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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第1章 戦いの始まり編
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獣人の少年

 銀髪の少女を見失った俺は闘技場(コロシアム)を後にした。今の状態でキングレオ・ラヌートの群れと再戦しても倒せるとは思えないし、やらなければならないことでもないからだ。

 というわけで、向かうのはタヴの鐘。その道中でラビーヴァや青虫(キャタパル)といった敵を倒していると、レベルが1つ上がり、新たなスキルを獲得した。

 メニューを開いてスキルを確認する。

 【物理防御力強化1】。読んで字のごとく、物理防御力を上昇させるスキルで、技の習得などはない。

 まぁ、戦士とは相性がいいスキルか。他のスキルよりも無駄にならなそうなので、3ポイントだけ振って、物理防御力を上げておく。


「ちょっと、いいですか?」

 後ろから声がかけられた。PKの類かとも思ったが、それなら声をかけてくるのは不自然だ。

 少し警戒しつつ振り返ると、そこにいたのは幼い雰囲気の黄色い獣人だった。

 全身を覆う黄色い体毛に、地面までは僅かに届かない尻尾。指の先には長い爪が生えており、頬には左右3本のひげと、頭には三角形の耳。

 わかりやすくいえば、猫の、獣人だ。

「あの、ですね」

 武器は構えていない。だが、腰には剣がぶら下がっていた。あれが武器だろうか。

 いや、彼は【獣人(WARBEAST)】だ。種族の観点から言えば、あの鋭く長い爪こそが武器だろう。

 種族・職業は、見た目だけではなくスキルにも影響を与えるのだ。例えば剣士(FENCER)を選べば武器スキルは剣のみとなる。

 ならば、獣人を選ぶことで爪が武器スキルとなる可能性は高い。


「あのー、いいですか?」

 返事をしなかったせいか、猫獣人は不安げな表情を浮かべていた。

「あ、大丈夫です」

 俺が返事をしたことで、猫獣人は安堵した表情を見せる。VRゲームだと感情がわかりやすいというが、彼の場合は特に顕著だな。

「あの、僕はリオンといいます」

 名乗りを上げて、猫獣人ーー【リオン】は勢いよく頭を下げる。そういえば、他のプレイヤーの名前を聞くのは初めてだな。

 タヴの鐘について教えてくれた鍛治小人(DWARF)闘技場(コロシアム)で会った(GRA)(DIA)(TOR)にも聞いておけばよかったか。

 と、そんなことより今は目の前の猫獣人(リオン)だ。


「俺はライトだ。よろしく、リオン」

 メニューからプロフィールを選択し、実体化させてリオンに差し出す。現実世界における名刺交換のようなものであり、偽造できないプロフィールゆえに信頼度も高い。ちょこっと豆知識にあった自己紹介の方法だ。

 やるのは初めてだが。

「え、あ、ありがとうございます」

 リオンは受け取ったプロフィールカードをまじまじと見た後、がばっと顔を上げた。

「もしかして、ベータテストの方ですか!」

 豆知識を読んでいないのか、リオンは俺がすでにやり込(ベータテスト)んでいる人(プレイヤー)ではないかと思ったらしい。

「いや、今日が初だよ」

 VRゲームには多く触れてきたが、このゲームについては今日始めたばかりの初心者(ニュービー)だ。勘違いを利用するメリットもないし、誤解はすぐに解くに限る。 

「あ、そうなんですか……」

 リオンは寂しそうに俯いた。ご丁寧に耳とひげまで垂れ下がっている。

 他のVRゲームでも亜人アバターを選べるものは少なくないが、表情についてはレベルの低いものが多かった。亜人特有のパーツは装飾品と同じような扱いであり、動きに合わせて動くことあっても、表情に合わせて自然に動くというのはとても少なかったのだ。

 ここまで自然な動きは、すごいとしか言い様がない。

「あ! 今のやり方教えてください」

 憧れの眼差しともいえそうな顔で見つめられ、俺はゆっくりと操作しながら、手順を説明した。自分で考えろ、などとは言わないである。

 見様見真似でリオンが出したプロフィールには、俺のと同じように名前、性別、種族、ステータスが書かれていた。

 ページを進めれば他の情報も開示できるが、そこまでする必要はない。

 リオンの性別は男――少なくともアバターは――であり、種族はほぼ予想した通り【(WARB)(EAST)(-CAT)】。

 幼虫とは遭遇しなかったのか、逃げてきたのか、レベルは1のまま。ステータス的には、素早さが高めで、物理魔法とも防御が低めといったところか。


「ありがとうございます。ところで、すでに戦闘とかもやっていたりするんですか?」

 見上げるように訊いてくるリオン。その顔とプロフィールをみれば、何を言おうとしているのかは大体予想がつく。

「偉そうに言えるほどじゃないけど、戦闘練習でも付き合おうか?」

 リオンは激しく頷いた。


 メニューを呼び出し、【対戦(DUEL)申請】を選択。相手の名前を入力し、1番下にある申請ボタンを押す。

 途中にある【賭け】という項目はスルーした。

 目の前に小さなウィンドウが現れ、猫少年はビクッと震える。背中の毛が逆立ち、尻尾がピンと伸びる様はまさに猫そのものだ。

「画面の下にある、受理するって書かれたボタンを押してくれ」

 リオンは言われるまま画面を操作した。信頼されてるのは楽でいいが、素直に信じすぎてて危なっかしさを感じる。

 おそらく、VRだけでなくMMOという分野もやり慣れてはいないのだろう。

「これで、大丈夫ですか?」

 リオンが対戦(DUEL)申請を受理したことで、試合開始のカウントダウンが始まった。

 それを見て不安そうになるリオン。

「カウントダウンが終われば勝負開始だ。あとはやりながら説明するよ」

「お願いします!」

 リオンは剣――おそらくは銅の剣――を構える。様になっているとは言えないが、構えについては俺もにわかでしかないから何も言えない。

 俺もリオンと同じ剣を装備し、構えた。

 カウントダウンが終わり、開始を告げるブザーが鳴り響く。


「メニューを開いて、所有スキルを確認して」

 リオンがゆっくりとした動きで、メニューを開いた。

 このゲームでは対戦中でもフィールドと同じようにメニューの操作が出来る。アイテムによる回復や装備を変えることはもちろん、ログアウトまで可能なのだ。

 降伏と同じ扱いになるからやる人はいないと思うが。

「えーと、獣人(ワービースト)(ねこ)】、剣、ワイルド、料理の4つです」

 爪は武器になると思ったのだが、スキルは剣なのか。

「スキル技を習得出来るスキルはあるか?」

「はい、えーと、料理以外全部、です」

「それなら、どれかで1つ目の技を覚えるまでスキルポイントを振ってみるといい」

 ふと、相手に対して砕けた口調で会話をしていることに気がついた。

 動きがたどたどしく年下にしか見えないせいだとは思うが、もし年上だったらどうしようかと考える。

 考えたが、気にしても仕方ないので、気にしないことにした。

「……剣に振りました!」

「なら、習得した技のモーションを確認」

 考えごとをしていても、不思議と返事はすんなりと出る。もしかして俺って……。

「確認しました!」

 一瞬。一瞬だけ、俺ってすごいんじゃないか。とか思った。

 でも、冷静に考えると他の人も割とやってることなのではないかと思う。

「なら、技の説明に書かれてるモーションをやれば、勝手に技が発動してくれるはずだ」

 はずだ。ちょこっと豆知識の最初の方に書いてあったから。

 ちなみに、俺も文章スキル以外はスキル技が習得出来るようになっていたので、最初の6ポイントと合わせて、初期技がない代わりの対処だと思われる。


「はい! 行きますよ!」

 リオンが右肩の上に剣を構えた。剣が赤く光を帯びると、剣を振り下ろす。

 射程範囲外に俺が存在したのだろう。リオンは引っ張られるように1歩前に踏み込んだ。

 その軌道上に剣を出して、攻撃を受け止める。

 目の前で剣を振り上げたまま呆けた顔をするリオン。その腹部を剣の腹で軽く小突いた。

 軽い一撃だったが、HPは大きく減少し、リオンは後ろに倒れた。

 レベル差は4。それだけでも、戦闘における実力差はそれなりにつくらしい。まだ低いレベルだからというのもあるのだが。

「強いですね……」

「まあ、俺はレベルあがってるし、スキルも振ってあるからな」

 剣にではないが。

「今の剣以外の二つで、何か手に入れてみたいスキルはあるか?」

「え?」

 なんで、という顔のリオン。説明を省きすぎたか。

「技の選択肢がある方が戦いやすくなるからな」

「なるほど」

 雑な説明でも納得したようで、リオンは自分のスキルを一生懸命に見ている。ちなみに偉そうに言った俺は物理防御力しか上げていないので、スキル技は1つも使えない。


 リオンは2つのスキルの間で指を忙しなく動かしていた。

 なお、メニューには可視不可視の設定が存在する。不可視設定にしない限りは、周りにいる人もメニューを見ることが出来るのだ。

 もちろん個人情報やチャットの内容なども。

 遠近感仕様によって、遠くからでも簡単に見えるということはないが、こうして近くで向かい合っている分には反転してるだけで文字は十分に読めてしまう。

 俺自身も念のために不可視設定にしているし、教えておくか。

「ワイルドにします!」

 だが、俺が声をかけるよりリオンが声をかけてくるほうが先だった。

「やってみるか」

「はい! いきますよ!」

 どうやらすでに振ったらしく、リオンが大きく息を吸い込む。リオンの体が(ほの)かに赤みを帯びた。

 数泊遅れて、何をやるつもりか理解し、距離を取ろうとするが間に合わない。せめて耳をふさごうとしたところで、


「にゃ、にゃあ!」


 聞こえてきたのは、猫の声真似だった。

 だが、弱々しいその声とは裏腹に、一陣の風が走り抜け、身体が動かせなく――おそらくスタン状態に――なっている。

 声を発したということが重要であって、声量や台詞は関係ないのだろう。ただ、弱々しい猫の鳴き真似で怯まされるのは複雑な気分だった。

「ど、どうですか? 僕の、おたけび」

「なかなかに、いい技だと思うよ」

 スタン状態から回復した俺は再び剣を構える。

「さあ、その二つをうまく使ってみな!」

「はい!」

 リオンは元気に答えた。

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