お風呂上がりにご用心!2
え、きもちい……
ふわふわとしたここちよい暖かいものが自分を包んでいる感覚だけがわかる。あたたかいムースの上で寝ているような、ホイップクリームのおふろのなかにいるような、そして高級な毛布にくるまれているような夢のように心地よいこの感覚……
つみれははっと目を覚ました。
誰かの、上に乗っている。というか、寝かせられている、?
慌てて顔を上げ確認しようとすると、急に「きゃ、」とかわいい声が聞こえてさらに驚いた。
次第に視界がはっきりしだす。まず、つみれは、自分が誰かに膝枕されていたということを再確認し、それからそれがとてもやわらかい女性のものであること、なにかよくわからないがこの女性の体が薄いピンク色のふわふわしたマントとこれまた同色の柔らかなピンク色のワンピースのようなもので覆われていること、そしてなにより、この女性がものすっごい美少女で、自分のことを心配そうな顔で見つめていて、かつあたまにおおきなウサ耳をはやしているというということ、が確認できた。
うさ耳。ふむふむ私はこのウサ耳姫様のコスプレした女子の膝でうっかり寝ていたわけね、うんうん仕事終わりの自宅で、うん疲れすぎて私の頭っておかしくなったんだよね。
ウサ耳美少女と目があい、二人はお互いににっこりとしあった。それから、数秒の沈黙があり、つみれはやっと大声を出した。
「えいやいやいやいや何!?!?あなたがコスプレイヤー地縛霊っそうならお願いしますっ来るなら来週15連勤後の休日にしてくださいっアッ腰いたっ!!!」
光の速さで正座すると、そう言って目をぎゅっとつぶってがたがたと震える。
そんなつみれのことを曇った顔で心配そうに見つめたまま、ようやく、ウサ耳は声を出した。
「あ、あの、まだ気分悪いんですか……?」
それから手を差し伸べ、こう言い足した。
「ご、ごめんなさい、わたしがいきなりぶつかったからですよね……す、すみません……」そう言いながら、なにか考えたような顔をしたあと、彼女は「あ、」と急に嬉しそうな声を上げ、ポケットをまさぐりあるものを取り出した。美しい装飾細工が施されたピルケースに入っていた緑色の丸薬だった。
それを一粒手に握りしめると、まだがたがたと震えているつみれの顔を見つめ、意を決したようにつみれの肩をぐっと掴むと、自分のほうを向かせて、もう片方の手でむりやり口をこじ開けその丸薬を放り込んだ。
はたしてつみれは「ギェビッ」と彼氏いない歴=年齢を理由付ける不気味な声を出して白目を向いたが、すぐにおとなしくなり、少し苦しそうなうめき声を出したあと、急にスッキリとした顔でパチンと目を覚ました。
「あ、あれ、……私、ソファから落っこちて腰を打ったはずなのに、どこも痛くない……」
すっかりいつもの落ち着きを取り戻したつみれは、ウサ耳に抱きしめられていることに気づいた。つみれがまた暴れだす前に、ウサ耳はしっかりと相手の手を取り目を見つめて「急にお邪魔してしまってごめんなさい、ちょっとした手違いで、驚かせるつもりはまったくなかったんです!」 とはっきり言った。
まだよくわかってないようでじっと見ているだけのつみれに、ウサ耳はこれ幸いと語りだした。だがそれはつみれを混乱させるばかりだった。
「わ、わたしは、キャロトリア王国の第二王女、この度は王国を代表すべくこの異世界まであなたを探しに参りました、ス、スリアミドラと申し上げます、お目にかかれて光栄です」
そう言ってかしこまったお辞儀をした。なるほど、お姫様。それで大げさなマントに美しいワンピース、というかドレスを纏っていたわけだ。が、それをあっさり受け入れられるほどつみれは柔軟ではなかった。
(うんうんそういうアニメとかあるよねーでもそんなアニメ今期あってたっけ?忙しすぎて最近アニメチェックさぼってたからなー)
そんなことを考えながら黙って聞いている。そうと知らずスリアミドラ、と名乗ったこのウサ耳王女は懇々と語り続けた。
「わ、わたしは、わたしの姉にして次期国王直々の命令を遂行するため、無理を承知でお願いに上がりました。どうか、私達キャロトリア王国の和平を確実なものにするべく、あなたのお力をお貸しいただきたいのです。」
真剣な顔で床に手を付き語るすりみを前に、つみれは(最近のコスプレイヤーってほんとすっごい……)と、目の前に突き出されたすりみの胸に目が釘付けだった。コルセットでしめあげられた体からはじけんばかりにせり出た、ふたつの球体。それが、すりみの真剣な勢いに合わせて窮屈そうにぽよぽよと揺れるのから目線をごまかすことができない。
(この揺れかた豊胸とかじゃなくて本物だよね〜ほんとすごすぎしかもいいにおいするほんとこの子かわいいほんと実写アニメじゃんしかも顔も仕草もほんと、女の子!!!て感じで何うらやましすぎお姫さまのコスプレ選ぶだけのことあるわ私と格が違い過ぎ……)
思わず吸い込まれそうになりながらつみれはとりあえず話を聞いているふりをするべくうんうんとうなづく。
「というわけで、わたしと一緒に来てくださいませんか!?」
「、え、あ、う?」