国王陛下にご用心!1
熱意に満ちた表情で決意を語るスリアミドラに誰かがなにかを言うまもなく、あたりは激しい雷鳴のようなものが急に響いた。
「ギヒャッ」急な轟音につみれは驚き目をつぶった。衝撃で舌を噛みそうになる。昨晩からずっと空も晴れてて雨が降る気配なんてなかったのに、と思いながら目を慌てて開くと、何事も、なかった。ただ、一つ違っていたのは、誰もいなかった厨房の入り口に、もくもくと湧き上がる雲煙に紛れて、一人の老人が立っていたことだった。
つみれが更に大声を出す前に、その老人はかっと目を見開くと、涙をほとばしらせ大声を響かせた。
「しかと聞いたぞ、スリアミドラよ!!!!」
その声に珍しくルナフィオラが強く叫んだ。
「お父様、どうしたのですか!」
つみれにはまったく状況がわからない。どうやらその老人は、というか改めてよく見ると、いかにもといった格好をしている。金の王冠にファーの付いた緋色のマント、白ひげ、豪華なステッキ、ステレオタイプもこれ以上ないというほど完璧に王様だ。ただ、なぜ急にこんな王様然とした王様がここに飛び込んできたのかはわからない。え、お父様?
「え……え!?お父さん!?!?似てな!!!!!!」
つみれの口から正直な気持ちが思わず飛び出てしまった。確かに、ルナフィオラもスリアミドラも、この老人と同じ赤い瞳に銀髪(まあ、こっちはただの加齢では?)をしているが、いや、この涙を滝のように流しながら叫ぶ老人と麗しくみずみずしい王女二人が親子とは、まったく想像がつかない。
「感動の雷に張り裂けんばかりの、この我が涙を、見よ!!」
驚きと強い制止がこもったルナフィオラの質問にも動じず、老人はやけに芝居がかった言葉とポーズを続ける。きっと劇場で主役を演じている気分なのだろう。
しかし、ルナフィオラが次期国王だというのなら、この老人こそいかにも現国王なのだろう。つみれはこの素っ頓狂な芝居になにをどうしたらいいかわからず、ただその老人に視線が縛り付けられた。
「儂は、感動に満ち満ちておる、スリアミドラ、キャロトリアの第二王女よ、かつてお前がこんなにも強い意志を見せたことがあっただろうか、いやない!!!!
物心ついたときから、常にお前は聡明なるお前の姉、ルナフィオラに国政の総てを任せきり何も自分で考えようとしなかったた、そのお前が、今こんなにも、キャロトリアのため己の意思を滾らせておる!!これぞ、生命の芸術である……。」
老人はセリフを言い終わると同時に腕を天に伸ばし、そのまま床にうずくまった。沈黙が幕を下ろして三秒くらい経過しただろうか。ルナフィオラの背後でふと旋風が起こった。つみれにも見覚えがある、例の『風』だ。
果たして旋風のなかから、お辞儀をした例のメイド、アルトの姉にしてルナフィオラ直属のエルトが現れた。頭を下げたまま、
「すみません姫、本日の姫君方の朝餐はこちらで行われますゆえ通常の朝餐室には参られませんとと上奏しに行ったところ、王殿下もこちらに来たいと申されまして、止めようもなく……」と申し訳無さそうな顔で告げた。「完全に私の失態にございます」
そう恥辱に満ちた表情で謝罪するエルトに、ルナフィオラは
「あなたの失敗ではありません、お父様は、誰にもどうしようもできませんから……。」とため息をつきながら答えた。そして、まだうずくまり続ける父に、
「それで、何の御用だったのですか?」と訊ねた。
「お父様が急に現れるものだから、つみれ様も驚いてしまわれています!お父様には朝餐のあとでご紹介さしあげるおつもりでしたのに。それに、スリアミドラだって、せっかく意を決して意思を表したというのに、こうやってお父様劇場をされてはびっくりさせてしまいます!」
小言を言うルナフィオラはツンケンとした様子だが、彼女にしては珍しく、年相応の普通の娘の態度といった感じでつみれには微笑ましかった。きっとエルトとアルトのメイド姉妹にとってもそうなのだろう。動きにこそ出さないが目つきに柔らかいものが垣間見える。
「なぜその美しき声を、そんなにも荒げるのだ、我が娘よ、その声は雷鳴が轟くがごとく……。父は、いや、この老体はただただ称賛しに来たのだ、若き生命の鼓動の強さを!!!青春、礼讃!!!!」
また演劇の幕が開き呆れた顔をするルナフィオラとスリアミドラをよそに、つみれはエルトに声をかけていた。
「そそ、エ、エルトさん、だよね、今日アルトさんに教えてもらいました。昨日はお世話になりました!それで、今、ちょうど、お茶を淹れたとこなんです、その、お姫様に手伝ってもらって。で、よければ飲んでってもらえればと思うんですけど」
最初からそのつもりで用意していた、五つ目のカップをエルトに差し出す。エルトは驚いた顔つきでカップとつみれを交互に見る。
「だ、誰かに呼んでもらおうと思ってたとこだったから、そっちから来てくれてよかったよ」
つみれは恥ずかしそうに付け加えた。あまり話したことがないものと話すのは、やっぱり苦手だ。それに、いまだに第二王女の名前がうまく発音できる自信がなくて、どうしても名前で呼べない。
エルトは「……お気持ちに感謝します」と言うと、渡されたお茶をけげんな顔で見つめた。きっと、昨日スリアミドラがお茶と言い張った苦臭い液体のようなイメージがあるのだろう、熱いにもかかわらず一気に飲み干す。
そして、喉に残るその芳香に戸惑ったような顔を見せた。
「これは……」
その様を隙無く見ていた国王も、ルナフィオラの小言を無視してテーブルに着くと、
「さて、召喚されし聖者よ、いかなる魔術を以てスリアミドラの決意を固めさせたのか、我が五感に教え給え」と言った。もちろんマントを巻き付かせた片腕をつみれのほうに差し出した演技がかったポーズは忘れない。つみれは、急に話を振られて一瞬息が詰まったが、アルトがぬかりなく用意した六つ目のカップをスリアミドラに手渡し難を逃れた。
「あ、は、はい、せっかくだから、お父さんに淹れてあげて、ね」
この国王とか言う人は、調子のいいおじさんって感じでおもしろくはあるが、関わるとめんどうなタイプだ。とつみれは長年の経験から直感的に察していた。それに国王という立場の者とどう話したらいいのかそもそもわからない。
ブックマークしてくれてる人がいるって知りました!ほんとうにうれしい、ありがとうございまーす!
うれしいのでこの回はあなたのために書きました!




