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第七話 狂乱の咆哮

 スンスンッ


 高いビルの屋上で漂う臭いを嗅いでいるニット帽の口。鼻に当たる部分が見受けられないし、本当に臭いを探知しているのかも不明だが、鼻で息をしている音である事だけは確かだ。


「……それで?」


 リョウは屋上の縁でヤンキー座りで町を上から見渡す。都市に到着してからここ何日かフラフラ歩き回ったが、思ったような敵には巡り合っていない。わざわざ高い所に上ったのも隠れた敵を探し出すためだ。


「んんー……なんか変な臭いがするのよね……ここに来て初めての香りがあるわ。また変なのを新しく召喚したかもね」


 リョウはスクッと立ち上がるとキョロキョロと周りを忙しなく見始めた。


「……どっちだ?」


「んー……東側かな?」


 リョウは目を細めて東の方角を確認する。特に変わった様子は見受けられないが、多分そこに何かいるのだろうことは想像できる。


「……こりゃ虱潰(しらみつぶ)ししかないか……」


 久しぶりの手堅い反応にニヤリと笑みが零れる。普通に笑えないのかと言いたくなるほど邪悪な笑み。ここに子供がいたら間違いなく泣いていただろう。

 その時、ガンッとでかい音で歴史的な古い建造物が崩れた。土煙を上げて瓦礫と化していく。


「……おいおい……せっかちな野郎だ。折角俺らが見つけたってのに……ちったぁ待てねぇのか……」


 リョウは足場のない空中に一歩踏み出す。そのまま空中を歩くことなく当たり前のように屋上から転落した。すぐ目の前には地面が迫る。落ちるのに五秒もかからない距離。


 ドンッ


 地面に突く直前身を翻して足から着地、着地と同時に地面を蹴って水平に飛ぶ。150mはくだらない高さをパラシュートなどの減速無く降りたというのに傍から見れば全くの無傷に見える。落下速度を維持するような勢いでそのまま移動をし続ける。一歩で何10mも進む姿は人でも怪物でもない、まるでゴーストだ。

 崩れ落ちた建物の場所まで文字通りひとっ飛びでやって来る。リョウが到着し瓦礫の山を見上げると、土煙の中から顔を出したのは巨大で知性のかけらも感じない化け物だった。


 頭蓋骨の顔、頭が鼻から上半分削れて目も脳みそも失った無脳の怪物。体は鋼の様な筋肉に覆われていて鉄筋コンクリートの建物を破壊したというのに傷一つ付いていない。この悪魔、その名も暴虐の巨人。


「ルオオオオォォォォォ……!!」


 瓦礫を蹴散らしながらとにかく前に進む。その中に黒に近い紺色のローブを着込んだ人が飛ぶ。血をまき散らしながら力なく飛ぶのを見ると多分すでに死んでいる。


「……ウロボロスか」


 ウロボロス、神に仇なす悪魔崇拝集団。

 元は神を信じていた敬虔な信者たちが多く、親族の悲惨な死や、理不尽な暴力、犯罪に巻き込まれるなど様々な要因で神を信じられなくなった者たちが安易に力を欲した結果の烏合の衆。入信する連中はただの人間ではあるものの様々な人種、様々な職業の人たちが集まり、どこにでも偏在する事から正義を謳う教会やアークなどの組織からの攻撃でも未だ壊滅には至っていない。数千年の歴史があると言われる息の長い組織だ。


「あいつら阿保すぎでしょ。自分たちで制御できない悪魔を召喚するなんて……」


 それには大いに共感できるがここまでおかしい事例は見た事がない。


「……暗闇の怪物を追加召喚するなら理解できる。お前の言う通りこいつは阿保すぎる……」


 見えない体でキョロキョロしながら破壊相手を探している。


「ルオオォォ!!」


 リョウに気付く事なく目の前の建物を破壊し始めた。


「……もうアークに任せたら?」


 暴虐の巨人の暴走を横目で見ながら考えていると、他の場所でもでかい音がなった。


「……ん?」


 地鳴りが目の前の破壊以外でも起こる。別の場所でも同じように召喚したのか悲鳴がそこらかしこに響き渡る。


「……なるほど……混乱が目的か……」


 その悲鳴を受け流しながら冷静に分析している。


「あのヒョロガリなんかよりずっと耐久力あるし、まぁもってこいじゃない?で?どうすんの?」


 他の所でも召喚したと言う事はここにアークが来る事は物理的に不可能な場合がある。アークの代わりに滅ぼしてしまっても良いが、それだと手が埋まってしまう。ウロボロスがこいつで時間稼ぎをしたいことは明らかであり、策略に嵌ればそれだけ奴らの思うつぼだ。


「……奴らの策に乗ってやろう……」


「倒すってこと?面倒じゃない?」


「……分かんねぇか?奴らの策に乗って泳いどけば、得意になった馬鹿な蛇が勝手に頭を出してくるって寸法だ……何がしてぇのか確認してやる」


 右拳と左拳を勢いよく合わせてガツンッと景気よく音を鳴らす。そのわずかな音に気付いた暴虐の巨人は音のなった方を不思議そうに振り向いてスンスンッ鼻を鳴らした。臭いくらいは感じられる器官を持っていると見える。リョウの存在を完全に認識したのか、体ごと振り向いて両腕を振り上げた。


「ルオオオオォォォォォ!!!」


 破壊すべきものが見つかった巨人の動きは速い。その巨大な腕をリョウめがけて振り下ろした。


 ズゴンッ


 凄まじい音が鳴り響き地面をたたく。地割れが起こり、道路が陥没する。振り下ろされた手に地面が破壊されるのと同時に飛び乗り、腕を坂道のように登って7m上の顔まで駆け上がった。


 ガンッ


「ゴオォォ!!」


 巨人はリョウの蹴りに堪え切れず後ろに仰け反る。巨人を蹴った衝撃で破壊されていない建物の屋上に飛び乗るとニヤリと笑った。


「……さぁ……ショータイムだ」

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