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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第1章 戦いの始まり編
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初戦闘

 基礎領域(イェソド)の中央広場を後にして、タイルの敷きつめられた道を道なりに進み、目的地へと向かう林道へ足を踏み入れる。途中にもいくつか脇道があったが、そこはスルー。

 木々の隙間から木漏れ日の差す広めの林道を突き進んでいると、突然、地面が盛り上がった。


「フシャー」

 地面の中から現れたのは芋虫、より正確に表現するなら甲虫(かぶとむし)の幼虫だ。ただし、その大きさは本物とは比較にならない。直立すれば大人くらいのサイズはあるだろう。

「フシャー」

 再び鳴いた幼虫の上で、三角形のカーソルが踊った。真っ赤に光るそのカーソルは、幼虫が敵――モンスターあることを示すものだ。

 腰の鞘から剣を引き抜いた。正面に構え、幼虫の動きをうかがう。

「フシャー」

 幼虫は真っ直ぐに前進。見た目からイメージしていたよりは素早いが、見切れないほどじゃない。横に体を反らして躱し、剣を振り下ろす。

「フシャ!」

 幼虫は痛がるように体を捻った。

 剣を引き抜き、(きっさき)を頭へと向ける。

 ちょこっと豆知識によると、攻撃を当てた場所によってダメージが変わることは基本的にないが、1部のモンスターに設定されている弱点(WEEK )部位(POINT)だけは、ダメージが大きくなるらしい。

 シンプルな造形の幼虫型のモンスターにおいて、可能性が高いのは頭だろう。

 ドスドスと方向を変えようとする幼虫の頭部めがけて、剣を振り下ろす。

「ギッ!」

 幼虫は短い悲鳴をあげ、動きを止め、ポリゴンの欠片となって消滅した。3という数字が空中に現れ、消える。経験値の表示だろうか。

 剣を構えたまま周囲を見渡すが、新たな敵が出てくる様子はない。

「……終わりか」

 剣を鞘へと戻し、1歩踏み出す。


「フシャー」

「はえーよ!」

 歩き出した瞬間に新たな幼虫が姿を現した。

 次は剣を収める前に少し歩こう。そんなことを考えながら、戻したばかりの剣を引き抜いた。

 狙うのはもちろん、頭。弱点(WEEK )部位(POINT)かどうかを確かめる絶好の機会だ。

「来いよ」

「フシャー」

 俺の挑発に応えるように、幼虫は突進してくる。

 その姿を正面に見据えながら、ゆっくりと剣を振り上げる。大事なのはタイミングだ。リズムゲームで鍛えられたリズム魂を見せてやる。

「フッ」

「ん?」

 幼虫が突然、立ち止まった。

「シャー!」

 口から糸を吐き出す。

「な!?」

 いやいや、ちょっと待て。甲虫の幼虫は糸吐かないだろ。

 幸いというべきか、糸は体に絡みついて僅かな不快感を与えると、すぐに消えた。その代わりとでも言わんばかりに【素早さ低下】のデバフアイコンが現れる。

 まあ、糸がずっと絡みついてるよりはマシか。

「フシャー」

 チャンスとばかりに幼虫が進む。相手の動きを封じてから攻撃する。実に理にかなった判断だがーー

「悪いな」

 ーーあいにく、素早さが下がろうが関係ない。

「ギッ!」

 頭を一刀両断すると、幼虫は一撃でポリゴンの欠片となった。一部のモンスターは弱点を破壊すると一撃で倒せるらしいが、単純にダメージ量で倒せた可能性もある。

 そんなことを考えていると、視界の端に【LEVEL UP】という文字が現れた。細かい内容が出てこないのは、敵が残っている時にレベルが上がった場合のためだろう。

 レベルアップ時にはHPとMPが満タンに回復する仕様もあるが、ダメージを受けていないので関係ない。

「行くか」

 不定期に現れる幼虫――固有名【ラビーヴァ】――を倒しながら、林道を進んで行った。


「あれだな」

 視界が開け、広場が現れる。

 中心には巨大な鐘。あれがタヴの鐘だろう。鐘の周りには色違いのベンチがいくつも置いてある。

 ただし、今は誰もいない。

 もう少し最初の広場で時間を潰していても良かったか。とはいっても、いまから戻るのは手間だ。

 ベンチに座り、到着した旨をメッセージアプリで伝えるが、メッセージを見る気配はない。

「コロシアムにでも行ってみるか」

 待つのを諦め、動き出した俺の前で地面がボコッと隆起した。


「シュゥ」

 中から飛び出してきたのは甲虫の幼虫(ラビーヴァ)――ではない。

 形は幼虫だが、ラビーヴァより角張っており、色も白ではなく緑色。あえて例えるなら、蝶の幼虫――青虫だ。

「シュゥ」

 青虫はゆっくりと上体を起こし、糸を吐き出す。ラビーヴァの時とは違い、見た目通りの攻撃だ。

 俺は微動だにせずに、糸を浴びた。程なくして糸は消え、【素早さ低下】のアイコンが現れる。あとは、突っ込んで来たところを迎え撃てば……

「ん?」

「シュゥ」

 青虫は再び糸を吐き出した。

 それも、俺に向かってではなく真上に向かって。空中で勢いをなくした糸は、重力に引かれるように落下し、青虫自身の体に絡みついた。

「何がしたいんだ?」

「シュゥ」

 俺の問いに応えるかのように、青虫は糸を吐き出し、体に糸を絡める。

「シュゥ」

 攻撃を仕掛けて来る気配はない。

 青虫はひたすらに糸を吐き、体を白く染めていく。白く? 

 俺の体についた糸はすぐに消えた。だが、青虫に絡みついた糸は消えていない。糸を体に巻き付ける。その行為こそが、目的だとすれば……。

(まゆ)か」

「シュゥ」

 予想を肯定するように、青虫が纏う糸が艶を帯びていく。半分だけではあるが、それは紛うことなき繭であった。

 待っていれば蝶になると思われるが、強くなり過ぎては困る。変化がゆっくりであることも含めて、早めに倒すのがよいのだろう。

 半分白くなりつつある青虫の頭を目掛けて、剣を振り下ろす。

「シュッ!」

 青虫は奇声を上げながら、糸を吐く。

 2度3度と攻撃を繰り返し、4度目の斬撃にて青虫を葬り去った。それだけ苦労したにも関わらず、表示された経験値は3。一撃で倒せるようになったラビーヴァと同じ数値だ。

 ついで現れる【LEVEL UP】の文字。

 序盤だからか、レベルアップのペースが早い。コロシアムに行く前にもうひとつレベルを上げておくか。


 皆さん、こんにちは。

 後書き係の銀です。

 第2回のテーマは【カーソル】について。

 カーソルとは、アットホーム・オンラインの世界の住人の頭上に浮かんでいる三角形のことです。

 色は青、赤、白の3色があり、プレイヤー、モンスター、NPCの3種族に対応しています。基本は全ての人に表示されていますが、個別に非表示設定も選べるので、没入感を大事にする人は非表示にしているそうです。

 ちなみに、私はただの音声ガイドなのでカーソルは存在しません。

 それでは、また次回お会いしましょう。

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