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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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女神攻略戦

 開幕のトマホークは昨日と同じようにゴッデスにはダメージを与えられなかった。


「聞いてた通りねっ!」

 バニティは空を駆け上がり、短刀で切りかかる。

 その攻撃はすり抜けて躱されることなく、ゴッデスの青いHPを微かに減らした。が、機械仕掛けの腕が振るわれ、バニティは壁に叩きつけられる。

 ゴッデスが攻撃しようとしたから、当てられたのか。

 と、思った瞬間にゴッデスの体をすり抜けて、斧が戻ってきた。

 続けてーーおそらくーーレフトが放った火球が、ゴッデスのHPを削る。


「俺だけ当たらないとか、どんな仕様だよ」

 当たってくれとは言わないが、そんなに俺が憎いのか。と、現実逃避気味にリズムに乗ってみたところで状況は変わらない。


「痛いじゃないのっ!」

 スキルを発動させながら、バニティが突っ込んだ。そんな渾身の一撃は、ゴッデスの体をすり抜ける。無防備な彼女の背中に、ゴッデスは平手を打ちつけた。

 遠距離か直接かは関係なく、スキル技がすり抜けるパターンか。レフトの火球は当たってたから、魔法は当たるみたいだが。


 確かめるために、俺は再び斧を放った。

 狙いをつけた一撃は、しっかりとゴッデスの腹部を捉えーー傷を刻んだ。HPも、僅かだが削れている。

「なんだと?」

 喜ばしいことだが、かえって理屈が分からなくなった。


「ーー滅亡(めつぼう)(ひかり)


 女神の掌に浮かんだ玉から、眩い光が放たれる。距離をとって壁際にいたからか、そのダメージは3割程度だ。

 レフトのダメージは1割、バニティとマリウスのHPは4割ほど削られていた。祓魔師(EXORCIST)の耐久はわからないが、やはり魔法攻撃だと言う認識でいいのだろう。

 レフト以外がまともにダメージを受けるため、有難くない情報だ。


「――断罪の礫」


 光の向こうで、ゴッデスが動き出した。女神の手から放たれた球体は、空中で爆散し、小さな光の粒を降り注がせる。

 開幕の一撃とは違い、壁際に寄っていても避けられない。だが、無抵抗に裁かれる必要はないのだ。

 弾幕を追い抜き戻ってきた斧を掴み、横に、回転させる。発動させるのは、アームシールドだ。

 赤みを帯びた斧が手の平で回転し、円形の盾を形成する。それだけで全てを防ぎ切ることは出来なかったが、ダメージは十分に抑えられた。

 回復はせず、斧を構えて距離を詰める。


「2回戦の開幕だ」

「ーー(こおり)世界(せかい)

 知らない技が飛んで来た。

 ダメージはない。だが、【凍結】状態にされ、動けなくはなってしまった。

 能動的に解除するなら、火属性の技を使うという手があるが、残念ながら持っていない。自分でアイテムを使うことは出来ないし、今はアイテムを使わない戦いだから、助けてもらえる確率も皆無だ。

 残る手段は自然解凍か、火属性か物理的な攻撃によって氷が溶けるか破壊されることだが。


「ーー滅亡の光」


 女神が放ったのは、光属性の魔法攻撃。

 眩さから目を逸らすことすら叶わず、俺のHPは削り切られた。


 視線がふいに低くなる。


 蘇生待ちの人魂に変わったのだ。

 視線を動かせば、360度どこでも見たいところが見える。体の感覚は残っているが、いくら動いても人魂として動くことは出来ないらしい。

 気分としては、無重力空間で透明な風船の中に入れられた感じか。いや、無重力空間とか行ったことないけど。

 ともかく、死んだのだ。

「まあ、ゆっくり観戦出来ると思えばいいか」

 先の【氷の世界】みたいに、まだ知らない技があるかもしれない。俺は、女神とレフト達の戦いに意識を戻した。


 ーーゴッデスに向かって走っているのは、HPが1割を切っているバニティだ。マリウスのHPは0なので、俺と同じように人魂となってどこかで見ているのだろう。レフトはまだ半分ほどHPを残しているが、どこにいるんだ。

「墜ちろ。グラビティ」

 いた。

 ゴッデスの左脚の向こうに見える黒いローブ。顔は見えないが、レフトで間違いない。反対側にいたから、さっきまでは声すら聞こえなかったのか。


「ーー断罪の礫」


 ゴッデスが手を掲げ、掌から放たれた球体が炸裂、敵を捌く礫の雨を降らせる。その体は宙に浮かんだままだ。

「ポイズンダガー!」

 バニティがゴッデスに短剣を突き立てた。だが、機械仕掛けの女神のHPバーに毒状態の表示は現れない。

「やっぱダメかぁ」

 寂しげに呟くバニティは、礫を喰らって、人魂に変わった。ゴッデスに短剣を突き立てたその場所で。

 ああなると、助けにすら行けないな。

 これで残るはレフトだけ■


 ◆


 唐突に視界が暗転し、気がつくと対戦(DUEL)は終わっていた。なぜ分かるかって。

 目の前に【YOU LOSE】って出てるからだよ。

 その表示が消えると、俺達のHPは満タンに戻っていた。まあ、ゴッデスのHPも完全に回復しているが。

「マリウス! ぼーっとしてないで、早く始めなさい!」

「はい! すぐに!」

 ゴッデスがゆっくりと手を上げる。


「ーー断罪の礫」


 ゴッデスが放った球体は、10という数字に掻き消された。実際にはそう見えるだけで、対戦(DUEL)が始まったから技が中断させられただけだろうけど。

「レフト、次の作戦は!」

「今と同じだ! 各人、試せることを試せ!」

「了解!」

 なら俺は、接近戦だ。

 カウントダウンは残り6。スキル技を発動させられるのは0になってからだが、動けないわけじゃない。スキル技を発動させる前までやれるのはさっき確認したし、今回はゴッデスが攻撃してこないうちに近づいておく。

 彼我の距離は、あと僅か。

 数字は見えなかったが、開幕を知らせるブザーの音ははっきりと聞こえた。本音を言えばもう少し近づきたかったが、贅沢は言ってられない。

 走りながら、斧を水平に構える。


「今度こそ、2回戦の開幕だ!」

 単発薙ぎ払い技の大木斬。

 厳つい木こりの一撃は、電柱のような脚を手応えもなく、すり抜けた。スキル後の硬直。走っていた俺は体勢を崩し、女神の御足に顔面を強打した。

「く、いてぇ」

 HPの減少は微々たるものだが、意外と衝撃が強い。攻撃を外して、顔面激突とか、痛過ぎる。踏まれも蹴られもしてないが、踏んだり蹴ったりだ。

 ダメージよりも羞恥に顔を抑えながら、後退る。


「避けてっ!」


「へ?」

 なにを。と思って声のした方を見上げるとーー空からバニーガールが降ってきた。

 俺が主人公だったなら、ここは彼女を受け止めるか、人間クッションになって代わりに幸運を手に収めるべきだったのだろう。

 ただ、言葉通りに避けようとした俺は、避けられもせず、顔面から地面にダイブさせられる結果に終わった。バニーガールは上に乗っているが、鎧越しでは重さしか感じられない。


「……助かったわ」

「どういたしまして」


 バニティが降りたのを確認して、俺も立ち上がる。

 不幸中の幸いは、戦いに夢中でレフトとマリウスが気がついていないことだろうか。もし見られてたらと思うと、ゾッとする。

 俺は幸運を手に入れていたのか。

「ーー滅亡の光」

「あ、やば」

 バニティは脱兎のごとく逃げ出したが、俺はそんなに早くない。足元でまともに光を喰らった俺のHPは、一瞬で蒸発した。


 ◆


 3回戦のスタート地点は、ゴッデスの足元だった。

 単純に死んだ位置から再スタートするだけなので。

 まあ、近づく手間が省けたと思えばいいか。カウントダウンは見えないが、ブザーは聞こえるだろう。


「次の作戦は!」

「同じだ! 試せることを試せ!」

「了解!」

 俺はゆっくりと斧を掲げた。

 準備は万端。開幕と同時に兜割りを発動させる。

「削らせてもらうぜ! ゴッデス!」

 その一撃は、ゴッデスの脚に小さな傷をつけ、防御力を低下させた。【毒】にはならないが、何も効かないわけじゃないらしい。

 あるいは、ならない確率の方を引いただけだったのか。


「ーー断罪の礫」


 上でゴッデスが動いた。

 放たれるのは裁きの光による流星群。広範囲攻撃だが、真下が安全とは限らない。俺は上に向かってアームシールドを展開した。

 光の粒が降り注ぎ、斧の盾が押される。

 だが、盾が破られることはない。跳弾もないから、今回は無傷だ。真下を陣取るメリットがひとつ見つかった。

「せいっ!」

 雨が止んだところで一撃入れようと放った兜割りは、空振り。外したのではなく、すり抜けられた。見慣れてしまったゴッデスの謎の透過能力だ。


「ついでに、もう1発!」

 硬直が解けるのを待って、斧を振り回す。ただの通常攻撃だが、これも透過されられた。

 同じ技だが、当たる時と当たらない時がある。

 同じ人でも、当たる時と当たらない時がある。

 魔法が効かないとか、スキル技は通用しないとか、通常攻撃ではダメだというわけでもない。

 ゴッデス自身が物理攻撃を出来ないわけでもなく、攻撃を仕掛けようとした時だけ実態化するというわけでもない。

 こちらの攻撃だけを透過する理不尽な回避能力だ。


 味方(プレイヤー)のチートに対応する(モンスター)特権(バグ)と考えれば、納得の強さだが。


 当たるも八卦、当たらぬも八卦と、俺は斧を振り続ける。スキル技でもない攻撃だが、地道にダメージは蓄積しているはずだ。真上を見上げるのは面倒なので、確認してないが。

 ゴッデスの脚を素通りした一撃が、亡者(・・)の頭蓋を砕いた。

「うぇっい!」

 マリウスの技だろうが、急に出すなよ。味方だとわかっていても、思わず身を引いちまっただろ。後ろにもいたからそんなに下がれなかったけどさ。


「ーー滅亡の光」


 四面楚歌ーー味方だけどーーで動けない俺にトドメを刺さんと、ゴッデスが動く。とっさにアームシールドを発動させたが、実体のない光は盾ごときでは防げない。

 それでもダメージは軽減できたのか、HPの減少は半分ほどで止まる。退路を塞いでくれた亡者共は跡形もなく消し飛んでいた。

「さあ、倍返しだ」

 斧を振り上げ、兜割りを叩き込んでやる。ーー今度は当たった。が、追加効果の防御力のダウンはない。なぜなら、すでに下がっているから。

 重複するとかいうシステムはないらしい。

 スキル技を選ぶ意味が無くなったから、今度こそ黙々と斧を振り続けるだけだ。ゴッデスの脚を木に見立て、木こりのように斧を振る。

 いや、振り子の方が適切かもしれない。

 先端に刃がついた危険な振り子。


「ーー断罪の礫」


 上から攻撃が振り注げば、頭上に盾を展開してそれを防ぐ。攻撃が落ち着けば、再び振り子は揺れ始める。

 なんか、だんだん楽しくなってきた。

 勢いよく斧を振り払い、大木斬を発動させる。

 渾身の一撃はーースカ。


「ーー氷の世界」


 大木を斬り損ねた木こりを、体の芯から凍るような冬が襲った。調子に乗りすぎたから、頭を冷やせという天啓だろうか。

 などと考えていても、状況は好転しない。

 自然解凍など待ってはくれず、弱い攻撃で氷を壊してくれるような下手も打たず、


「ーー滅亡の光」


 ゴッデスは確実に戦士(おれ)を葬り去った。

 その様子を、星空の外から眺める男がひとり。特徴的な水色のコートを纏った彼の名は、ムウシ。

「決着がついたのに戻ってこないと思って来てみれば……【(THE HIE)(ROPHANT)】にこんな使い方があるとは。生意気なことを思いついてくれますね」

 彼はボス戦が始まっているから、外で見ているのではない。ボス戦中は入ろうと思っても入れないという仕様は確かにあるのだが、彼は入ろうとさえ思ってはいなかった。

 なぜなら、彼の目的はおとめ座の攻略ではない。

「その攻略法は看過出来ませんね」

 メニューを操作し、男は笑う。そして、気づかれずに状況を見守るために、その姿を消した。

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