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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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ユニークチート

 振り下ろし、振り上げ、薙ぎ払い。

 この中で警戒しなければならないのは、スタン効果のある振動を生み出す振り下ろしだ。これは武器で受けようが、体で受けようが、回避しようが、振動が伝わった時点でスタンしてしまうので、油断出来ない。

 逆に言えば、それさえ気をつけていれば、鈍重で大柄なアーケインにカウンターを叩き込むのは簡単だ。

 斧と剣による倍返し。

 こちらは武器のおかげで、素早さ、物理攻撃力、物理防御力が上昇し、途中で上手く決まった兜割りによって、相手の物理防御力は低下している。


 それでも、目の前の機械人間は倒れない。


 耐久型のステータスを舐めていた。あるいは、チートの効果でルークのようにHPを回復させているのか。

 俺のHPはあと一撃でも喰らえば0になるところまで減らされていた。

 後の先ではダメだ。


「やるしかないな」

 1度しか効かないであろう切り札をきる。

「ぬはっ。まだ何かあるのか、ライト!」

「黙って見ててくれると助かるな」

 俺は斧を肩に担いで、腰を落とした。

「生憎。出来ない相談だ」

 アーケインはハンマーを振り上げる。

 互いの武器が赤みを帯びた。狙うはカウンター。俺が斧の一撃を届かせるために近づいたところを、アーケインは怯ませる気でいるはずだ。

 そこをつく。

「くらえっ!」

「ぬっ!」

 放つは投擲斧(トマホーク)

 呆気にとられたアーケインの肩に直撃し、スキル技のタメが消えた。その事を横目に確認しながら懐へ飛び込み、剣を突き立てる。

 そんな俺の元に、アーケインを斬りつけながら、斧が戻ってきた。

 流れるような三連撃。


「やりおるな!」

 それでも、アーケインは倒れない。

 ここからでは離れるよりも早く、攻撃が来る。

 ーー何もしなければ。

「まだだ!」

 赤く輝く()で地面を踏みつける。

 僅かに地面が揺れ、アーケインの動きが止まーーらない?

「ぬはっ!」

 ハンマーが叩きつけられ、最後のHPが削られた。

「残念だったな。ライト」

「どうして……?」

「ふぬ。単純なことよ」

 勝ち誇るようにアーケインは笑う。


(THE C)(HARIOT)のたったひとつの効果は、怯ま(スタンし)ないことだ」



【   チームL  VS    逸鬼火星   】

【 ライト(Lv17)VS アーケイン(Lv18)】

【   LOSE        WIN    】



 視界が暗転し、控え室へと戻される。

 そこには、憮然とした表情で腕を組むレフトがいた。


「悪い、負けた」

 チートがなくても勝てると言ったにも関わらず負けたので、素直に謝るしかない。

「いや、いい」

「え?」

 てっきり敗北について責められると思ったのだが、レフトは真剣な顔のまま続ける。


「それよりも、さっきアーケインに言ってた話は本当なのか?」


 あの場では断定したが、確証はない。

 ただーー

「ギシンの森で言われたんだ。俺は、選ばれしプレイヤーだって」

「誰に?」

蟻神(ANT-GOD)アルジェンタムだよ」

 そういえば、ギシンの森攻略後の情報共有の時には説明しなかったな。とはいえ、その時は意味もわからなかったので、伝えたところで混乱していただけだろう。


「アルジェンタム……銀か」


 神妙な顔でレフトが頷いた。

 参加してないロキは首を傾げ、NPCたるバナジウムはこちらには目もくれず、決勝戦が始まったモニターを見ていた。

「受付のレニウム、死亡……シーボーギウム」

 うわ言のように名前を発するレフト。

 それから、ゆっくりと顔を上げたかと思うと、後ろを向いた。

 そこにいるのは、俺でも、ロキでもなく、モニターを見つめるひとりのNPC。


「なあ、あんたもなんか知ってたりするのか? バナジウム」


 名前を呼ばれた瞬間、その体が僅かに震える。

「…………んー? ここでフリーになるのね」

 声も、姿も変わらない。

 けれど、バナジウムの纏う雰囲気が変わった。

 まるで今初めてログインしたかのように、手を握って、開いて、動きを確かめている。

「やっぱりお前も運営側の人間なんだな」

「いいえ、違うわ」

 レフトの問いに笑みを浮かべながら答えるバナジウム。


「私はただのゲスト。あなたの戦いを近くで見届ける為にNPCの姿を借りただけの一般人よ」


 得意げに言い切る姿は、今までとはまるで別人だ。

「そんなことができる時点で一般人じゃないだろ」

「それもそうね」

 バナジウムがパチンと指を鳴らした。

「けれど、ホントに公式側の人間ではないの」

 その言葉に合わせ、バナジウムの姿が変化する。

 短い茶髪は、晴れ渡る空のような青い長髪へと。

 地味なワンピースは、胸当てや肩当てのついた鎧に。

 そして、頭上に浮かぶカーソルはNPCを示す白から、プレイヤーを示す青に変わっていた。


「私はエリス。あえていうなら、選ばれしプレイヤーよ」


 自信満々に胸を叩き、女騎士ーーエリスは勝気な笑みを浮かべる。

「ユニークチート持ちってことか」

「そ。まぁ、そちらのライトとは少し違う経緯だけどね」

 エリスの視線が俺に向けられ、すぐにレフトへと戻った。ロキの方は全く見ないが、ユニークチートに関わらないプレイヤーは眼中にないのだろうか。

「さっき、アーケインが言ってた話は本当なのか?」

「さぁ? 私は何も知らないわ」

 エリスは首を傾げる。

「どうして、NPCのフリしてたんだ?」

「さっきも言ったでしょ。戦いを近くで見届ける為よ」

「なんで、俺達だったんだ?」

「質問が多いわね」

「こんな機会はもうないかもしれないからな」

「確かにね。でも、辞めておくわ」

 笑顔で拒否された。


「そっちの方が、面白そうだから」


 その言葉に合わせて、俺達の足元に魔法陣が現れる。

「強引だな」

「私としてはもう少しお話しててもいんだけどね」

 エリスのウィンクに合わせて、視界が暗転した。


 という大袈裟な演出とは裏腹に、転送されたのは控え室の外。剣闘士(グラディエーター)達の喧騒に満ちた闘技場(コロシアム)の通路の一角だった。

 隣にはレフトと、ロキの姿もある。


 U18トーナメント 本戦 準決勝敗退。

 予選は2位通過だったので、領域解放戦に関わる情報もなし。

 だが、そんなことはどうでもいい。


 選ばれしプレイヤーと26種のユニークチート。

 そのひとつ【厄災(the AR)占王(CANA)】の鍵となるアルカナ系チート。

 NPCに成りすますことの出来るプレイヤーの存在。


 本来なら知るはずのないゲームの裏側。

 その一端を俺達は知ってしまった。


「なぁ、これからどうするんだ?」

 そんな俺の呟きに、

「どうするかなど決まっておろう」と、隻眼の侍。

「我は運命に従うまでよ!」と、少年が応える。

 そんな無駄に息ぴったりな2人の言葉に、


「あぁ、その通りだな」

 と、レフトが笑みを浮かべた。


「何を知ろうが、何を知らなかろうが、俺のやることは変わらない。

 他の誰の為でもなく、俺自身が楽しむ為に、やるべきことをやるだけだ」


 その堂々たる振る舞いは、まさに主人公。

 堂に入った宣言に、普段は賑やかなNPC達も口を噤む。

 だからこそ、問わねばならない。

「やるべきことってなんだよ?」

夜会(・・)に向けてのレベリングだな」

「夜会?」

「ウォーロック主催の10人の魔法使いによるサバイバルバトル。これに参加して生き残るのが、魔法使いのクエストにおける最後の試練だ」

「なるほど」

 魔法使い同士の戦いならレフトが有利そうだが、問題はサバイバルという点。

 ギシンの森を抜けたメンバーは同時に挑むことになるだろうから、コンビであるライダーとゼクレテーアが厄介だ。

 残り6人の枠に、彼らのギルドメンバーが入ってくる可能性もある。

 それでもーー

「勝てよ」


「1対9でも負けないから、安心しろ」


 レフトは不敵な笑みを浮かべた。


 ◇


 3人のプレイヤーがいなくなった控え室には、バナジウムーーもといエリスだけが残された。

 担当チームはいなくなったが、自分は強制退場させられないらしい。

 手持ち無沙汰なので、モニターへ視線を戻す。

 そこに映るのは総力戦(3VS3)の決勝。


逸鬼火星(いっきかせい)】VS【闘士(とうし)(ほま)れ】


 とはいえ、全員が残っている闘士の誉れに対して、逸鬼火星はすでにリーダーの赤鬼しか残っておらず、勝敗は見えている。

「何やってんだか、バカあーー」

「アンタがゲストってのは、謙遜が過ぎるんじゃないっすか」

 フランクな口調で話しかけてきたのは、赤褐色の全身鎧に身を包んだ少年。顔面まで覆う兜をつけているので顔の判別はつかないが、あどけなさの残る声はいかにも少年っぽい。


闘技場(COLOSSEUM)()悪ガキ(URCHIN)、だっけ?」

「……っすね。ま、先輩が勝手につけたあだ名なんで、好きに呼んでください」

「じゃ、アーちん。さっきの会話、盗み聞きしてたの?」

「まさか、ログを見ただけっすよ」

 VRゲームに会話ログは存在するのか。

VIP(・・・)のひとりなんすから、不用意な発言は辞めといた方がいいっすよ。今の(・・)も含めて」

 平坦な声音で続ける少年の発言は本気なのか冗談なのかよくわからなかった。

「気をつけるわ」

「助かるっす」

 少年はエリスの横に並ぶと、モニターへと視線を向ける。


「……ユニークチートに興味あったんすね」


 ひとりごとだろうか。

 問いかけにしては主語も疑問符もなかった少年の呟きに、エリスは少し間を置いてから答えた。

「人並みにはね」

「いや。ユニークチートとアルカナチート持ちがいるチーム選んどいて、それは無理あるっすよ」

「たまたま推し(・・)と同じところに2人がいただけよ」

「ロキっすか? 有名なVみたいっすけど、そんな変わっーー」

「ファンなのよ。(ジュエリー・)(ジャンキー)のね」

 少年の言葉を遮りながら、会員証を取り出す。

「……特注っすか」

「えぇ、そうよ」

 エリスは得意げに胸を張った。

 JJファンクラブ【QUARRY(クオーリー)】会員番号0005番。実物を忠実に再現した、ゲーム世界にひとつだけのレアアイテムである。


VIPの特権(・・・・・・)をそんなことに使う人、初めて見たっすよ」

「そんなこと?」

「……失言だったっす」

 少年が小さく頭を下げた。

 謝罪の言葉でさえ、声の調子は変わらない。


「誰を推すのも、個人の自由っすからね」


 来た時と同じように音もなく立ち去る少年。

 再びひとりになったエリスはモニターへと視線をもどす。

 画面の中では、闘士の誉れが、誰も欠けることなく優勝を決めたところだった。


 皆さん、こんにちは。

 今回のライトの敗北を持ちまして、第3章【U18トーナメント編】は閉幕となります。

 次回はレフトが自信満々に宣言した【夜会】の様子をお届け。

 次々回より、第4章【領域解放戦編】開幕です。

 プレイヤー達は強大なボスキャラにどのように挑んでいくのか。

 それでは、新たな局面を迎える物語を、心行くまで存分にご堪能ください。

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