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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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急造パーティーVS天使達

 レフトから遅れること、数十秒。

 俺は3人が待つ星空の前にたどり着いた。

「気を引き締めてけよ、ライト」

「あぁ、言われるまでもない」

 俺はレフト達に習って、斧を構える。

「あれ見てから言えよ」

 そう言って、レフトは杖をかかげた。その先には、星空に浮かぶ機械天使(ヴァルキュリア)がーー8体。


「どゆこと?」

「おそらく参加人数で変わるんだろうな。盲点だった。まあ、辞めるなんて選択肢はないけどな」

 楽しそうに笑いながら、レフトが飛び出した。

「殲滅――セヨ」

 無機質な宣言を伴い天使が迎撃に動き出す。

 その数、5体。両手から放たれる光線も、10本だ。それでも当たらないのだから、威嚇射撃ということで間違いないのだろう。


「どうせすぐに全部が動き出す! 1人につき2体は相手するつもりで行けよ!」


 先陣を切って、レフトがヴァルキュリア達に向かっていった。これだけの数がいると、重力の魔法を使う暇はないだろう。

 つまり、自由自在に動き回る天使相手に、1対2の不利な戦いを挑まなければいけないということだ。

「無茶言ってくれるわね」

「大丈夫ですよ、先輩は僕が守ります」

「はいはい。頼りにしてるわよ」

 軽口を叩きあいながら、バニティとマリウスも動き出す。2人とも俺よりは速いだろうが、ヴァルキュリアと戦うのは初めてだ。軽く情報交換はしたとはいえ、倍の数を相手にするのは難しいだろう。


正子の闇(ミッドナイトダーク)


 出し惜しみはしない。

「やれるだけやってやるよ!」

 向かってくるヴァルキュリアにカウンターを叩き込むために、俺は斧を手先でくるっと回した。


 ーーそれから、3分、くらいは経っただろうか。


 状況は芳しくない。

 縦横無尽に宙を駆け巡るヴァルキュリアの数は、7体。各個撃破だとか、担当だとかいう考え方がないヴァルキュリア達は、目の前の敵にこだわらずに飛び回る。

 それぞれのダメージが蓄積して1体だけは倒せたが、それだけだ。

 対して、俺達のHPは全員が半分を切っている。1番の原因はヒーラーがいないことか。戦士(SOLDIER)はもちろん、魔法使い(MAGE)祓魔師(EXORCIST)にも回復魔法はない。バニティも使う様子がないから、そういう職業ではないだろう。

 隙を見ては、自分のHPを道具で回復するのが関の山だ。

 集まっていては囲まれてしまい、身動きがとりづらくなってしまうので、俺達4人は離れて戦っていた。


 画面の端で、バニティのHPが赤く染まる。

 体勢も崩れているようだが、助ける余裕はない。だが、1人でも減れば、戦線は間違いなく崩壊する。

「先輩!」

「マリウス! あなただけでもーー」

「そのお願いは聞けません!」

 マリウスが鞭を伸ばして振るった。バニティにトドメを刺さんとしていたヴァルキュリアが飛び退く。

「くっ、このっ……先輩!」

 が、2体のヴァルキュリアに邪魔されてマリウスは近づことが出来ない。

 バニティは回復を始めたようだが、攻撃を耐えられるかどうかは微妙なところか。

 俺とレフトも2体ずつのヴァルキュリアと交戦中で、支援は不可能。ーーいや、ひとつだけ手があるか。

「仕方ない」

 斧を肩に担ぎ、赤く光らせる。狙うのは俺に向かってくる2体ではなく、バニティを狙うヴァルキュリアだ。


「トマホーク!」

「ファイアボール!」


 漆黒の斧と紅蓮の球がヴァルキュリアに直撃。HPがなくなったらしく、天使はポリゴン欠片となって四散した。

 その報復とばかりに2体のヴァルキュリアからの、光拳制裁。俺のHPが1割を切った。

「くっ」

 斧はまだ戻ってきていない。

 武器がなくては、カウンタースキルも役に立たずだ。フットスタンプのような武器に頼らないスキル技を、まだ俺は持っていない。

 まあ、天使達は浮いてるからあっても無駄だっただろうけど。


「マリウス!」


「燃費悪いし、見た目があれなんで使いたくないんですが、先輩の頼みとあっちゃ断れませんね!」

 やけくそ気味に叫ぶマリウス。

 次に聞こえてきたのは、魔法の詠唱だった。


未練(みれん)(のこ)した亡者達(もうじゃたち)よ。(すく)いを(もと)めて()()がれ」


 だが、唱えたのは魔法使い(MAGE)じゃない。ーー祓魔師(マリウス)だ。


怨念兵団(ズローバ・コールプス)


 大地を砕き、アンデッドの兵団が現れた。

 マリウスに召喚された亡者達は、大地を黒く染め、闇の中から這いずり現れる。衣装に多少の差異はあるが、ジャスティスが使っていた技と同じだろう。

 敵の時はレフトのおかげで怖くなったし、味方になっても見た目的に頼もしくもない。それでも、肉壁くらいにはなってくれそうか。


「やれ、亡者共!」

 マリウスの指示に従い、亡者の群れが圧倒的な物量でヴァルキュリア達を呑み込んだ。フレンドリーファイアは無効になっているのか、俺はぶつかられてもダメージはない。

 ヴァルキュリアの1体が死体を巻き上げて、飛び上がった。


「スキありよ!」

 バニティがその上を取り、蹴り落とす。

 別の場所では、飛び上がろうとしたヴァルキュリアが鞭に捕まり、亡者に殴られながら悶えていた。

 バニティは空中を駆け巡り、空に浮かぶヴァルキュリアを蹴り落とす。その背後を捉えたヴァルキュリアは、火球を食らって怯まされ、振り返ったバニティに蹴り落とされた。

 それでも懲りずに、ヴァルキュリアは死体に絡まれながら飛び上がろうとする。亡者も天使も無言だが、その光景は言葉を持っていても表現し難い。

 とりあえず、積極的に観ていたい絵面ではなかった。


 俺は、戻ってきた斧を流れるように担ぎ、第2投を放つ。

 普段なら避けられてしまうだろうが、動きが緩慢になっているヴァルキュリアは避けられない。天使は飛散し、亡者の山が崩れ落ちる。

「それより、回復しろ!」

 レフトの罵声が飛んできた。

「わかってるよ!」

 聞こえるように叫び返し、ポーションを飲んで回復。

 戻ってきた斧をキャッチし、3投目を放った。

 回転する斧は味方?である亡者達の身体を切り裂き、もがき続ける天使を砕く。プレイヤーにはぶつかってもダメージ与えられないのに、プレイヤーからのダメージは受ける亡者達はちょっと可哀想だな。

 空中で向きを変えたトマホークが再び天使にヒット、亡者の群れの膨らみが消えた。


 レフトは、真っ赤に燃える半月で天使を叩き斬る。

 マリウスは、亡者の群れを指揮し、鞭を振るって逃げる天使を捕らえた。そのまま地面に叩きつけ、亡者達がトドメを刺す。

 バニティは、自由自在に宙を駆け巡り、天使の逃亡を許さない。空中は完全に彼女の独壇場だ。

 気がつけば、残るヴァルキュリアは1、2体か。


「――断罪(だんざい)(つぶて)


 ではなく、すでに全滅していたらしい。って、悠長に考えてる場合じゃないな。

 花火のように降り注ぐ光の粒から逃げるため、俺は脇目も振らずに壁に向かって走る。亡者達は敵に向かっていく習性らしく、愚かにも中央へと向かっていた。

 他の3人のHPは減っていないから、そちらは逃げられたのだろう。


 落ち着いたところで振り返ると、女神が御光臨されていた。

 機械仕掛けのすらっとした巨大な女神だ。顔だけは人のそれで、聖母のように柔らかな笑みを浮かべ、うねるような金髪は全身に絡みついている。

「殲滅モード」

 女神の背から3対6枚の純白の翼が飛び出した。

 ある意味では、ここからが本番だ。

 後光に当てられ、亡者の群れは跡形もなく消し飛んでいた。再び召喚することも不可能ではないのだろうが、ヴァルキュリアの時とは違い肉壁にすらなりはしないだろう。

 結局、最初に決めた作戦通りにやるしかない。


 バグルヴァーゴッデスの頭上に10という数字が現れた。対戦(DUEL)開始のカウントダウンだ。

 バグルヴァーゴッデスVS俺達4人の、変則的なフル(FULL)ライフ(LIFE)決戦(DUEL)だ。

 たとえ負けても、対戦(DUEL)が終わるだけの、いわば練習試合。

 アイテムだけは使うと消費してしまうが、MPはいくら使っても終われば開始前の状態に戻るし、死んでも生き返る。仮に勝ったとしても、クリアにはならないが、勝てたなら対戦(DUEL)をやめて、本番にすればいい。

 マリウスのチートがあって初めてなせる荒業だ。


「1回戦、まずはこいつでやってやるよ」


 カウントダウンの1を待って、斧を肩に乗せる。スキルが発動するのは、開幕のブザービートよりも後だ。

「トマホーク!」

 猛烈な縦回転を伴う一撃は、女神の身体を透過した。外したのではない。しっかりと胴体を捉えたにも関わらず、すり抜けられた。


「厄介だな」


 女神を倒すには、あのバグの正体を見極めなければならない。果たして、この急造パーティーでどこまでやれるのか。


 

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