首都サンソヴールにご用心!9
あっという間に品切れになった屋台を閉め市場から王宮まで引き上げてきた四人は居室にたどり着くと、断腸の思いで待ち侘びていたリュシエンヌを尻目に、何も言わずソファになだれこんだ。溶けるようにソファでぐったりとするスリアミドラとリュラルに驚いて、リュシエンヌは扇で仰いだり気つけ薬をかがせたり必死になった。
自制心のあるアルトすら「し、失礼」と言ってよろりと椅子に倒れ込む。慣れない人混みと止まない客足に延々と続く接客に疲れたのだろう、帰りの馬車の中でつみれに「こ、これは日課の素振り千回よりハードでございました」と感想を述べただけあってへとへとになっていた。
ただ一人、つみれだけが平気そうに「だ、だいじょうぶだよ、リュシエンヌさん、みんなちょっと疲れてるだけだから」と言い安心させた。これまで働いたことどころかお金のやり取り自体ろくにしたことすらない王侯貴族階級の彼女たちに比べ、長いこと飲食業で有給すら言い出せないコミュ障のまま揉まれてきただけあってこんな短時間働いたくらいではびくともしないつみれに、皆尊敬の眼差しを向ける。
「つ、つみれ様は素晴らしく鍛え上げられておいでですね……今日なんて幾千の死線をかいくぐった老兵のようでしたっ」
「余も驚いたぞ……、そなた騎士団にでも入らぬか?」
そう褒め称えるスリアミドラ達に、(ろ、老兵ってふけてるっぽいな……)と無駄なショックを受けつつも、つみれはまだハンカチを握っておろおろするリュシエンヌに、
「りゅ、リュラルちゃんもすごかったですよ、お釣りとかぱぱっと計算してすりみちゃんを手伝ってくれてたし、お客さんもこんなに小さいにのがんばってるねーって言ってて好評でした」と報告した。
リュラルはソファから飛び起きると、「まったくじゃ、中には余の頭をなでなでしたり菓子をくれる者などもおってのう、不敬なことじゃ!」と言いながらもにまにました笑みを隠すことができないまま、「ほら、お主にも分けてやろうぞ!今回のことで心配させた分はこれで帳消しじゃ、よいな」と言ってエプロンのポケットから木の実や飴などを取り出してリュシエンヌにくれてやった。
その楽しそうに話す様子に、リュシエンヌは
(ああ、前リシア様、この方達にお任せして正解でした、こんなに明るいリシア様の笑顔を見られるなんて即位されて以来随分と久しぶりです……)
と心の底から感謝し、涙さえこぼした。
「な、リュシエンヌよ、泣くなんてどうした、お主さてはこのひよこの形の飴のほうが欲しかったのじゃな!?し、仕方ない、お主はこの花の形のほうが好きかと思ったのじゃが……」と慌てふためくリュラルに、部屋中が幸せな笑いに包まれる。
リュシエンヌは深く頭を下げて、つみれに頼み込んだ。
「キャロトリアの聖者様、あなたがなぜ聖者様なのか、恥ずかしながら今わかりました……あなたは光をもたらすお方なのですね。
ぜひ、ここにはもう少し滞在いただきまして、リシア様のお相手をしていただけますと、私、心より光栄にございます。」
つみれは戸惑った。そう言ってもらえるのはもちろん嬉しいが、まさかこう頼まれる立場になるとは思っていなかった。むしろこちらが市場に出店する許可証をもらったり、居室を与えてもらったりと面倒を見てもらっている立場だ。つみれはスリアミドラに視線で助け舟を求めた。スリアミドラはソファの上でリュラルの乱れた髪を手櫛で整えてやりながら優しくうなずいた。答えは決まりきっている。
つみれはまだ頭を下げているリュシエンヌに「こ、ここちらこそ、よろしくお願いします!」と答えると、部屋から飛び出した。そうと決まればさっそく明日の屋台に向けてもっといろいろ食材を仕入れに行かなければならない。それに、なんだかあのほのぼのとした空気の中で褒められっぱなしなのも気恥ずかしくて居座っている勇気がない。
でも、つみれはそれが自分が照れていて嬉しい証拠だと自分でわかっていた。




