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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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SeLF

 蟻神アルジェンタムとの邂逅後。死に戻りして入口前にいたレフト、ジャスティス、ゼクレテーアにも情報共有をして、ギシンの森の攻略は完了した。

 レフトは引き続き、魔法使いのクエストに臨むとのことだったので、そこで解散。元気も残っていなかったので俺は早々にログアウトした。


 そんな激闘の翌日。朝の9時。

 レフトに呼び出されてログインした基礎領域(イェソド)の中央広場は、異様な熱気に包まれていた。

 原因は日付が変わった瞬間に【SeLF(セルフ)】が出したという2つのクエストだ。同日の同時刻に別の場所で行われるそのクエストについての詳しい説明があるということで、多くのプレイヤーがここに集まっていた。

 ちなみに、SeLFとはギルドの名前で【Sephorah Leave Force】の略らしい。

 SLFじゃないのは、自分達が攻略するぞという意味でセルフとかけているのだろう。


「お、ライトか」

 ふと、人集りの中から俺を呼ぶ声がした。

 一瞬レフトかと思ったが、違う。今の声は、もっと軽薄で、野性味溢れる感じのーー

「ルークか」

 こちらに近づいてくる狼男を見つけ、俺の予想は確信に変わった。武器は持っていないようだが、騎士っぽい雰囲気の服は間違いない。

 闘技場(コロシアム)といい、約束してないのによく会うやつだ。

「おう、今日はおっかねぇ(あん)ちゃんと一緒じゃないんだな」

「まあ、いつも一緒ってわけじゃないからな」

 会って最初に確認するのがそれかよ。

 戦いが終わったあとは仲良くしていたように見えたが、苦手意識でも芽生えたのだろうか。容赦なく叩き潰されたから無理のない話だが。


「そういうお前こそ、ひとりか?」

「ロキとフィックスはそれぞれのギルドの用事。リオンは……この人混みだからな」

「あぁ……」

 前回と同じ感じだな。リオンが小さくなって蹲っている姿は見えないので、今回は最初から連れてきていないようだが。

 と、いない人のことばかり考えても仕方ない。

 ルークといえば……

「槍、使ってたよな?」

「使ってるな」

「アイテム交換でもしないか?」

 言いながら、俺はメニューを操作する。

「なんだよ、藪から棒に」

「まあ、使ってみろよ」


 俺は虚空から青い槍を取り出して、ルークに押しつけた。厳密に交換をするなら、メニューから操作する必要があるが、特別な操作をしない限りは問題ない。

 その辺はルークもわかってるだろう。

「へぇ、いい感じだな」

 人にぶつからないように槍を構え、ルークは笑う。

「説明も見てみろよ」

「説明?」

 眉をひそめながら、ルークは槍にタッチした。

 その手元に、小さなウィンドウが現れる。反転して読みづらいが、そこには回帰槍の説明が書かれているはずだ。

 その価値に気がつき、ルークの目が輝いた。


「マジか! こんなレアそうなのもらっていいのかよ!」


「交換って言っただろ」

「そ、そうだったな」

 槍を仕舞い、ルークは自分のアイテム欄に目を凝らす。1ページでは収まりきらないのか、何度もスクロールを繰り返し、見つからなかったのか上に戻すと、もう一度目を皿にして画面を凝視する。

 そして、ガックリと肩を落とした。

「悪い、斧は持ってないわ」

 そんなことか。

「槍と、剣と、弓と、盾ならあるんだけどな」

「使い慣れてるのがあるから、武器はいらないぞ」

 言ってから、自分の考えが浅かったということに気がついた。ルークは喜んでるからいいが、今後は気をつけよう。


「なら、オレのとっておきをくれてやるよ!」


 ルークが勢いよく突き出したのは、ポーションだ。

 ただし、中に入っている液体は虹色で、市販ーーNPCが売っているものとは思えない。

「とっておきなら、もらっとくよ」

 名前は【万能薬(ばんのうやく)】。効果はHP・MPと異常状態の完全回復か。蘇生効果までついているらしい。

 有難いが、俺の場合は使い所に悩みすぎて、結局使わなそうな気がする。


「で? どこで手に入れたんだ?」

 とっておきという言い方からしても、市販品ではないだろう。

「気になるか?」

 ルークがニヤリと笑った。

「いや別に」

「なっ……! そこで引く!?」

「悪い、ついな」

「ついってなんだよ!?」

 ルークが声を裏返らせる。そのせいで周りの視線が向けられたが、ルークは止まらない。

「これは、オレの汗と涙と努力の結晶なんだよ!」

「とりあえず落ち着け、ルーク」

 どうどうと、荒れる狼を宥める俺は獣遣いか。

「なっ……、お前が雑な扱いをするから……」

「いや、よくぞ聞いてくれました、みたいな顔するから」

「なんだよそれ」

 注目されていたことに気がついてか、あるいは俺に合わせて、ルークは音量を小さくして答える。そんなことをしているうちに、周囲の注意も逸れてきた。


「とにかく、これで交換は終わりだな」

「結局聞かないのかよ!?」

 何度目ともしれないルークの悲鳴。

「いや、話したいなら話してもいいけど」

 正直言って、手に入れた経緯はどうでもよくなってきた。クエストか何かの報酬なのだろうし、特に欲しいわけでもない。

「なら、聞かせてやるよ!」

 ルークは拳を固く握り締め、高らかに宣言する。

「これはーー」


「ーー紳士淑女のゲーマー諸君! ようこそ集まってくれました!」


 その声を別の声がかき消した。

 姿は全く見えないが、男とも女ともしれない合成音声は聞き覚えがある。ただし、ゲームの中ではなく、現実でだ。

「……イオ」

「否! この世界における我が名は、エターナル!」

 俺の呟きが聞こえたかのように、イオ、もといエターナルから訂正が入る。向こうからも姿は見えないはずだが、声は聞こえたのだろうか。

 あるいは、前の方でも同じ反応があったのかもしれない。


「本日、この場所には我ら【SeLF(セルフ)】のリーダーの代行者として参上した。内容はもちろん、我らが出したクエストについて」


 周りの反応をうかがうような沈黙。

 それから少し遅れて、人集りの向こうに手が見えた。


貪欲領域(ケムダー)の猛毒龍ヒュドラと色欲領域(ツァカブ)の合成獣キマイラ。この2体が、今回のクエストにおけるボスモンスターだ」


 空中に2つの画像が映し出される。

 ひとつは、胴体から9つの首が伸びた巨大な黒龍。と言っても、丸い胴体に手足はなく、翼も生えていない。どちらかと言えば、ドラゴンというより蛇に近いだろう。顔だけは、厳つい龍のそれに違いないのだが。

 もうひとつは、キングレオよりもさらに巨大な四足歩行の獣。ライオンと山羊のような2つの頭を持つ双頭獣で、ぬるりと伸びた尾の先には蛇の頭がついている。キマイラの名に恥じない見た目の合成された獣だ。

 どちらも静止画だが、強敵感はハンパない。


「狩りがいがありそうだな」

 獲物を狩るような笑みでルークが笑う。他のプレイヤー達も多かれ少なかれ似たような表情だ。俺も同じような表情を浮かべているのだろうか。


「この2体のボスを倒し、新たなるセフィラを解放することこそが、我らの使命。だが、我らだけで挑むには戦力が少な過ぎる。

 そこで、今回はクエストにて諸君の協力を仰ぐこととなった」


 投影された2体のモンスター画像が、クエストの表に切り替わる。

 内容はモンスターの討伐で、開催日はボス戦が解放される来週。時間はこの集会と同じ午前9時だ。

 参加人数に上限はなく、受付は直前まで可能らしい。

 気になる点と言えば、報酬の欄が【SECRET】になっていることくらいか。


「開催時間を見てわかるように、同時に受けることは不可能! 強者を分散させ、みんなに活躍の機会を、というリーダーの配慮ですね」


 人混みの向こうからエターナルの楽しそうな声だけが届いてくる。いつものように踊っているかもしれないが、その姿は見えない。

「そして! お待ちかねの報酬について!」

 続くエターナルの言葉に群衆が湧いた。


「1つ目はFA。ファーストアタックだ。各ボスに最初にダメージを与えたプレイヤーに、我らから(デザイン)装備を贈呈だ」


 歓喜、落胆、苦笑など、プレイヤーの反応はまちまちだ。落胆しているのはすでに持っているプレイヤーだろうか。

 俺は……別に衣装にこだわりはないからなぁ。


「2つ目はLA。ラストアタックだ。これは我々が用意するのではなく、ボスのドロップアイテムを提供だ」


 落胆の声はない。その代わりに、当たり前だと言う野次は飛んでいたが。まあ、ドロップアイテムはやったもん勝ちという認識でいいのだろう。

「そして、最後」

 エターナルはそこで言葉を区切る。誰かが息を呑む音が聞こえた。ゲームでも思わず息を呑んでしまうのか、それとも場の雰囲気がそんな音を思い起こさせたのだろうか。

「我々が選んだMVPには、星具(せいぐ)を贈呈だ!」

 ここで一番の歓喜が湧く。


「質問いいか、小娘」


 その歓喜に水を差すような野太い声が響いた。


こんにちは、銀です。

 今回はギルド【SeLF(セルフ)】についての解説です。

 元になった【Sephorah Leave Force】から、フォースやセフィラ解放軍とも彼らですが、その1番の特徴は圧倒的な規模にあります。

 ベータテストのラスボス【キングレオ・ラヌート】打倒に大きく貢献し、【星狩りの剣】ほどルールに厳しくない。

 さらにリーダーの人柄も良いと聞けば、人が増えるのは自然な流れですね。

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