大都市ヒンベーレにご用心!4
ウェイトレスのお姉さんの反応は明るかった。
「あらそんなに珍しいもんじゃないじゃない、木苺なんて!……と思ったけど、お客さん、ここの人じゃないみたいだね、」
と、ネズミ耳のないつみれの頭を見て彼女は納得したように言葉を続けた。「そのへんでも売ってるけど、時間があるならあそこ、北の貨車発着口の横のツグミの丘の頂上らへんに行けばたくさん野生のが生えているから、散歩がてら行ってみるといいよ。あそこは隣の国との境目で風景もすごくきれいだしね。」
カウンターで洗われたコップを次々と慣れた手付きで拭きながらお姉さんは明るく行った。動きに合わせて腕輪がきらきらと輝く。
散歩がてらの木苺摘み、なかなか退屈しのぎにはいいだろうし、スリアミドラもそういうのは好きに違いない。つみれはお礼を言うとさっそくスリアミドラとアルトがいるテラスに戻った。
「それで木苺というのは、どのくらい集めたらよろしいのでしょうか?」
ゆるやかな風が吹き抜ける丘を楽しそうに登りながらスリアミドラが訊ねた。王城暮らしの彼女にとっては、こんな広々とした自然の中を公然と歩けること自体が楽しいのだろう。ドレスにもかかわらず踊るように楽しそうに跳ねる。比べて現代文化どっぷりで育ったつみれは必死で歩いていく。
「え、えーと、理想はとりあえずかごいっぱいかな、どのくらいあるのかわからないし」
アルトが持ってくれている大きな編みかごをちらっと見ながらつみれは答えた。
ツグミの丘を登っているのはつみれ達三人以外に誰もいなかった。風が草むらを抜ける音と時折鳥がさえずる音以外は、どこまでも静かで、のどかだ。
中腹まで登ると、下のほうで人々が荷物を馬車に積み込んでいるにぎやかな光景が見えた。宿屋のおかみさんが言っていた、外国へと旅立つ商人たちの発着口なのだろう。たくさんの馬車が草原の向こう、あちこちへと走っていくし、たくさんの馬車がここを目指して走ってきているのが見える。(なんか、ここほんとうに日本じゃないんだなー……)
随分と、遠い世界にいるんだな。とつみれは改めて実感しながら、足を止めてその景色を見おろしていた。そんな思いとは裏腹に、少し離れた場所から、スリアミドラがはずんだ声を上げた。
「あっさっそく見つけましたっ!!つみれ様っこちらですっ、木苺、ここにたくさん成ってますっ!!!」
そう言いながら奥の木陰の茂みに入っていく。ウサ耳をぴょこぴょこさせながら木苺を摘むスリアミドラの姿は、とにかく可憐で子供のように愛らしく、どこか高揚したつみれの気持ちを和ませた。つみれは景色を見るのをやめ、スリアミドラと一緒い摘み始めた。
一時間もしないうちに、かごは木苺でいっぱいになった。
「そろそろ、よろしいでしょう」
そういうアルトの合図で三人はやっと立ち上がった。ずっと下を向いて木苺を探していたので、頭が重いし足も疲れている。つみれは思わず草むらに足を投げ出し背伸びをした。
「ふうーっこんなのはじめてやったから、疲れたーっ」
「つみれ様も初めてだったのですか?」
スリアミドラもいつもどおり上品に座ると微笑んだ。こちらは特に疲れてもいないようだ。
「うーん、私が住んでたとこってそういう自然がいっぱいなとこじゃなかったし、休日は寝るだけで終わってたし……それにふだん食材ってスーパーかコンビニでちゃちゃっと買ってくるだけだし。」
「スーパー……」スリアミドラは知らない言葉をただ反復する。
「つみれ様は随分とお忙しい生活をされていたのですね。」
とアルトが言った。
「うん、まあ、だから、こういう過ごし方するのって、おもしろいなって。まだ、どういうとこかよくわかってないけど、どこに行ってもいいし、なにしてもいいし。」
そよ風が顔を撫でていくのを感じながらつみれはゆるくこたえた。
「それに、ふたりとも優しいしさあ……」
つみれは思いがけず、ぽろっと言葉にしてしまってはっとしたが、まあ、いいか。と思った。頼りにされていて、かつ気遣ってもらえて、うれしいと思っているのは、ほんとうのことだ。
スリアミドラはどう答えたらいいのかわからず、ただ、
「つみれ様……」
とつぶやき、目を細めた。それから、気を取り直したように、つみれの顔の上まで身を乗り出すように近づくと、顔を覗き込み、
「そうだ、どうせですから頂上まで行ってみませんか?すぐそこですし」とつみれに言った。
つみれは、「えー足だるいよ」とめんどくさそうに言ったが、もう遅い。スリアミドラはすっと立ち上がりつみれを引っ張り起こすと駆け出した。
午後の太陽は傾きつつあった。引っ張りもつれ合う二人をゆっくりと追いながら、アルトも人知れず微笑んだ。
いまさら気づいたんですけど、この小説、タイトルの ❣(記号) が 他のパソコンから見ると絵文字になっててちょっと笑っちゃいました。治せるのかな???




