砂漠の秘薬にご用心!12
厳かな澄み渡った気持ちで眠りに落ちたデルテアネとは裏腹に、つみれの心臓はバクバクと激しく動悸していて、眠ることなど不可能だった。必死の思いでデルテアネの部屋を逃げ出したつみれはパニック状態のままあちこちを走り回ってなんとか自室に転がりこむように入ると、隣のベッドですやすや眠るスリアミドラなどお構い無しに、急いでベッドに飛び込み震える手で毛布を被った。心臓が口から飛び出るか胸を突き破るかのどっちが先に起こるだろうか。何度頭を振ってもさっきの光景はまぶたに焼きたいて離れようとしない。
デルテアネの私室で、一つのベッドにいた二人。
横たわるほぼ裸のアルトさんに跨るデルテアネさん。汗ばんだ息遣い。明かりのない部屋。
(うおおおやややややっぱっあの二人、そーいう仲だったんだっ!!!!!)
つみれは緊張で布団を強く握りしめた。そう、つみれは完全にあのシーンを誤解していた。
(あ、あれなんだったんだろうっ なぜ!?水差しをもらいにいっただけのはずが、なんでか知らない部屋に辿り着いてたしまさかあんな場面に出くわしてしまうとは……一気に酔い醒めた……
い、いや、これまでもデルテアネさんが、アルトさんにちょっかい出してるとこはほぼ毎日見てたけどっ、ただの冗談っていうかデルテアネさんがからかってるだけだと思ってたらあれやっぱりマジのやつだったんだ……ウオウやばいやっぱりナイショでやってたんだよねっあれ?!酔ってたとはいえ覗き見みたいになっちゃって悪いことしちゃったーっ!!)
あれ私だったって絶対ばれたよね。最後に月明かりが急に差し込んできたせいで、ばっちりデルテアネさんと目があっちゃったし!もう、あのきれいな緑色の瞳が稲妻みたいに光ってて、黒い尻尾がぬらぬら月光に輝いてるのも本当に妖しくて綺麗で、思わずぼーっと見とれちゃってた……あの尻尾って、絶対アレだよね、アレ目的。
「いひいいッ!!!」
非モテ喪女の思考キャパシティを大幅に上回る結論に思い至り、つみれは突然大きな悲鳴とも叫びともつかぬ声を出してしまった。
(わっどっ思わずっ変な声がっ)
慌てて起き上がって横を見る。幸いにもこちらはこちらで酔いがまわっているのだろう、スリアミドラが目覚めるような様子はなかった。その柔らかい天使のような寝顔につみれはほっとした。
(ああ、このイノセントなすりみちゃんはああいうの何も知らないんだろうな……)
ああいうの、と具体的に色々想像してしまったつみれの顔は火がついたように赤くなった。
デルテアネさん、あの時なに考えてたんだろう、私がしっかりお取り込みの現場を見ちゃったってことは絶対ばれちゃってるよな。……いや、ひょっとすると、1/1000くらいの確立でばれてなかったりしないかな。いや、ばれてたとしても、明日知らないふりしてくれないかな……別に二人がどんだけイチャイチャしてくれてもぜんぜん構わないっていうかあんなセクシー美女×クール系美少女の絡みがこの世に本当に存在するとかありがたいくらいなんだけど、いや、単純に。
あの濃厚な華やかさの中に巻き込まれてノーリアクションでいられる自信がない。
つみれはまたぎゅっと目を閉じたりぶつぶつつぶやいては急に飛び上がったりして、その晩は結局一睡もできなかった。
ばら色の朝日が昇るのと同時に、つみれは諦めたようにベッドから起き上がると、大きな窓辺を少しだけ開けてそこに腰掛けた。湖を通って入ってくる風はもうすでに熱を孕んでいる。今日も暑い砂漠の一日が始まるのを予感させた。
(喉渇いたな……)
でも、水差しは昨日割ってしまったし、また新しい水差しを欲しいなんていってメイドに怪訝な顔をされても説明しづらい。
そもそも水差しはこれまではいつも机の上に満タンにして置いてあったのに、なんで昨日に限って置いてなかったんだろう。つみれはふとそれに思い当たり不思議に思ったが、そんなことにあの密会を見てしまった言い訳を探しても、もう遅い。つみれは疲労でクマだらけの目で湖を見おろした。水面にきらきらと日光が乱反射している。澄んだ輝きはつみれの心の澱みを溶かしてくれるような気がした。
どうせ眠れないしじっとしているとあのことばかり考えてしまって目が回りそうだ。あそこで散歩でもして、少し気を紛らわそう。
そう思ったつみれが部屋の外に一歩足を踏み入れたところで出くわしたのは、こともあろうにデルテアネだった。
「!???」
声が出ないようにデルテアネはそっとその口を手で塞ぐと、そのままつみれを腕と尻尾で絡めとるようにして外に連れ出した。




