旅は道連れご用心!1
太陽がだんだんと水平線に近づいていくのに比例してあたりが薔薇色に染められていく。夕焼け空と輝き始めた星々、それにどこまでも続く穏やかで暗い海の波を眺める……こともできずに、つみれは船室で独りぐったりとしていた。
ベッドに横たわり、死んだ魚のような目で唇を震わせながら必死に吐き気を抑える。完全な船酔いだ。他の者たちは今頃それぞれ夕暮れな空を見ながらシラノの船室で、洒落た食前酒と歴史の話を愉しんでいることだろう。つみれは己の運の悪さを呪った。
(普段は乗り物酔いとか全然しないのになにこれつら……)
ただただじっとしていると、そのうちスリアミドラがそっとつみれの様子を見にやってきた。
「つみれ様……眠っておいでですか?」
つみれは寝返りを打つと「ううん……」とだけ答える。
「お加減はいかがでしょうか……よろしければ煎じ薬を持ってまいりましたのでお飲みいただけませんか?」
煎じ薬って、なんか、はあまあ気休めくらいにはなるかもね……と思いながらつみれは、「うん、」と返事した。わざわざ心配して来てくれてありがとう、と言いたいけど、喋ったら確実に吐く。
スリアミドラは静かにつみれのベッドに腰掛けると、水差しに入った温かな液体をコップに注ぎ、手ずから飲ませた。するとどうだろうか、清涼感のある香りが広がり、あっという間につみれの胸のむかつきが治まっていく。
効果を確認したスリアミドラが優しく微笑む。「わたし、魔法はだめだめへたっぴですけど、これでも薬ならなんとかできますから」
そう言って肩をすくめながら照れた顔を見せると、船室を出ていく。
そういえば、初めてすりみちゃんに会ったときもそうだったな。なんか不思議な丸薬飲ませてくれたっけ。
あとに残されたつみれは、ベッドから飛び起きるとその背中を追った。なぜかはわからないが、ありがとうと言いたくなったからだった。
一方、残されたアルトとデルテアネの二人の間には早くも緊張感が漂いつつあった。
そもそもデルテアネはどうしてこうアルトに凝っているのかわからないが、スリアミドラがいなくなるのを待っていたとばかりに、彼女は次々とアルトに問いかけた。
「ねえ、アルトちゃんっていくつ?スリアミドラちゃんとは付き合い長いのかしら?恋人とかいる?」
「歳はスリアミドラ様と同い年、生まれたときからお仕えしております、そのような下賤なことは考えたことがございません」
冷たくあしらうアルトににやにやしながらデルテアネは頷いた。ますます自分の探している条件に適っている。
「あら、こんなに可愛くて素敵な女の子なのに、不思議ね?それともそういうのはお嫌いかしら?せっかく魅力的な体なのに」
「からかわないでいただきたいものですね」
軽蔑したような目つきとは裏腹の戸惑った表情が垣間見えるアルトにデルテアネは確信し決意した。
間違いない、この子で決、ま、り。あとはタイミングを探すだけだ。
スリアミドラとつみれがこちらに戻ってくる。体調が回復したのだろう、どことなく二人ともくつろいで打ち解けた雰囲気だ。ということは、今はまだダメ。
でも、もうすぐ、だってどうせ最初から運は私に向いているんですものね。
そうデルテアネは心の中で自分に言い聞かせると、獲物を求めて疼く蠍尾を必死に鎮めた。
適度な追い風のおかげでセイラゴン島には予定通り翌朝には着けることでしょう、と言っていたシラノの通り、船は朝日の中島の港に無事到着した。
デルテアネちゃんは無駄に色っぽい文章が使えるのでたのしいです!
つみれちゃんとすりみちゃんもすこしづつ仲良くなってってくれてうれしい。




