大都市ヒンベーレにご用心!1
ヒンベーレ、他国への玄関口でありブレナのほぼすべての作物が輸出のために通るこの街は、王都とは比べ物にならないほど大きかった。ブレナ様式の建物はどれも素朴な石造りで彩りこそ地味だがそれはそれで味わいがあり、にぎやかな喧騒が街に入る前から溢れてくる。
つみれたちの馬車は大きく開かれた街の正門を何事もなくくぐり抜けると、まずは宿を探すべく街の中心地に向かった。
「あ、あそこ、よさそうな気がします、いかがですか?」
大きな茅葺きの屋根が美しい一軒の宿屋を前にスリアミドラがそう言い、馬車は停車した。
「空いてるかどうか訊いて参りましょう、」と言い、重い木製のドアを開けるだけで、威勢のよいおかみさんの声が飛び出してきた。三人はあっという間に引き込まれる。
「はいいらっしゃい!お泊りのお客さんかね?そんなとこで待ってないで入っておいでよ!」
部屋三つに馬車を二台預けたいと淡々と説明するアルトに、恰幅の良いおかみさんはふんふんとうなずき、「あんたたちは運がいいよ、上の階に三室ちょうど空きがあってね、街を見下ろせる一番いい部屋さ」と言うとアルトに宿帳への記入を促しつつ、
「それにしても、ここは結構いろんな国のお客さんで繁盛してるつもりなんだけど、あんたたちみたいな長い耳した人ははじめて見たよ。あたしゃ地図は読めないから外国のことはよく知らなんだけど、さぞかし遠いとこから来たんだろうねえ」とおおらかな笑顔で言った。
スリアミドラは「うふふ、きっとそのうちもっと見かけるようになりますわ」と微笑んで返し、
「じつはわたしも地図を読むのは苦手で、よろしければこの街の見どころをお教えいただきたいのですが、ご存知でしょうか?」
と丁寧に尋ねた。
おかみさんはその質問を待っていたと言わんばかりに
「当然さあ、うちはひいひいばあさんの時代からここでやってますからね、この街のことならなんでも言えるよ。ヒンベーレの見どころといえば、もちろん中心地、ここからすぐの市場だろうね。外国からの商人がよくいろいろ売りに来ているよ。
それと北にある貨車の発着口なんかも有名だね。馬車が大勢留まっていて、ブレナ小麦を外国に運んでいくんだよ。
え、名物の食べ物といえば……うーん、もちろんブレナチーズ、あとはあんたたちブレナ王都にはもう寄って来たならご存じのとおり、クレープだねえ。よければうちで夕食とっとくといいよ、ソーセージのブレナチーズがけはうちの看板だからねえ味は保証するよ!」
と言った。元気よくすらすらと答えるおかみさんの言葉は信頼できそうだ。じゃあお願いします、と言うと、おかみさんに荷物を預け、三人はさっそく街を堪能すべく外に出た。
開けた街の雰囲気にワクワクとしたスリアミドラと対象的に、つみれはおかみさんの勢いに押されていつもの物怖じする性格がでてきてしまっていた。すりみちゃん、やアルトにはだいぶ慣れてきたが、やっぱり人との何気ない会話は苦手だ。
そんなことを考えながら三人は市場に通じる門壁をくぐった。
そこはブレナ王都ともキャロトリアとも全く異なった大市場だった。いや、ブレナ王都にも小麦の取引所があり商人で随分にぎわっていたが、それとは桁違いだ。王都では取引所のあたりの大通り一本だけに多くの商人が群がっていたし、彼らはプロの商売人としての厳しさが第一に漂っていたが、ここは底抜けに明るく、それにブレナ王国あちこちからここに買い物に来ているのだろう、一般のお客の賑わいもあって街全体が明るく盛り上がっていた。
興奮を鎮めるために突然深呼吸をはじめたスリアミドラをおいてつみれとアルトは手早く話し合った。
「つみれ様、調理器具をお求めになられたいと伺っておりましたが、私も国王陛下にご報告するためこの街の経済状態など少し調査したいと思いますので、よろしければどこかで落ち合うというのはいかがでしょうか」
「あ、いいね、私もどのくらい時間かかるかよくわかんないし……」
「では二時間後、そこのカフェでお会いしましょう、もし一時間後になってもお互いお見かけしないようでしたら宿で直接……」
「わかった、そうしよ!」
近くにあrるカフェを指すアルトにつみれはうなずいたところで、やった会話に追いついたスリアミドラもはしゃいだ声を上げた。
「ああっ、それでしたら、私もやらなければならないことがありますから、アルトついて来てくださいますか?」
嬉しそうに両手をぱちりと胸の上で合わせてにこにこと微笑むすりアミドラは天使のようだ。初めての大きな街でなにかショッピングをしたいというのは、この歳の少女なら当然のことだろう。つみれは明るく「了解!」と答え、それぞれの道に別れた。




