砂漠の秘薬にご用心!3
エカルテネ、と呼ばれていたその少女の目は美しかった。靄がかかった、ごく淡いグリーンとも青とも薄紅色ともいえない、全てを混ぜてホットミルクに溶かしたような不思議な色合いだ。そう、まさにデルテアネが「私の真珠」と呼んでいたように、「真珠色」とでもいうほかない。そのクリーム色がかった長い白髪とともに、彼女の褐色の肌の上でその色が輝いているのは奇妙で得難い美しさがあった。つみれはその瞳の不思議な色に魔法をかけられたかのように目を離すことが出来なくなった。
その魔法を解いたのは少女自身だった。エカルテネは頭をゆっくりと傾けると、「この人たちはだれ……お姉ちゃんの新しい召使いたち?」と問いかけた。
まるでその質問は当然だと言わんばかりの態度につみれはびっくりした。まあいかにも凡庸な見た目のつみれはともかく、きらびやかなドレスに日傘を片手のスリアミドラまでもがそう見えるというのだろうか。アルトがかすかに眉根を寄せたが、自分への態度ではなく自分の主たるスリアミドラへの侮辱として受け取ったことは間違いなかった。
デルテアネは微笑ましいものを見るかのように和やかな表情を見せながら優しく答えた。
「いいえ、ちがうのよ。この人たちはね旅の途中で出会った私のかわいいお菓子ちゃん達よ。それからね……あなたのお薬」
これまでに見たことがない慈悲深い目でそう言いながら、デルテアネはエカルテネに寄りかかるようにして目にかかる長い髪を払ってやった。
エカルテネは「そうなの?お姉ちゃんの……もしかしておともだち?」と言い不思議そうな顔でつみれ達の顔をまた眺める。
スリアミドラはその視線に微笑み返すと、
「こんにちは、はじめまして。わたしの名前はスリアミドラ、キャロトリアという遠くの国から世界中を見て回るために旅をして来ました。デルテアネ様には途中で命を助けて頂いて、とても感謝しているんですよ。そしてもちろん、わたしにとっては、大事なお友達です」
と嬉しそうに答えた。エカルテネはだるそうな表情を変えなかったが、その目が少し輝いたのがスリアミドラにはわかった。もっと仲良くなれる気がする。そう確信を得たスリアミドラはエカルテネに近づくと、その手を直にとって、
「お会いできて嬉しいです、エカルテネ様……エカルテネちゃん」と言い間近で笑いかけた。
普段こういった親しげな対応をされることがないのだろうエカルテネは少し戸惑った顔でどきまぎとしながら「わ、わたしも」とだけ答えて顔を赤くした。その様子を意外そうな顔で見ていたデルテアネは嬉しそうにした。体が弱く滅多に外に出ることができないエカルテネが、他人と自然に向き合えているのを見るのは初めてのことだった。
アルトは下がったまま、「私はスリアミドラ様のお付きの者に過ぎませんが、隣におられますこの御方は我が国の聖者様であらせられ、私達の旅を各方面において助けてくださっている方です。」とかしこまったお辞儀をしてつみれを紹介するので、つみれも挨拶せざるを得なくなった。
「え、えと、はじめまして……聖者ってほどのもんじゃないんだけど、あなたのお姉さんにお世話になってます、よろしくお願いしまーす……」
一瞬で心を掴んだスリアミドラに比べて子供相手になんて情けない自己紹介だ、と思いながらつみれは軽く挨拶をした。いまいちこの少女の立ち位置がわからない、というかデルテアネの立場自体もよくわかっていないのにどう対応したらいいのかはっきりしなかった。
デルテアネが優しく、「体はどう、たくさんお話しして疲れたでしょう?お部屋に行かなくても大丈夫?」と訊ねる。エカルテネが首を振って、
「大丈夫、おねえちゃんの顔を見たら安心して、なんだか元気が出てきたみたい。でも、少し眠たくなってきたかも……」
そう言ってまた頭をクッションにもたれさせた。
デルテアネは優しく「少しおやすみなさいね……」
と言ってまぶたを撫でると、またヒールで地面を蹴り使用人を呼び、エカルテネを寝室に運ばせた。それからつみれ達を振り返って、
「さあ、待たせてごめんなさいね。それじゃやっと、お部屋に案内するわ。海風のあとで砂漠を通ってきたし、きっと湯浴みでもしてこざっぱりしたいでしょう?それから、ここメレニュスをお見せするわ。」
と、さっきまでの温和な姉らしい表情ではなくいつもの妖艶な顔で笑いかけた。




