アルカナの使徒達
ライトの前にシャドウが現れる少し前。
レフトは足元に展開された魔法陣によって、別の場所へと飛ばされていた。ダンジョンのトラップに引っかかったかと思ったが、違う。
ぽつりぽつりと松明の火が灯る。
レフトを取り囲むように9個。
それはレフトを取り囲むプレイヤーの数でもあった。
素性を隠すためか、みな一様にフードを目深に被っており、色々な体格のプレイヤーがいるということしか分からない。
その中で、レフトの正面に立つ小柄な人影が一歩、前に出る。
「トーナメントの時は、よくもやってくれたね」
その声には心当たりがあった。
ゆっくりと少年がフードを外す。
「シャドウか。ってことは、ネラもどっかにいるのか?」
「いないよ。姉さんはこんな数押しは好きじゃないからね」
自嘲するような苦笑。それは一瞬だけで、不敵な笑みへと切り変わった。
「君こそ、頼りの騎士と引き離されて、本当は不安でいっぱいなんじゃないのかい?」
「はっ、そんなわけないだろ」
「その慢心を砕くために、数の暴力ってのを教えてあげるよ」
「出来るもんなら、やってみろよ」
レフトの挑発には答えずに、シャドウは背を向けて、歩き出す。
「それじゃ、あとは任せたよ。【教皇】さん」
「ハハッ。承りました」
シャドウの右にいた人物が前に出て、左にいた1番大柄な1人は彼に着いていった。残りは7人。
「では、手早く終わらせるとしますか」
手前に立つ教皇が、静かに錫杖を構える。それに呼応するように、他のプレイヤー達も武器を構えた。
武器を持った集団に囲まれてなお、レフトの余裕は崩れない。
「お前たちもシャドウ、黒影の仲間なのか?」
一拍の沈黙。
プレイヤー達は互いに目配せを交わし、それから全員が一斉に教皇へと視線を向けた。
「ハハッ。まあ、話してあげても良いでしょう」
全員の視線を受け、教皇は愉快そうに笑う。
「まず、私達は共闘関係にはありますが、仲間というわけではありません。
あなたが【厄災占王】へと至る可能性を潰す為、彼によって集められたのです」
「穏やかじゃないな」
そして、たまたま巻き込まれたわけじゃないことが確定した。
「ハハッ。シャドウ曰く【厄災占王】に至るためには、1度の敗北も許されない、と」
錫杖を掲げ、滔々と語る教皇。
「ならば、数押しで負けさせてしまえばいいというわけですな。ハハッ」
全てのアルカナ系チート持ちを倒すことで発現するユニークチート。倒されれば権利を失うというのは、筋が通っている。
「でも、確証はないだろ」
そもそも、厄災占王自体、アーケインの言っていた情報しかない為、レフトとしては信用しきれていなかった。
「ありませんねぇ、ハハッ」
シャドウや教皇の情報源がわかるかと思ったが、そう上手くはいかないらしい。
「そんな曖昧な情報に、自分の可能性を賭けるのか」
「ハハッ。それは違いますよ」
教皇は乱暴に錫杖を突き立てる。その動きにはどこか苛立ちが感じられた。
「私はすでに権利を失っています。どこぞの獣のせいでねっ!」
フードから覗く口が噛み締められる。
「だから、死なば諸共というわけですよ! ハハッ」
「ーー否。我は声を荒らげて語る【教皇】の考察を、否定します」
曲刀を持ったフードが前に出た。
声からすると女性。だが、フードから覗く顔は人間ではなく蛇のそれであり、蛇人と呼ぶのが相応しいだろう。
「我々は彼から依頼を受けたまで。一切の私情は入っていません」
「ハハッ。そうでしたか」
依頼というワード。そして、蛇人の特徴的な話し方にレフトは覚えがあった。
「お前、レヴィか」
「我は確信を持って問いかけてくるレフトに、拍手を返します。【身隠しの外套】で顔を隠しているのによくわかりましたね」
「いや、前も似たような格好だっただろ……」
無感情に拍手する蛇人に、レフトは苦笑いを浮かべる。
「あぁ、既視感があると思ったら、マリウスとヴォルフが談論風発していた例の魔法使いですか」
レヴィの横、細剣を構えた女性が反応した。
「それなら、戦士の方にリベンジしたかったのですが、二者択一を誤りましたね」
「我は小さく舌打ちをした【吊るし人】を叱ります。依頼に私情を持ち込まないように」
「も、申し訳ありません。レヴーーこ、【恋人】様」
吊るし人、と呼ばれた女は、フードで顔の上半分を隠した上で、口元も左半分が白い仮面で覆われていた。
外套から出ている手や足も白いことと、流星のような細剣。そして四罪天達と知り合いであることから、その正体は察せされる。
「ベール、だったか」
U18トーナメントの本戦でライトが戦った相手だ。
「全面否定。私は【吊るし人】です」
「……その呼び名、意味あるのか?」
外套も含め、正体を隠そうしている割には、口調などを誤魔化す気がなさ過ぎる。
「そ、それは……」
「我は後輩を援護し、答える。あなた以外の我々が、今後に遺恨を残さないために必要だと」
「レヴィ様……」
ベール(暫定)が熱っぽい声を漏らした。
言葉の意味までは届いてないようだ。
「我も、その話は聞いておらんな」
2人との会話に区切りが着くと、レフトの背後、一際大きな男が声を発した。その手には、特徴的な赤いハンマー。
「……アーケインか」
「ぬは。よく分かったな」
アーケインは豪快に笑う。
「何回会ってると思ってんだよ」
それに規格外の体格とレア武器のせいで、レヴィとは別の意味で、外套が意味を成していなかった。
「我は単純に、レフトと戦う場を用意すると言われただけだ。こうなるとわかっていれば、断っていた」
「ハハッ。シャドウの二枚舌には困ったものですね」
アーケインに詰め寄られ、教皇が後退る。
「ですが、やる気がないなら、離れても結構ですよ。きっちり、報告はさせていただきますがね。ハハッ」
「ふん。好きにしろ」
教皇の横を通り抜け、アーケインは闇に消えた。
「なんや顔見知りばっかで、居心地悪いわ」
「「世間は意外と狭いってことですよ」」
短刀を持った青年のぼやきに、似たような鉈を持った2人の女が同時に反応する。
「おっ、息ぴったりやな。あんさんら、双子なん?」
「「こりゃ、失礼。こ」の娘のことは気にしないでください」
「ま、まぁ、そう言うんなら、触れんとくわ」
そのやり取りを聞き、レフトはもしやと視線を向けた。
3人とも、フードから見える口元に特徴はない。だが、途中で言葉を止めた女の頭上には、カーソルがなかった。
「なぁ、もしかしてーー」
「ボクは【塔】です。初めまして、左」
レフトの言葉を遮るように、答える塔。
わざわざ初対面を強調したあたり、むしろ知り合いである可能性が高くなったが、追求はしない。なぜか訳されたプレイヤー名もスルーすることにした。
「ハハッ。話したのは失敗でしたね」
素性が割れた恋人と吊るし人に、居なくなったアーケイン。テンションの下がった青年と動かなくなった月の相方。
悪化した味方の状況にため息をつきながら、教皇は錫杖を構えた。
「とはいえ、まだ数はこちらが優勢です。手早く終わーー」
「うぉらァ!」
教皇が吹っ飛ばされる。
「悪いな。気が変わった」
やったのはアーケイン。外套を脱ぎ捨て、機械の身体を露わにした大男が、赤いハンマーで打ち抜いたのだ。
「やはりこのようなやり方は気に食わぬ」
ハンマーを肩に担ぎ、アーケインはレフトに並ぶ。
「だから、レフト。貴様の味方になってやろう」
「敵の敵は味方、ってか」
「うむ。だが、代わりにひとつ、我の願いを聞いてくれるか」
傲慢な彼らしからぬ殊勝な態度。
「出来ることならな」
「貴様にしか出来ぬ事だ。ハーフライフで構わないから、我との一騎打ちを受けてくれ。
ーーこれで、最後だ」
道連れにしようとする教皇とは逆。自分なりのケジメをつけて、身を引こうとする。それも、HPが半分になった時点で終了するハーフライフ対戦で。
その敗北が条件にカウントされないのかは疑問だが。
「ふっ」
意外な気遣いをみせたアーケインに驚きつつも、レフトは口角を吊り上げて不敵な笑みを浮かべる。
「お前に負けたりはしないから、好きなだけ挑んでこいよ」
「ぬはっ! いいおるわ!」
小さく笑い合い、2人は武器をかち合わせた。
「ハハ、ハハハッ、ハーハッハッハ!」
教皇がゆらりと立ち上がる。
「一撃でHPを半分以上減らされるとは……。ハハッ、油断しましたな」
「倒すつもりだったのだがな」
「ハハッ、そうですか。それはあまり調子に乗らない方がいいですよ。あなたがそちらについたところで、まだ数はーー」
「ボクも抜けさせてもらうよ」
教皇の言葉を塔が遮った。
口元に笑みを浮かべながら、小走りでレフトの横に移動する。
「いいもの見せてもらったし、もっとヤっていいんですよ?」
「何もヤらねぇよ! てか、やっぱ、お前あの時の、……」
聞き覚えのある反応に答えようとして、言葉に詰まる。間違いなく会ったことはあるが、
「……名前、聞いてなかったな」
「【塔】、でいいですよ。左」
「それ、絶対違う意味で使ってるよな?」
「おりょ? 意外とそっちも詳しい感じで?」
嬉しそうにくっついてくる塔を、レフトは押し退けた。
「てか、そんな気軽に裏切っていいのか?」
「恩義に感じてるなら、あの戦士とイチャつく気になった時に、教えてくれると嬉しいな」
「だから、教えねぇよ」
腐った塔から視線を逸らし、教皇へと向き直る。
その近くには、恋人と吊るし人に短刀の青年。人数の減少を受けて、包囲網は崩れ、向かい合う形に変わっていた。
レフトは深く息を吸って、呼吸を整える。
「さあ、さっさと終わらせるぞ」
こんにちは、銀です。
たくさんのプレイヤーが出てきましたが、どの方も見覚えがある気がしますね。誰かさんの言ったみたいに、意外と世間は狭いのか。
それとも、意図的に巡り会うようになっていたのか。
レフトの戦いを心行くまで、ご堪能ください。




