首都サンソヴールにご用心!8 屋台デビューにお願い神様!
「た、丈が思っていたより短すぎます……」
ロング丈しか着たことがないアルトが珍しく弱音を吐く。といってもつみれからすれば膝下丈のスカートなんてありふれているというかどちらかというと長いくらいだ。
アルトを励ますべくスリアミドラは、
「これ、このくらいの丈にこのブーツを合わせるほうが機能性が良いと仕立て屋の方が教えてくださったのですよ!プロの意見は聞き入れるべきですっ、」
と反論する。
つみれはキッチンという場所柄仕立て屋の意見は最もだとは思うものの、このヘッドドレスまでつける必要があるのか分からずこっそり外そうとしてスリアミドラに注意されてしまった。
「つみれ様っどうしてお外しになられるのですかっお気に召しませんでしたか……?こ、これこそつみれ様のお店の最大のシンボルになるはずですから是非お外しにならないでくださいっ!」
そうはいわれてもキャロトリアのシンボルである人参を模した飾り付きのヘッドドレスは、日頃ボサボサ頭に無地の服しか来たことがないつみれにはハードルが高すぎる。
(す、す、すすすりみちゃんが言うから付けるけど、だ、誰かに笑われたらすぐ外そう……)
まあ、にんじんモチーフはスカートやボタンなどいろいろなとこに採り入れられていて、頭の飾り一つ外したくらいではなんの影響もないことは確かだった。
「余もせっかくなら同じ恰好をしてもよかったかもしれんのう」
羨ましくなったのかつぶやくリュラルにも、スリアミドラはその言葉をお待ちしておりましたと言わんばかりに予備のにんじんヘッドドレスを付けてやるとリュラルは、
「べ、別にお揃いにしたかったわけではないが、そなたの好意受け取るしかなかろう」
といいあからさまに嬉しそうにしていた。
さあ、制服くらいでそうこうしていても仕方がない。パンだってこれ以上ほっとくと焼きたての良さがなくなってしまう。つみれは覚悟を決めて屋台の軒を上げることにした。
つっかえ棒を咬ませて馬車の戸を上に上げ、日除けを下ろす。馬車を大工達に屋台風に改造してもらって以来、やっと初めての舞台だ。
床に布を敷いただけの店や簡易なテーブルを置いているだけの他の露天商達とは一線を画した本格的な見た目に、つみれたちの馬車は群衆の目を惹いた。
手が軽く震えるが、緊張なのか武者震いなのかわからない。つみれは商品をかごに入れて並べるようスリアミドラに頼むと、拳をぎゅっと握りしめ、まな板とナイフを取り出した。
いつもどおり焼きたてのシンプルなパンと、それをもとに作った、エルス鱒を簡易的にスモークして作ったスモークトラウトサーモンとキャロトリア人参の葉をドライハーブ代わりに使ったサンドイッチ。
最初だし、料理できるのはつみれ一人だけだからこそ、凝りすぎない最低限の商品でミスなく提供できるようにしたい、というつみれの考えで二品しかないのが不安の種だったが、ここまできたらやるしかないのだ。
珍しくアルトがつみれの肩をぽんと叩き、微笑みかけた。
「がんばって……稼ぎましょう」
そ、そうだ。今は怖がっている場合じゃない。アルトの言葉にスリアミドラのこれまでの自由なお会計っぷりを思い出し、不意に口元が緩んだ。そうだ、少なくとも帰国したときに国王やルナフィオラがたまげないようにしなくちゃ。
スリアミドラが深呼吸し、元気よく声を上げる。
「リシアの皆様、わたしどもキャロトリアのお料理で午餐室を彩りくださいませ!」
いらっしゃいとかおいしいよー寄ってきなーといった一般的な呼び込みとはかけ離れたセリフにつみれはいきなり度肝を抜かれたが、まあ、そのへんはスリアミドラのセンスに任せよう。もしかしたらこの世界ではそういうのが一般的なのかも……というわけでもなさそうだ、と他の露天商達の様子を見ながら、つみれは料理の準備に専念し聞こえないフリをした。
果たして、好奇心と嗅ぎなれない匂いに釣られて人々が押し寄せてくる。意外にも、スリアミドラの呼び込みはうまくいくのかもしれない。それとも単純に……
「なんだかものすごい美人ばかりいる屋台が来てるぞ」
「ウサギの耳とは見たことねえなあ、どこから来たんだ?」
「といっても、売り子のちっちゃい子は羊の角があるし、リシアの遠縁かなんかじゃないか?」
「ほらエルス鱒を売ってるなんて驚いたねえ、あんな遠い村の名物ここで食べれるわけないだろうから偽物だろうけど」「しかし匂いは本物だよ、この香ばしい匂い、懐かしいなあーおれは母ちゃんがあそこの出身だからさあよく行ったもんさ」「このパンってのもなあ、パンって言ったら普通もっと、平べったくてボソボソした食べもんだろう?こんなにもりもりとふくらんだ形なんてなあうさんくさいぞ……」「キャロトリア?あの田舎国のブレナよりも遠い国?そこじゃこんなの食べてるのかい、都会のリシア人がこんな田舎臭いのを食べるってのもねえ」
あっという間に人だかりができて、カウンターは次々と質問だらけになる。
(なんか大国の首都っていうから、みんなパンって当然知ってるもんだと思ってたけど、現代みたいなパンってまだ浸透してないんだなあ……)とつみれは思いながらも、半信半疑でなかなか買おうとしてくれない客足をブーストさせるべく、かごからパンを一個取ると小さなキューブ状に切りわけてスリアミドラに渡した。要は試食をさせてやれということだ。
スリアミドラがにこにこと細切れになったパンを各人に振る舞う。人生で一度出会えるかどうかというレベルの美少女が愛嬌たっぷりに手渡してくれる上ただなのだ、断る者などがいるわけがない。問題は、はたしてこの味、受け入れてくれるものだろうか。
「……!」
試食のパンを食べた者たちは、急に目の色を変えて自分の服のポケットから財布を探し出すと、つっけんどんに硬貨をスリアミドラの胸前に出した。ひとりの男の差し出した100キナ硬貨が太陽の日差しを受けてキラリと光る。スリアミドラはよくわからない、といった顔でぼんやりとしていたが、先にその意味を汲み取ったアルトがさっとパンを紙に包んで手渡した。
「スリアミドラ様、銀貨をお受け取りになってください、この者はパンを買う意思を示しておいでです」
「あ、え、えっと……ほ、ほんとですか!?わたし達のパンを、お求めなのですね!」
やっと理解したスリアミドラはパッと大輪のバラが咲くように破顔し、硬貨を差し伸べる男の手をギュッと握りしめ感謝の言葉を投げかけた。その笑顔に群衆は脳みそが溶けたのか、次々と硬貨がスリアミドラの前に突き出され多くの声が飛び交うようになった。
「お、おいこっちにも!」「お、おれはパン7個、近所にも宣伝してやるよ!」
「はい、パン3つにエルス鱒のサンドイッチを3つでお間違いありませんね」
冷静に注文を淡々と裁くアルトと、美しい笑顔でお金を受け取るスリアミドラ、その横で客とのやりとりを見ながらお釣りを用意するリュラル。自然と三人の役割が決まり、膨大な客足にもかかわらず意外にもうまくいっているのをみて、キッチンでサンドイッチを作っていたつみれは自分も興奮しているのがわかった。カウンターに並べたパンが次々と消えていく。小さいカウンターだからといっても、商品を補充しても補充しても追いつかないくらいだ。売れば売るほど長くなっていく行列に幸せな目眩を感じながら、四人は働く手を休めなかった。
ああーっこの回ながすぎいっ!!!
サンソヴールは大国の首都だけあって、法皇様に会う、仲良くなる、お屋台デビュー、それからそれから……とやることがありまくりで大変です!サブサブタイトルが必要な事態になっちゃいました。




