大都市ヒンベーレにご用心!5
宿の食堂で、他の客たち同様、つみれたちは夕食のテーブルを囲んでいた。晩ごはんには早い時間とはいえ、名物料理を食べようとするお客がすでにちらほらと集ってきている。
昼間のおかみさんが「はいっお待たせっ」と言いながらその逞しい腕で軽快に料理を運んできてくれて、テーブルの上はあっという間に賑わった。
焦げ目がつくまでしっかり焼かれた大きなソーセージにとろりと溶けたチーズがこれでもかというくらいかけられていて、食欲をそそる。横には銅の大鍋で茹でられたフェンネルまるごと一株が盛られていて、いかにも田舎らしい豪快な料理といった感じで、この家庭的な宿の雰囲気にあっていた。
「熱いから気をつけなね」と注意するおかみさんをよそに、つみれがフォークを突き刺すと、ソーセージから肉汁が溢れ出す。
(これは相当のカロリーを覚悟しないとね……、午後丘まで登って消費しといて良かったー)
そう思いながらコクのあるチーズを下品なくらいにたっぷりと絡め口に入れる。
普段の食事とは違いすぎる料理のありかたにどうしていいのかわからない様子のスリアミドラとアルトも、つみれが食べる様子を見ておずおずと真似て食べだした。二人がちらちらとつみれを見ながら、上品な仕草で一口大にソーセージを切り分け、つみれ同様フォークをチーズの中に泳がせる仕草を見ていたおかみさんは笑いだした。
「まあーこんなお上品なお客さんははじめてだよ、あんたたちの馬車もそうだけど、相当名のあるとこのお育ちなんかねえ、面白いったらないよ。うちの名物料理、気に入ってくれたかい?」
スリアミドラは初めての力強い味に目を白黒させながらも、こくこくとうなずき、「大変興味深い味です、美味しいです」と丁寧に答えた。その答えにおかみさんはまた大笑いし、あんたたち気に入ったよ、なんかあったらいつでも呼びなよ、と言いながら出ていった。
「行っておしまいになられたということは、給仕などはつかないのですね」とスリアミドラは不思議そうな顔をして言った。
「そういえば、お昼のカフェでも、泊めていただいた教会でも、お給仕の方は最初と最後にしか来られませんでしたね。なんだかこういうのって、秘密のパーティーみたいで楽しいです!」
うふふふ、と笑うスリアミドラに改めて身分差を感じつつ、つみれは今の間に片付けておこう、と話を切り出した。
「その……晩ごはん早めにさせてもらった理由なんだけど、あの、もし疲れてなければ、すりみちゃん……、に助手として早速手伝ってほしいことがあるんだけど、ど、どうかな」
ウサ耳をぴくぴくとさせながらスリアミドラは「いいえっすみれ様のお手伝いでしたら、いつでもなんでもお申し付けください!!!」と張り切った。アルトも、「後学のために拝見させていただきます。」と申し出る。
「どんなお手伝いをすればよろしいのでしょう!?」
スリアミドラはすでに嬉しそうだ。つみれのためになにかできるということそのものが嬉しいのだろう。ただつみれはどう説明したらいいか迷いに迷った挙げ句、
「うーん、す、すりみちゃん、あの、パンの話してたの覚えてる?」と訊き返した。
「はいっもちろんです!いまつみれ様が作りたいものナンバー1だとおっしゃってた、ふわふわでカリカリでもちもちというもののことですね!」
「そう、酵母っていう、それをつくるのに必要なものの材料なんだけど ……」
スリアミドラはつみれが話し終わる前に胸の前で手を合わせて目をキラキラと輝かせ、よくわかりもしないのに
「お任せください!」と保証した。




