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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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レーシュの丘の主

 領域解放戦と星具(せいぐ)の件がひと段落したので、休憩をとることになった。レフトの一存で、再集合は1時間後になり、俺は軽く昼食を済ませて、再ログイン。約束の30分前には中央広場に戻ってきた。

 レベルが上がって、スキルポイントも入ったから、新たな特技のひとつでもーー


「来たな」


 黒ずくめの魔法使いが、すでに居た。

「早いな。ちゃんと食べて来たのか?」

「細かいことは気にすんな。それより、早く行くぞ」

 食事のための休憩だから食べてきたかどうかは細かいことではないと思うのだが。というより、なぜ、集合時間より早く来たのに急かされなければならないんだ。

「ってか、行くってどこに?」

「いいから。早く行くぞ」

 レフトが手を引っ張ってくる。

「だから、どこにだよ」

 されるがままに引っ張られてみたが、程なく手は離れた。離したのではない。身軽な魔法使いの速度に、鈍足の戦士では追いつけなくなったのだ。

「離すなら離してもいいけど、早くしろよ」

 言いながら、レフトは再び走り出していた。

「ったく、わかったよ」

 素早さの違いはわかってるだろうに、無理難題を押し付けてくれる御仁である。だが、置いてけぼりにされるという選択肢はない。

 フェザーソードで素早さを上げ、俺は全力で追いかけた。


 その状態で、何とか追いすがること幾星霜。

 いや、実際はそんなにかかってない。中央広場を抜けて、ダイペーゲンへ入り、タイルの敷き詰められた人工的な道を西方に向かって走っていた。

 この辺に来るのは初めてだ。

「リャッ!」

 敵ーー化け兎が襲いかかってくる。

 初見の敵だと頭で理解するよりも早く、足がふわりと軽くなった。

「セイッ」

 一陣の風となって、切り捨てる。

 化け兎はその姿をポリゴンの欠片へと変え、砕け散った。チート状態で倒したので、経験値はない。

 少し遅れて、超加速状態も解除された。


「リャッ!」

 そして、現れる新たな兎。

 1度切れてしまったチートは、この兎には反応しない。さっきとは別個体なのは明らかだが、俺のチートは、相手にとって俺が初見かどうかではないのだ。

 俺にとっては、直前に戦った兎の同類。

 だからチートは発動しない。

「リャッ!」

 後ろ足に力を込め、兎が跳躍した。

 牙も爪も持たない兎がそこから仕掛けてくる攻撃は、シンプルな体当たり。避けようとしなかったためまともに食らったが、チートが発動していなくてもダメージは微々たるものだ。

 離れようとする兎を、剣で切りつける。

「リャァ……」

 敵はまだ倒れない。

「リャッ、ビッ!」

 再び跳ねた兎が、満月に叩き潰された。


「道中の敵とは戦わなくていいから、早く行くぞ」

「……わかったけど。トドメだけ持ってくなよ」

 チート発動してないのに、経験値が入らなかっただろ。

「ん? あぁ、そうだな、悪い」

 獲物を奪っていった魔法使いは、それだけ言って再び走り出した。何をそんなに急いでいるのかはわからないが、人の話はまともに聞いてなさそうだ。

「って、置いてくなよ」

 振り返ることなく走っていく魔法使いの背中を、俺は頑張って追いかけた。


 血走った目玉の兎。

 怪盗のような仮面をつけた狐。

 その兎や狐にも引けを取らない大きな鼠。

 甲高い鳴き声で他のモンスターを引き寄せる(スイーツバッシャー)

 草原の街道に出現するには相応しい獣達を、魔法使いの指示に従って、無視しながら進んでいく。まあ、初対面の敵にはチートが発動したので、軽く切り捨ててきたが。


【レーシュの丘】


 走り続けていると、視界の端に文字が浮かびあがった。景色が劇的に変わったりはしてないが、地面が緩やかに盛り上がっていることがわかる。

 そして、丘の上ではプレイヤーが獣に襲われていた。

 プレイヤーは2人。容姿端麗な金髪の天使と眉目秀麗な紫髪の堕天使だ。


 相対する獣は1体。黒と紫を基調としたボディに、緑の差し色が入った毒々しい色の狼だ。この丘の主なのか、体は道中の動物達よりもふたまわりくらい大きく、剥き出しになった歯茎から伸びる犬歯はそれ自体が武器として成立しそうなほどに大きく鋭い。

 いつかのレフトの言葉を借りるなら、レーシュ丘の【小領域の主】ヴェノムウルフか。


「まだ、耐えてるな!」

 魔法使いが立ち止まった。

 軽く振り返って俺が付いてきていることを確認すると、ニヤリと笑って、杖を振り上げる。

「さあ、ライト! あの獣を血祭りにあげてやれ!」

 まるで軍配のように、魔法使いは杖を振り払った。

「簡単に言ってくれるな」


「簡単だろ? お前のチート(・・・・・・)があれば(・・・・)


「なに?」

 意識するよりも早く、反射的に足が止まった。

 今の一言は無視出来ない。

 狙ったわけではないが、ピッタリと、俺は魔法使いの真横で立ち止まった。

「どうしたんだよ?」

 魔法使いは眉をひそめ、首を傾げる。ポリゴンの集合体とはいえ、その姿に違和感があるかと言われれば、そんなことはない。だが、


「なんでお前が俺のチートのことを知ってるんだ?」


 確かに、グリードやジャスティス、バグルヴァーゴッデスとの戦いでチートを見せたことはある。だがそれは、チート状態での戦いをみせただけで、その詳細について説明したことはない。

「え? 話してなかったの?」

 口調が崩れた。

「……お前は誰だ?」

「そ、それは」

「何が目的だ?」

「あのーー」

「本物のレフトはどこへやった?」

「だかーー」

「そもそも、どうやってーー」

「あー! もう!」

 偽レフトは声を張り上げ、杖を地面に叩きつける。


「こっちの話を聞け!」


 確かに、偽レフトの話は聞いていない。だが、そもそも偽物の言葉に耳を傾ける必要があるのだろうか。若干、周りが見えなくなっていた感はあるが、成りすましの言い訳を聞くつもりはない。

「なら、先に俺の質問に答えてもらおうか」

 首に剣を突きつけると、偽レフトの顔が引きつった。本物ならば絶対にしない反応だ。見ることのなかったはずの表情を見れたというのは、場違いながら少しだけ嬉しかった。

「い、いいだろう」

 怯えから一転、不敵とは言えないが、含みのある笑みを浮かべる偽レフト。本物と比べると随分と表情豊かな偽物だ。

 そんな些事は置いておくとして。


「お前は誰だ。いつ、どこから、どうやって、何のために、レフトの中に入った。なぜ、俺のチートを知っている?」


「質問多いなぁ!」

「誰もひとつだなんて言ってない」

「そうだけど……」

「いいから早く答えろ」

 この後に及んで答えをはぐらかそうとする偽レフトに詰め寄り、剣を首筋に添える。

「グルファ!」

「うるさい!」

 後ろから唸り声が聞こえてきたが、構ってる暇はない。空いてる手で振り払って、偽レフトに詰め寄る。

「やっぱ、つよ……」

「御託はいらない。早く答えろ」


 近づき過ぎて、偽物の首に剣が食い込んだ。現実ならば流血沙汰だが、ゲームの中で出血することはない。僅かに(・・・)HPが減ったくらいだろう。

 偽レフトの表情にも焦りはない。

 ゆっくりと手を上げると、目尻を下げて、ため息をこぼした。

「まず、勘違いしてるみたいだから訂正するけどーー」


「何をやってるんだよ。ロキ(・・)


 口調に似合わない透き通った女性の声。

 反射的に声のした方を向くと、金髪の天使と紫髪の堕天使がいた。2人が人ではないと判断したのは、背中に大きな一対の翼があるからだ。

 ヴァルキュリアを連想させる純白の翼を持つ彼女は天使だろうし、同じ形をしていながら漆黒に染まった翼を持つ彼は堕天使だろう。

 悪魔という可能性も低い。少なくとも、俺が知っている悪魔の翼は、蝙蝠のように体の1部が変質した肉付きのいい翼だ。間違っても、羽毛を集めたような柔らかな翼ではない。

 閑話休題。


 大事なのは2人の容姿ではない。思わず思考を放棄してしまったが、天使は明らかに偽レフトに向かって呼び掛けたのだ。

「ロキ、だと?」

 その名前には聞き覚えがあった。

 同名の別人という可能性もあるが、彼女だと考えると色々なことが腑に落ちる。というか、疑問は残るが、他の選択肢は考えられない。


「あの、ロキか?」


 恐る恐る振り返ると、ロキは色のない瞳で笑顔を浮かべていた。この顔は見覚えがある。本物のレフトがたまに見せる心は笑ってない笑みだ。

「この、ロキだ」

 三角帽子は虚空へと消えて、燃えるような赤髪が露わになる。黒き瞳にはルビーの如き深紅が宿り、魔法使いらしいローブはバンドマンらしいワイルドな革ジャンへと形を変えた。


「せっかくだ。正式に名乗らせてもらおうか」


 ロキの顔に不敵な笑みが浮かぶ。


 こんにちは、銀です。

 久しぶりに登場した小領域の主の1体、ヴェノムウルフでしたが、本編での扱いが可哀想だったので補足情報です。

 実は、タヴの鐘に生息するギガアントリオン以外の4体は、四すくみの生態をしています。

 ヴェノムウルフは、シンの巣穴のスカルサーペントを素早さで翻弄して、毒蛇を喰らって毒を蓄える。

 その毒によって蒸留された霊酒を、タフさでゴリ押して、ツァディーの丘のオーガナイトが強奪する。

 霊酒を煽り霊力を蓄えた角を持つ鬼達を、魔法に長けているコフの庭園のナイトマジシャン達が狩る。

 そこから魔法使い達が生成した魔力の欠片を、魔法防御の高いシンの巣穴のスカルサーペントが奪う。

 それぞれの長所と弱点が明確に分かれているからこその生態ですね。

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