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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第4章 領域解放編

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まだ見ぬ強敵よ

 タヴの鐘の上に現れた巨大なモンスター。

 トンボと表現したが、正確にはトンボではない。細い体に、反対側が透けて見える4枚の(はね)という特徴はあるが、前足はカマキリの鎌で、尾の先端には蜂の針が生えている。

 じゃあ、昆虫のキメラなのかと思えば、顔はまるでドラゴンのようにイカついし、全体的な皮膚感も鱗っぽい。


「あれも主なのか?」


 1番知ってそうなレフトに問う。

「どうだろうな。少なくとも、ベータ版にはいなかったが」

「……なるほど」

 予想通りではないらしい。

 その割には楽しそうな表情をしているが、ギガアントライオン戦では消化不足だったりするのだろうか。


「巨大トンボ、か」


 その見た目から連想するのは、ウスバカゲロウ。蟻地獄の成虫だ。

 ヴァルキュリアを倒したら、バグルヴァーゴッデスが出てきたパターンもあるので、あれが真の主だとしても驚きはない。


「あれは、ギガアンドライゴン。と言うらしい」


 その声は、レフトでも、アーケインでもない。

 声のした方を向くと、黒い鎧の上に毛皮のコートを羽織った小太りなおじさんがいた。頭頂部が禿げ上がった姿はいかにも金持ちと言った風体だ。

「あなたは?」

 レフトが問う。

「これは失礼した。私はアイオダイン。通りすがりの物知りおじさんのようなものだ」

 腹に手を当て、丁寧な動作でお辞儀をするアイオダイン。お腹が出ているせいであまり角度はなかったが。

「……運営の人間なのか?」

「はっは。君は面白いことを言うね。だが、違うよ」

 U18トーナメントでの件を通して、敏感になっているのだろうが、そんなに運営と関係のあるプレイヤーばかりいても困るだろ。


「あのモンスターの名前を言い当てたであろう力は、チート。情報、インフォメーション。見るだけで、相手の情報がわかるようなチートだよ。ーーレフト殿」


 さらりとプレイヤー名で呼んでくるアイオダイン。

「……名前以外もわかるのか?」

「もちろん」

 腰に手を当て、ふっと笑う。

「ギガアンドライゴンは本来、ダイペーゲンの小領域の主だ。けれど、小領域の主を5体倒したプレイヤーが現れたので、それを見に来た。という事らしい」

「らしいって」

 思わず漏れた呟きに、アイオダインはこちらを向いた。

「私はチートで表示された文章を読んでいるだけだから、確定は出来ないのだよ。ーーライト殿」

 こちらを見てはいるが、視線は合わない。僅かにズレたその先には、俺の情報が表示されているのだろうか。

「襲ってくるのか?」

 聞きながら、レフトは杖を構えていた。

 戦う気満々らしい。

「いや、見に来たというからには見に来ただけだ。こちらから仕掛けなければ、戦う意思はない。だろう」

 最後に不安にしてくるな。


「そして、若人達には、戦わないことをオススメしておこうと思うよ」


 優しく言い、アイオダインはアーケインの方を向いた。

「ギガアンドライゴンは、君が防御力を上げて、盾を持って、それでも耐えきれなかった(・・・・・・・・)ギガアントライオンと同じ物理攻撃力を誇る。らしいからね」


 こちらを向く。

「しかも、颯爽と草原を駆け巡る、かのヴェノムウルフと同じ速度から放たれる。ようだ」


 レフトへと目を向けた。

「例え距離を取ろうとも、ナイトマジシャンに並ぶ魔法攻撃力から魔法を放ってくる。みたいだね」


 足でリズムを取りながら、アイオダインは視線を巡らせる。

「攻撃面は小領域の主の完全上位互換ってわけか」

「攻撃だけではなく、防御力も。っぽいね」

 レフトの問いに、今度は巨大トンボーーギガアンドライゴンを見た。

「脆そうに見えるが、真の硬さは見た目だけでなく、ステータス次第。だろうからね。

 かのギガアンドライゴンは、オーガナイトと同じ物理防御力、スカルサーペントと同じ魔法防御力で耐えてくる。という事らしい」

 断定はせず、婉曲表現で教えてくれる物知りおじさん。


 だが、その情報を聞いてもなお、レフトの目には戦意が宿っていた。いや、それは俺も同じだろう。

 小領域の主の良いとこ取りだとしても、負ける気はしない。

「アーケイン。武器を戻すぞ」

「そうであるな」

 如意練鎚を渡して、常夜の斧(オールナイトアクス)を受け取る。10数分振りに戻ってきた斧は、やはり手にしっくりときた。

 術者の手から斧が離れ、夜空が霧散する。

 それが合図だったかのように、巨大トンボの複眼が、ギョロリ、とこちらを見た。


「ピシャァァ!」


 甲高い悲鳴のような鳴き声を上げ、巨大トンボが翅と動かし始める。最初はゆっくりと、それが段々と早くなっていき、見えないほどの速度へ至った。

 俺は肩に担いで赤く輝いた斧を勢いよく投げる。

 真っ直ぐに飛んでいった斧だが、俺の意に反して、ギガアンドライゴンの手前で方向転換。

 何にも触れることなく、手元へ戻ってきた(・・)

「射程圏外ってことか?」

 そもそも、チートが発動していない。

 明らかに初見の相手でもあるにも関わらずだ。


「もう一度言おう。本当に見に来ただけ。らしい」


 アイオダインの言葉に答えるように、ギガアンドライゴンはゆっくりと浮き上がると、北の空へと飛んで行った。


 ◇


 ギガアンドライゴンの1件が落ち着いてからは、特に大きなイベントもなく、プレイヤーによる邪魔が入ることもなく、レベル上げに集中出来た。

 というか、それが普通なのだ。やることなすこと尽く他のプレイヤーに絡まれることこそ異常なのである。

 レフトとしては消化不良だったのか、少し機嫌が荒れていたけども。

 0時を回るまでレベリングを行ったおかげで、レベルは成長限界(Lv21)へ到達した。


 そして、運命の日。


 日が昇るよりも早い時間に目覚ましをセットし、その目覚ましが鳴るよりも早く起きて、ゲームにログイン。

 寝不足のはずだが、そんなことは気にならないくらい身体中から力が溢れてくる。集合時間の10時に余裕をもって向かうために、狩りを行うのは9時までだ。

 それから貯まったVRY(ブライ)と相談しながら装備を新調し、回復アイテムを十全に買い揃える。

「さ、行くか」

 意気揚々と、俺は集合場所である【レーシュの丘】に向かった。

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