砂漠の秘薬にご用心!2
宮殿のホールまで行っても誰も迎えに来ないことにだんだんと苛ついてきたのか、デルテアネは橇が港まで迎えに来てくれたときのように、踵を床に叩きつけて合図を出した。あっという間に何人もの使用人達が駆けつけてくると慌てた顔で深々と頭を下げ、
「ご帰還頂き嬉しゅうございます」「今すぐ皆の者にお伝えいたします」「お帰りお待ちしておりました」と口々に述べる。
デルテアネはこれまでの甘い口調とはうってかわって、
「客人を連れてきていると皆の者に伝えなさい。それからあの子の調子はいいんでしょうね?」
と冷たく言い放つと彼女たちを追い払った。どうやらデルテアネは女主人としてはなかなか厳しいようだ。そして、スリアミドラ達の方を振り向いて、今度はいつもどおりの優しい口調で、
「ごめんなさいね。うちの使用人達、普段はもっと気が利くのだけれど、今ちょっと手が離せない事情があって。でも、怠慢よね?」といかにも彼女たちには手を焼かされている、といった風に言った。
スリアミドラは
「いえ、そんなことは……お忙しいところに押しかけてしまって申し訳ないくらいです」
と手を振って答えた。つみれも、(ギュフッさっき砂漠で見たときもこれはって思ったけど、 ローブ無しのこの格好でヒールで命令するとか女王様ぽいっもうこりゃ痴女すれすれですよ)とそちらのほうに夢中になっていたのでどうということはない。
デルテアネは、ふーっと溜め息を付くと、
「長旅で疲れてるところだとは思うんだけど、ごめんなさいね、まずは私の家族に帰宅を報告させてくれるかしら?ものすごく心配性なの。はあ、旅って帰ってからのほうが手間がかかるものね」
と困った顔で笑うと、どんどんと宮殿の奥へと歩いていった。
(デルテアネさんの家族って全然想像できないな……ボンテージ姿のお母さんお父さんとかかな)とつみれは不思議そうな顔をしながら大人しく付いていく。
建物は奥行きがある。岩で出来ている宮殿の中は暑い室外とは正反対で、奥に行けば行くほどひんやりとしていて薄暗い。デルテアネに付いて歩くうち、四人は急に光の射し込むひらけた空間にたどり着いた。
そこは言わば天井のある中庭だった。薄い白っぽい布で覆われたテントのような屋根のおかげで和らげられた太陽光が優しく降り注ぐ。ここだけが白い石で作られ贅沢なカーペットが敷き詰められていて柔らかでどこか神々しい印象を与えていた。いくつもの鉢植えの植物が日差しを浴びていて、壁からは湧き水が出る小さな泉があり、室内にありながら箱庭のような雰囲気が漂っている。美しい空間だ。だがその中でなによりも目を引くのは、白く透けた天幕の中でたくさんのクッションに囲まれて寝そべっている少女だった。遠目 にはその顔まではよくわからないが、少女はぐったりと横たわったまま、やることがなくて暇だと言うように足をけだるげに組み替えては投げ出している。その緩慢な動きを認めると、デルテアネは急に身を投げ出すように駆け出し、天幕を開けると全力で少女を抱きしめた。
「ああエカルテネ、私の真珠!!」
突然のことに驚いたつみれ達三人はそれぞれ顔を見合わせた。普段はアルトとは違った方向で冷静かつどこか自分自身というものを客観的に演じているデルテアネらしくない感情的な声だ。今呼ばれたエカルテネという名前の少女がデルテアネの家族なのだろうか。
デルテアネは我を忘れたかのように夢中で少女に頬ずりしながら、その目を見つめて、「私がいない間どうしていたの、体の調子は良いの、医者は来たの、なんと言っていて?」と矢継ぎ早に問いかけ、また抱きしめた。
少女は息苦しそうにしながらも微笑むと、声を絞り出すように答えた。
「少し苦しいよ、お姉ちゃん……だいじょうぶ、今日は調子がいいから。それに、今日はなにかいいことがある気がして……それでここで待っていたの。きっとお姉ちゃんが帰って来てくれるっていう意味だったのね」
そう嬉しそうに言う少女をあわてて抱きしめる腕から解放すると、デルテアネは、
「そうよ、やっと帰ってきたの、海の向こうまで行って……あなたの薬をやっと、やっと見つけられたの。もう安心して頂戴、私の可愛い妹」
そう言ってこちらも嬉しそうな顔をした。只の嬉しそうな顔ではない、涙を流さんばかりに濡れた瞳をして、頬も上気している。どうやらデルテアネの旅はこの少女に対してなにか大事な使命があったようだが、その感動を分かち合えるほどの情報が無いつみれ達は、少しこの場を持て余したようにぼんやりと立っていた。
少女のほうでもやっとデルテアネの熱い抱擁が終わってあたりを見回す余裕ができたらしい、ふとつみれに目をやるとじっと見つめてきた。
お引越し作業がちょっと本格化してきたのであまり書く時間がとれてないです。あと三週間くらいこの感じですー長い!




