国王陛下にご用心!2
スリアミドラが再びぎこちない手付きでカップにお茶を注ぎ渡すと、国王は、彼女に負けないくらい大げさなうやうやしいお辞儀をしつつ受け取った。
「はや、これがかの麗しき第二王女の淹れる、お茶というものなれば、いかなる心で飲むべきか……老いさらばえたわが体はおのずから答えようぞ」
そう言うと、顔にカップを近づけ、厳しい顔で香りをかぐと、無言でぐっとこれもまたエルトのように飲み干した。そのままカップをテーブルに静かに置く。ことり、と音が響いた。思いがけず全員の視線が国王の顔に注がれる。その顔は、目を閉じ厳しい表情を作ったまま、変化がない。全員が息をのんだ。やはり、こんな人物でもそれなりに国王として忠誠心を集めるなにかがあるのだろう、とつみれだけはひとり場違いに感心していた。
国王が口を開く。「これは……」
そして急に目をカッと見開くと、「決まりじゃ!!!!」と鋭く叫んだ。どういうことなのか雷鳴がまた鳴り響き稲光が厨房内に幾つも落ちる。
「キャッ お、お父様、おやめください!!!!」
紫色の閃光の中でルナフィオラとスリアミドラが大きな声をだす。メイド姉妹は冷静さを保っていたが、つみれは、気がつくと床に情けない格好で尻もちをついていた。
「や、やば、え、なにこれ死ぬかと思った、雷、め、め、目の前に落ちた……」
「つ、つみれ様、大丈夫ですか、お気を確かに!!!」
スリアミドラがいち早く駆け寄る。がくがくと震えるばかりのつみれを揺すって、正気に戻るまで声をかけ続けた。
ルナフィオラは「お、父、様!!雷鳴の魔術を只の演出にお使いにならないでください!!!つみれ様が怯えておしまいではありませんか!!!」と怒りをあらわにするが、言われている当の本人はまったく意に介さない風で、演劇という名の宣告を下した。
「スリアミドラよ、これは王命である。
今すぐ!旅支度を整え、すぐさまその若き魂を旅に出されよ!さあ、聖者とともに、ゆけ、お前が次期国王の目となり足となるのだ!!!」
背後に巨大な稲妻がド派手に落ちた。爆発音なんていうレベルではない、それに釣られるように外では雨が降り始めた。王があまりに膨大なエネルギーの雷の魔力を一気に放出したことで、天候がひっぱられたのだ。ただでさえ天気が変わりやすい高山地帯にあるこの国で、国王の操るこの魔法の威力は絶大だった。
「待ってくださいお父様、お父様のせいで外が大雨ではありませんか!スリアミドラを雨の中外に出すつもりですか!!」
厳しい口調で抗議するルナフィオラを国王は認めなかった。
「これぞ恵みの雨である……行け、正門にお前の旅立ちのための新しい馬車を二台用意しておる!お前の若い精神が燃えたぎっている今こそ、ためらわずに身を投げ出すべきなのだ!」
左手を胸に、右手をこれ以上できないほど高く上げながら国王は高らかに命じ、そしてそのまま雷鳴とともに、消えてしまった。それは、現れたときの唐突さ同様、去るのも唐突だった。
スリアミドラは、床に座り込み呆然としたままのつみれを抱きしめたまま、何も言わず大きな眼を見開いていた。




