首都サンソヴールにご用心!3
「余に会いたいと申す者たち、名を名乗られよ。」
女性の声は意外にも結構幼気な感じがした。ただ、人の声って思ってるより若く聞こえるもんなーアニメとかでもそうだもん、すっごいかわいい高校生ヒロイン役の声優が年季のいったおばさんだったりとかよくあるじゃん、ほら、前シーズンに放送されてた日常物のやつだって、あれとか声優の名前ネットで検索してほんとびっくりしたもんね、私が子供の頃観てたアニメにも出演してて超大御所じゃんみたいな……
そんなことをつみれが思っているうちにスリアミドラは、
「わたしはスリアミドラ、キャロトリア王国を代表しリシアを治める法皇陛下に表敬すべくこの度訪問をさせていただきました。急な訪問にもかかわらずお目にかかれ恐縮しております!」
と丁寧に挨拶をして優雅にキャロトリア式のお辞儀をしてみせた。このお辞儀はとっくにリシアでは廃れた時代遅れのやり方だったが、スリアミドラの仕草は気品に満ち、かえって居並ぶ神官たちの目を惹いた。
玉座の声の主は、一言だけ「大儀であった。」と応えると、リュシエンヌをそばに呼びつけ何やら指示をした。リュシエンヌは「はいリシア様」と答えてスリアミドラ達の前まで進み出ると、「キャロトリアからの書簡をお預けくださいませ」と盆を差し出したので、スリアミドラは国王からの書簡、つまり旅の趣旨と王家の名によるその通行許可を願う文書を乗せた。
それをうやうやしく受け取ると、法皇のもとまで持っていく。どうやら法皇の顔を見て良いのは、少なくともここではリュシエンヌしかいないようだった。つみれには正直、さっきまでの会話のなかでの私室付女官という役職の意味するところがわからなかったがようやく彼女の位置の高さを認識した。
書簡を読んだらしい法皇はヴェールの奥で少しくつろいだように姿勢を崩すと一言だけ簡単に、かつある問いを投げかけてきた。
「よかろう。して……、そなた達のなかに、興味深い者がおるようじゃが」
スリアミドラとアルトのウサ耳がぴくりとし、二人同時につみれを見た。明らかにつみれのことを言いたいのだろう。ヴェール越しとはいえ、ウサ耳が生えていないのが見えたのだろうか、それとも法皇だけあって不思議な力を持っているのかもしれない。急に指名されたつみれはごくりとつばを飲み込もうとして、できなかった。緊張で喉がやけに渇く。
明らかに動揺しているつみれを見て、スリアミドラが代わりに答えた。
「おそれながら陛下がお知りになりたい方は、つみれ様、我が国に顕れました聖者様のことかと存じます。このお方はキャロトリアの鎖国廃止を告げる暁の鐘、その出現を受けて我が国の現国王及び次期国王は私を旅に送り出したのです。」
「ほう……キャロトリアは兎の種族と聞いておるが、その国の聖者には長い耳がないというのはこれは愉快なこと。
気に入った。そなた達に、我が王宮の一室を与える。滞在の間好きに使うがよい。」
このごく珍しい申し出に、リュシエンヌは目を見張った。謁見そのものが嫌いだと公言し、いつもは「下がって良い」の一言でも発することがあれば良いほうなくらいの法皇が、特別に謁見を許可しただけでなく、本人から会話を続ける、それどころか私邸の一室に滞在を許可するのは珍しいどころではない。
「もう下がるがよい」
いつもどおり、謁見終了を意味する御言葉を頂戴すると、つみれ達三人はそばにいた神官の先導で広間を出て、ある部屋で休憩することとなった。
とりあえず謁見がつつがなく終わったことに安心するスリアミドラとアルトに対し、つみれは少しの不安感をいだきながらいかにも高級そうなソファに腰をおろした。王宮に泊まっていいと言われても、ここはなんだか威厳がありすぎてくつろげる自信がない。
(キャロトリア王城くらいのアットホームな雰囲気なら全然いいんだけどな……この部屋みたいによくわかんない人の彫像だらけだったらいやだな……)と、大理石に彫られたリシアの歴史上の人物だかなにかの大きなオブジェを見ながらつみれはため息をついた。リュシエンヌが案内に来るまでここで待っているようにとは言われたものの、豪華すぎて生活感のかけらもない落ち着かない空間につみれはそわそわした。こんな単なる一室さえここはあまりに贅沢で何もかも整っている。唯一安らげるものがあるとすれば、庭に面したバルコニーだろう。つみれは頬杖を付き窓からの景色をぼんやりと眺めた。青い空に几帳面に整列したきちんと刈られた木々、聞こえるのは小鳥のさえずり。風景すら退屈だ。そう思って頬杖をついたつみれの目に、急にあるものが落ちてきた。
それは上階から投げ落とされたのだろう天鵞絨のシャンデリアの紐で、そこには一人の少女がぶら下がっていた。




