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すりみつみれの冒険おやたい❣  作者: みどりのヤクルト
二国目 法皇の統治する大国、リシア
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エルス村にご用心!7

結局三人は老紳士と懇意になったこともあり、二日程度寄ってみるだけにしていた滞在期間を一週間に伸ばすことにし、滞在の間は老紳士の宿に毎日パンを届け、そして代わりに昼食に招待してもらった。滞在先の銀鱗亭のおかみさんとは誤解も解け、むしろ老紳士の知り合いということが分かって割れ物を扱うかのごとく丁寧に、なによりあの朝あんなにどなりつけたのにも関わらず礼儀正しさを崩さないスリアミドラ(と居酒屋でどなられ慣れているおかげで特に動じないつみれに常に冷静なアルト)の態度は、早とちりなだけで本来は人の良いおかみさんを感心させ、三人への態度は「えらく立派な娘さんたち」という評価に変わり、何かと世話を焼いてくれるようになった。


旅立ちの前の日も、エルス湖はいつも穏やかで、特に老紳士の宿から見下ろす風景はとても美しかった。

「キャロトリア王城からも湖が見えましたらよろしいのに……でもそれではここに来る楽しみがなくなってしまいますね」

今日も三人はパンを届けたあと、老紳士と最後の昼食を共にしながら会話を楽しんでいた。

老紳士は郷土史研究家ということもあり、歴史に詳しく珍しくキャロトリアという国を知っている数少ない老人だったので、皆打ち解けて話すことができスリアミドラにとっても楽しかった。

「なに、そう遠い距離でもなし、いつでもここでお待ちしておりますよ……わしも、その頃まで生きておられましたら、是非にとも旅しに行きますわい。キャロトリア、あの歴史から消えていた王国についての一ページをこの年寄りの書く本に加えられましたら、これはまたとない幸せでしょうなあ」

「いつかではなくて、もちろん姉の戴冠式の際には是非ご招待させてください、シゴ様には随分お世話になりましたから、姉や父にもぜひお知り合いになっていただきたいです!」

老紳士は目を細めてゆっくりと微笑むと、

「それはそれは、体力をつけておかなくてはなりませんな。何よりキャロトリアまで行った暁には、つみれ様の作る料理はぜひまた味あわせていただかなくてはなりませんからな。

しかしあれほど素晴らしい料理をなさる方はそうそう見つかりませんよ、このパンという食べ物にもずいぶん驚かされましたが、それだけではなくどの皿をとってもまるで百年は先の国から来たようなものばかりで、いや、うちでレストランを出していただきたいくらいなのに、いやはや、キャロトリアの聖者様をまさかお雇いするなんて恐れ多いことをするわけにはいきませんから、本当に残念で残念で」

食事はさっさと終わらせてキッチンを飛び回るように働くつみれを見ながら老紳士はそう言った。老紳士の宿の食事は専属料理人が行っていたが、素朴な塩焼きしか出さないこの村の料理に比べれば、居酒屋バイトで鍛えたつみれの腕前は比べようもない。料理人に乞われるままに連日次々とそのテクニックを披露していた。ここの湖で捕れるエルス鱒を、これまた村で作ったバターとくるみでソテーする。次の日はイチからおろして刺し身のお造り。開きにして野菜やクリームで詰め物をしてからロースト。つみれからしてみれば勤務先でこれまで出してきた平凡な一皿の改変だが、どれを作っても全員が魔法を見ているような顔で称賛してくるので妙な気分だった。

最後にキッチンをしっかりと清掃するところまで手伝ってから、つみれは「よし!はーやっぱ魚料理っていいよね〜」と言い、あいかわらずのフリルだらけのエプロンを脱いだ。スリアミドラが、声をかける。

「つみれ様、いかがでしたか?」

「うん、楽しかったよ!久しぶりにフル回転したっていうか、やっぱ料理が好きだなって思ったし……それに見慣れないこの世界特有の食材も多くて、ここのキッチンを使わせてもらえていい練習になったよ。」

「じきにわたし達のお店も毎日フル回転になるでしょうからご安心くださいっ!それに、一週間の間にわたしも少しはパンなら作れるようになってきましたし……つみれ様には好きなだけお料理を研究していただきたいです!」

熱い夢に燃えさかるスリアミドラは力強く言った。輝かしいつみれをもっと近くで見ていたいし、それに衣装道楽なキャロトリア王家の一員としては、せっかくヒンベーレで仕立て屋に頼んだ衣装をまだ着れずにいるのはこの上なくソワソワする。

「あなた方ならどこでも成功しますでしょうて。ところで、お嬢さん方、次はどこにお向かいになられる予定ですかな?」

老紳士は訊ねる。「ここからだと、谷を抜けて東にある海沿いのセイラゴンか、あるいは少し遠いですが北に真っすぐ行った先にはここリシアの首都、サンソヴールがありますな……」

「うみ?」

「書物にいうところのしょっぱい湖という場所ですか?」

スリアミドラとアルトは海というもののイメージがよくつかめないようで眉を寄せた。

「そうですね、それは興味深いのですが、うーん、リシアはキャロトリアでさえ名前を聞く有名国ですから、その首都を訪問するというのは王室のものとしては外交上重要ですし……」

老紳士はふうむ、と頷くと、「職業柄いつでも手元においてましてな、」と言いながら慣れた手付きで近くの書棚から地図を取り出し、三人にわかりやすいように見せた。

「まだ行き先が決まってないようでしたら、こういうのはどうですかな?まず、リシアの首都、サンソヴールに行かれて王室にご挨拶されてから、その後セイラゴンに向かわれる。ここは大きな港町として有名でしての、そこから船が出ておりまして……サンソヴールの北にあるこの凍死で名高い山脈を横断せずに、その後ろにある砂漠地帯に行く唯一の手段として有名な航路ですじゃ。もしお嬢さん方がそのあとの砂漠地帯にも行かれる予定なら、このルートは文句なしですよ。なにしろそうでなければ、この砂漠地帯を往くには西から大きな迂回をするか、この山脈を越えるかしかありませんからのう。」

「この航路は一般の旅人向けではなく商業用のルートと私の持っている地図にはありましたが……、」とアルトがためらいながら質問した。キャロトリアの地図は情報が古いので自信がない。

老紳士はそのとおり、ですがな……と言ってから笑って答えた。

「なにしろ、この港は私の息子が管轄している領土でしての……この老人めが一筆書いてお助けできますでしょう」と老紳士は笑った。

この一言はスリアミドラの背中を強く押した。アルトも、新しい街ですでに後ろ盾があるというのはありがたいです、と頷く。

こうして次の進路は決まった。

①フェンネル、エシャロット、リーキを少量のバターで炒めマスタードとクリームで煮立てたら、火からおろし冷ます。

②エルス鱒は頭と尾を切り落とし、三枚おろしにする。

③十分に冷ました①を②でロールし、陶器なとわの耐熱皿に乗せたら表面に塩、みじん切りにしたエストラゴン、細かいパン粉を混ぜたものを十分に振りかけかまどで火が通るまで焼く。

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