首都サンソヴールにご用心!10
今、サンソヴールで一番流行しているものは何か。それは、毛織りの帽子でもオペラの新作でも人気作家の小説でもない。それは、つみれ達が率いるキャロトリアから来た屋台だった。
プリンセスのように気品がありかつ笑顔が可愛い美少女と、涼しい目元が痺れるほど色っぽいこれも美少女、それに小さいのにやたら威厳のある愛らしいちびっこ……とあとなんか地味で影薄くて顔思い出せないけどすごく料理がうまい女子がやってる異国から来た屋台、という噂は初日から一気に首都中を駆け巡り、開店から五日経った今ではここの屋台で何か1つでも買えたらいい方、今では行列が長すぎて市場管理組合から並ぶのを規制されるほどにまでなっていた。
「お求めくださって本当にありがとうございます」と言って丁寧にお客の一人一人に毎回丁寧なお辞儀をしながら売り子を務めるスリアミドラは、今日も早すぎる品切れに戸惑いながらも居並ぶ列に「申し訳ございません、今日の分これで完売ですっ!」と告げる。いつもどおり列からは悲痛なため息が漏れまくった。
流石に首都だけあって、作る数もエルス村で一日100個売っていた程度では間に合わない。残念そうに散っていく行列を目に、(明日はもっと仕込む料理増やさなきゃな、昨日の1.5倍、ということは初日から比べてもう4倍は作ることになるな……)と考えながらつみれはキッチンを片付けはじめた。スリアミドラがリュラルと売上を帳簿につけている間にアルトと協力しながら屋台を閉めようとしたその時、ある女がやってきた。
「あら……もうお閉めになられるのかしら?売り切れ?残念……」
買い逃した客だろうか。アルトは振り返って謝ろうとして思わず体が固まってしまった。
あの女だった。全身を覆い隠すローブに、黄緑の光る眼、何よりあちこち主張する官能的な肉付き。見間違えようがない、それはあの日宿屋ですれ違った女だった。
女はアルトが気づいたのを察するとニヤリと目を細めわざとらしくこう言った。
「あらまたあなただったのね?クールな美人のお姉さんがいる、とぉっても美味しーーいお店があると聞いてきたんだけど……あなたなら噂になって当然よね、フフ」
「失礼ですが、もう閉店しておりますゆえ、また別の日に」
そう言って振り切ろうとするアルトに、女は
「ごめんなさいねえ、あなた達のお店にも興味あるんだけど、私がいま必要なのは……そっちじゃないの」
そう言いながら女はさりげなくアルトの手を握りしめてきた。その手の冷たい感触にアルトは思いがけずつっけんどんに手を振りほどいた。
「あん」
乱雑に扱われても笑顔を浮かべたまま、女は
「何にしてもまたここで会えて嬉しいわ。これって私達の運命かもしれないわね?二度あることは三度あるって言うし……フフフ」
と相変わらず嬉しそうに言うと、身を乗り出してアルトの耳元で「またね……」と囁き、あっというまに街の喧騒に隠れて行ってしまった。
アルトは厳しい目つきで眉根をひそめた。女の態度こそふざけていたが、あの瞳のぞっとするような冷ややかさ、それにアルトの手を気取られずにさっと掴んだ素早さ、どちらも異様に不気味だった。
「今の誰?お客さん?もしかして売り切れなの怒られたりした?」
カウンターに落ちたソースの汚れを鼻息荒く一生懸命こすって落としていたつみれは今頃気づいたらしく、アルトの様子を見て心配そうに尋ねた。
「いいえ……ただ売り切れだとお伝えしたら帰っていかれました」
「あ、そう……明日も買いに来てくれるといいね」
それはちょっと、と心の中で彼女ともう出くわさないことを願いながらアルトは適当にその場を切り上げたが、この時はまた彼女と再会しなければいけないなどとは思っていなかった。
そろそろサンソヴールでの滞在も二週間になり、旅立ちを考えなければならない時期に来ていた。売上は天井知らずで資金的にもずいぶん持ち直してきたし、ここは居心地がよかったが……屋台のおかげで意外な副産物とでも呼ぶべきかキャロトリアの国の名も売ることができたし、もうこれ以上にここでやれることはないだろう。それにキャロトリアで待つルナフィオラのことを考えるとあまり一つのところでじっとしているわけにもいかない。
スリアミドラは心を決めると、リュラルとリュシエンヌに出発を告げることにした。そよ風に日差しが差し込む美しい朝だった。
いままで書くのに使ってたたノートパソコンを壊しちゃいました!!!!代用のデスクトップタイプでから書いてますが、文字が打ちづらくてめちゃくちゃ落ち込んでます。




