇ魔物を排除して、人としての文明を築いてきた。そんな中で、テールス王国は、魔王国との最前線に立ち、イルテア大陸に住む人をずっと守り続けて来てンだよ。

 その最前線を任されておきながら、領内で魔族が隠れ住んでたんだぞ? こんな話、今までのテールス王国史にあったか?」

「……ありませぬ」

「だろう? 仕方ねぇ、結果が全てなんだよ。魔族の侵入を許してしまった時点で、キースリング辺境伯はダメだったって事だ」


 お。ダミアンの野郎がキレそうになってやがる。

 痛いところ突かれてキレたのか? だがそれは逆ギレってもんだ。正論突かれて顔を真っ赤にするガキと変わらない所業だ。


「俺だって王都に戻りたいさ。だが、どこからともなく現われた例の魔族は、フレイスバウムを焼いた後、間違い無くこっちに来た。

 行方は分からねぇが、この辺りで行方が分からなくなっていることは、斥候の報告から分かっている」



 そう。

 あの馬鹿みたいに強かった魔族は、この辺りでその姿を消しやがった。

 何処に行ったのかは分かって無いが、フレイスバウムからピルツ村辺りまでは破壊しまくった癖に、ピルツ村より北には手を出して無ぇ。


 そんな場所に、コボルト共が住んでいたんだぞ?

 無関係なんてあり得ないだろ。


 それに、最悪無関係だとしても、テールス王国内に魔族が隠れ住んでるって事実が非常事態だ。

 このおっさんは、そんなことすらも分からねぇのかよ。



「消えた魔族と、逃げたコボルト。俺の目の前にそいつらを引き摺り出すことさえできれば、全部燃やし尽くせるンだ」



 フレイスバウムではいきなりの事だから油断しちまったが、俺の『聖炎』を当てる(・・・・・・・・)ことさえ出来れば(・・・・・・・・)、あの魔族だって焼き払えるに決まってる。

 油断して、大した覚悟も出来ていない侭放った、中途半端な『聖炎』だったから、焼き払え無かったんだ。

 そうに違いねぇ。


 そうじゃねぇと、おかしいじゃねぇか。

 俺は、“魔を征する”存在なんだ!



「何としてでも見つけ出して、俺の前に引き摺り出してこい。それが、お前達に出来る仕事だ」

「……承知いたしました」



 頭を下げるダミアン。

 いつもこれだけだな、コイツは。部下を使うだけ使って、自分では動きやしない。ずっと俺の傍についてるだけ。

 仮なんだろうが、一応団長なんだろ? それじゃダメだと思うがね、俺は。


 ――まぁ、良い。今はコイツしか居ないんだ。

 限られた手駒でどうにかするのも、指揮官の務めってモンだからな。



「チッ。もう良い。今日はピルツ村に引き上げる。全員呼び戻せ! その代わり、明日はもっと深い場所まで探索するぞ」

「承知しました――」



 ったく。本当に使えねぇ。腹が立つ。


 こんな日は、さっさと寝るに限る。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「いやいや、危なかった……」


 僕は足早にピルツ村を出た。

 まさか、村の奥――ウルガーさん達が住んでいた辺りに、クラウスがテントを張って滞在してるなんて、予想外も甚だしい。

 吃驚するよ、本当。


「今は留守みたいだから良かったけど、俺の顔を知ってるあいつに会うのは避けたい所だからね」


 あのテントの規模からして、それなりの人数の騎士を引き連れてるっぽいけど、大軍という訳じゃ無い。

 まぁ、恐らくだけど、フレイスバウムからクラウスを逃がす為に組まれた部隊なんだろうね。

 城塞都市が壊滅するような戦いで、兵力に余力があったとは思えないから、指揮官としても難しい判断だったんじゃないかな。


 勇者の力があれば、奇跡を期待したのかも知れないけど、あのクラウスだしな……。

 まぁ、生粋の軍人が、今まで何の実績も無い“勇者の軌跡”を当てにした作戦を立てるなんてあり得ないか。

 キースリング辺境伯自身、優秀な軍略家でもあり、武人でもあるって噂だし。



「思ってた以上にややこしい事になってるみたいだから、大幅に作戦見直さないとなぁ。一回戻った方が良いかな……」


 情報の共有と言う意味でも。

 ウルガーさん達と合流して、マキーナ=ユーリウス王国跡に戻って作戦を立て直すのが良いのかも知れない。






















 そんな風に、ピルツ村を無事に出ることが出来て、少しだけ落ち着いて思考を巡らせる時間ができたから、僕は油断していたんだろう。

 だからこそ、声をかけられるまで、気付くことが出来なかったんだ。


■Tips■

聖炎[スキル]

イルテア聖教の初代教皇の下、聖騎士団を率いて魔族に対抗した英雄テオドールが得ていたと言われるスキル。

テオドール以降、『聖炎』を開花させたという報告は無いため、希少度の高いスキルでもある。


効果は単純。祝福された炎を操るスキルだ。

だが、単純故に強力。

剣に纏わせればどんなナマクラでも魔を打ち払う聖剣になり、魔術のように放てば魔物を駆逐する業火となる。

その身に宿せばどんな魔物にも負けない膂力を宿し、祈りを篭めて灯せば魔物の侵入を防ぐ強力な聖域を生み出す。

鍛錬とイメージ次第で、多くのことが出来る、超有用スキル。


――だがしかしっ

クラウスは今の所、剣に纏ってなんちゃって聖剣を作ることと、火の玉みたいに飛ばすことくらいしかできない。


――しかもっ

それだけ出来たら十分だろ。聖なる炎だぜ? 俺最強じゃね? と思っている。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

本当に、完全にストックが尽きています。自転車操業状態です。

お、オラに元気(執筆力)を分けてくれ!


下にある、☆☆☆☆☆を★★★★★にすると、夜空に元気を送ることができるよ!


皆様の応援が、本当に力になるんです。


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