お城の厨房にご用心!2
一式なのだろう、頭用のメイドブリムも渡されたものの流石につけず、つみれは袖をまくりあげながら厨房のど真ん中に陣どった。自然と腕組みをしてしまう。わくわくする。今だけとはいえ、私がリーダーシェフなのだ。居酒屋バイトとして裏で瓶ビールの在庫をチェックしたり魚を下ごしらえしているのとはわけが違う。こんな中世のお城然としたところで、騎士の食事でも抱えてそうな立派な厨房にいるのだ。意外にも調理器具なんかは最低限それなりにあるし、当然、きもちはパンやポタージュなど居酒屋とは無関係なメニューに向かって高鳴っていた。
「でも、ここ本当に使っちゃって大丈夫なんですか?」少し心配になったつみれはアルトに尋ねた。
「構いません、使用人たちの食事はそれ用の厨房があります。ここは本来、二百年程度前までは他国からの貴賓をおもてなしするための料理を作っていた場所で、今も伝統的に毎日手入れをして食材も最低限補充しておりますが、料理人という制度も他国からのお客様もない今はどなたもお使いになっておられません。私が管理しているだけです。」
(ううーこういうところでロールパンとか焼いたらすっっごいテンションあがるだろうなあっ シナモンロールとかも朝食向きかな、パン系は今仕込めばぎりぎり朝に間に合うし。それかオートミールに旬のフルーツのサラダなんかも軽くていいかも。あっこの大きな素焼きの鍋でのスープも捨てがたいなー朝は体温めなきゃね)
ところでそもそも食材はどんだけあるのだろうか。棚に並んだ籠をのぞくと、決してバラエティに富んでいるとは言えないが、それなりに、ある。だが、この食材でなにかを組み立てるというのは結構難しいだろう。それはそれで挑戦のしがいがある。
わくわくした様子でうろうろといろいろな抽斗を開けてはプロの顔つきで「よし!」と確認するつみれの様子を遠くから見ていたアルトは、目を大きくしていた。表情が表に出ない彼女にしては珍しいことだったが、料理人、というものをはじめて目の当たりにしたアルトにとってそれは物珍しい光景だった。
アルトの観察によると、つみれは先程から次々と食材を手にとっては色々な角度から眺め回し、うなずいたり首を傾げたりしながらテーブルに置いてはまたうーんと唸ったりしている。そしてつみれの様子から行くと、どうも小麦粉の入った壺を前に何やら苦心しているようだった。アルトは声をかけた。
「なにかご入用でしょうか」
「あ、アルトさん」 集中しきっていたのかつみれははっとしたように答えた。
「あ、あの、この小麦粉って、薄力粉なのか強力粉なのか知ってたりしますか?ちょっと見ただけじゃわかんないなーって思って」
軽い気持ちで聞いたつみれは、アルトが返答に迷って思いがけずフリーズしきっているのに気づいて焦った。
「えあ、あのごめんなさい専門じゃないからわかんないですよね!えーとすみません、じゃとりあえず酵母どこにあるか教えてもらえますか」
こちらの質問も同様だった。アルトは無表情のまま凍りついている。そして正直に「申し訳ございません、その、酵母というのがなんだか私には……桶でしたらそちらにございますが……」と答え深々と謝罪の姿勢を取った。
「あっそ、そっか、わかりました、オッケーです、なんでもないです、」
思いもかけない返事に戸惑ったつみれは、それ以上問わないことに決めた。彼女がたまたま知らないだけか、それともこの国にはそもそも存在しないものなのか、料理をしない国なのだから当然後者だろう。これまで客人がまったくなかった王城といえど、つみれのバイト先の10分の1の品揃えもない棚を見る限り明白だ。
これは、まあやりがいがありそうだ。そう思いながらつみれは調理用ナイフを握りしめた。




