悪女は誰?
人は皆、私のことをこう呼ぶわ。
悪女——と。
無垢なる少女を虐める王子の婚約者の女。誰もがそう信じている。でもそれは本当の私ではない。本当に悪女なのは無垢なる少女と思われている彼女の方なの。
彼女は私の婚約者に近づいて無礼者。
それも天使のような顔をして近づくものだから、なおさらたちが悪い。
表向きの彼女の顔はいつだって綺麗。穢れ、なんて言葉は似合わない。彼女の微笑みを見れば誰もが信じるでしょう。彼女に悪の部分なんてない、と。
けれども真実は違う。
真実を知る私からすれば、本当に悪女なのは彼女の方。
彼女は、時に天使のように時に無垢な少女なようにいくつもの顔を使い分け、王子に近づいた。
婚約者の存在など無視して。
しかも、ただ近づいただけではなく、私を悪の女に仕立て上げたの。
無垢なる少女? ふざけないで。皆、真実を知らないだけ。本当のことを知ったなら、もう誰も、彼女をそんな風には思わないでしょう。天使のような娘? 馬鹿げた話ね。
でも、もうすぐ、彼女の化けの皮が剥がれる時が来るわ。
その時が来たら誰もが気づく。
本当に悪女なのはどちらなのか、に。
◆
彼女の最期は憐れだった。
人前では絶対に外すことのなかった仮面を、私が剥いだ。そして彼女は、その仮面の奥にある真実の顔を、多くの人に晒すこととなったの。彼女の罪はすべて明るみに出て、彼女はもう誰も騙せなくなったわ。
彼女はもう人前には出られなくなってしまったけれど、それも、自業自得でしょう。
他人の男に手を出したのが悪いの。
とはいえ、私は王子のことも許す気はないわ。
先に寄っていったのは女。だからそちらが悪いとは思う。でも、見破ることができなかったのは問題だし、婚約者がいるのに別の女と過剰に親しくなってしまったことにも問題があるもの。
だから、私は、彼との婚約を破棄。
婚約者に酷い言葉をかけた罪は重いわ。
これでもう、誰も私を悪女とは呼ばない——。
◆終わり◆