砂漠の秘薬にご用心!14
つみれの何気ない一言に、デルテアネは小さな声で「わからないわ」と答えた。殆ど怯えていると言っていいくらいに息を潜めた、乾いた声だった。
――アルトがあのとき意識があったのかどうか、デルテアネにははっきりわからなかった。確かにあの夜アルトが使っていた酒杯には前もって微弱な痺れ薬を塗っていたし、その後自室に連れ帰った時も彼女が暴れないように、自身の蠍の尾を使って抜かりなく微弱な神経性の毒を流し込んでおいたから、アルトは何も知らないし覚えていないはずだ。でも、元々は殺すつもりだったのだ。
この砂漠一裕福な国家の現宰相として君臨するデルテアネは、これまで一度もどころか一秒も命を奪うということについて深く考えたことがなかった。デルテアネにとって、メレニュスにあるすべての命はメレニュス王家が生命を管理するものであり、生きるのも死ぬのもすべてはデルテアネの思うままだった。それは叩き殺した蚊が人間を恨むようなまねができるだろうか、という愚問にすらならない意味の無さと違いがなかった。次期女王になるべきエカルテネ。それ以外は、虫と大差がなかった。好き嫌い善悪の問題ではない。すべてはただの風景だ。風景をじゃまするものがあれば、少し手を伸ばして除けてやればよいだけのこと。そんなデルテアネは、殺したはずの相手がまだ生きている、という状況に遭遇したことがないし、いつかそんな時が来るなど夢に思ったことすらなかった。
部屋を出てくる際に確認した時のアルトは深く眠っているようだったが、そろそろ毒の効果も切れ目覚めだすだろう。他人の部屋で目覚めたアルトは何を思うだろうか。それを考えただけでちりちりと砂を飲まされているような気持ちがする。デルテアネは思わずつみれの膝を強く掴んで「賢者様、」とすがりついた。
その青ざめた顔になんと返したら良いかわからず、つみれは視線を空中に投げ出した。どう収拾をつけるべきか、つみれには難しすぎる問題だった。
(まあ、お熱い夜が明けた朝顔合わせるのが気まずい、ってのはよく漫画とかアニメでも見るし分からなくもないけど、そんなに真っ青になって冷や汗かくほどのことかな?……まあそもそも私にはそんな経験ないんでわからないですけどね……)
のん気にそう思い込んでいるつみれとデルテアネの王女としての苦悩は一向に交差しそうにない。
礼拝堂の外の明るさは白さを増してきていた。夜明けの水平線近くでぐずついていた太陽も空に登りきったのだろう。外はもう暑いんだろうか。ここはこんなに湿って、ひんやりしているのに。
(……はあ、結構時間経っちゃったなー。どう収拾つけたもんなんかな~~。)
ただこの場をうまく切り抜けることしか考えていないつみれは、デルテアネの思いとはうらはらに、はやく部屋に帰ってゆっくりしたいということくらいしか考えていなかった。朝から汗かいたしここなんかひんやりじめじめするしで、シャワーでも浴びてすっきりしたい。
(そしてさっぱりとしたものでも口にしてだらだらして……)
―-ポトン
ふいに何か冷たいものが顔の上に落ち、一瞬の現実逃避を楽しむつみれを現実に引き戻した。
「んうヒャアわああっ!?……って、ああ、びっくりしたっ、み、水!?」
それは石造りの湿った天井を伝って落ちてきた水滴だった。突然大声でわめくつみれをよそに、デルテアネは自分の苦悩に溺れたまま、他人事といった調子の曇った目で「ああ……ごめんなさい、この礼拝堂、壁の岩山から融けた氷水が滲み出てくるから、たまにだけど水滴が落ちてくるの……」とだけ伝えて、またぼんやりとうつむいて自分の懺悔の嘆きに戻ろうと、した、ところでつみれが急に立ち上がって椅子の上に足をかけ始めたので調子を狂わされた。
「あ、あの、聖者様、い、いったい……!?」
「フン……ッ」
急に鼻息荒く、ガに股でいままで座っていた椅子を踏み台代わりに上ろうとしているつみれがバランスを取るので一杯いっぱいなのを見ると、デルテアネもつられてつみれの体を支えようと立ち上がった。そしてできうる限り高い位置にある壁をしばらく撫で回し、その壁が自分が思っていたよりもかなり冷たく冷えているということを知ったつみれは、自分の腰を抱えてくれているデルテアネに訊ねた。
「デルテアネさん、ここ、いつもこんなに冷たいの?」
「え?え、ええ……遠い雪山の地下水がここまでつながっていて、凍っていると聞いています。」
「氷!?こんな砂漠で!?」
「ええ、この岩の壁の奥は、実は大昔からの巨大な氷の塊で、ここはその神秘性からメレニュス王家の礼拝堂になったのだと……」
「ねえ、その壁の奥って、どこからか見れたりする?」
「そ、そうね……」
デルテアネはつみれの意図がわからないまま少し考え込み、困った顔で応えた。「一応、この礼拝堂の聖なる心臓ともいえる場所だから、王家の者なら入れるけれど……でも、どうしてでしょうか」
そのような雑談よりも、私はアルトのことが怖ろしいので精一杯なのです、という表情で見上げてくるデルテアネに、つみれは「うーん、」とうなったあと、こう言った。
「私なりになんとかしてみるから、デルテアネさん、手伝ってもらえる?」
じつはいまだに、新デザインになってからログインのやり方がわからなくて、ブラウザの履歴からきてます……インターネットむずかしい




