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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第2章 チート解放編

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秘書たるもの

 ライトが偽物のゼクレテーアとオルバーの2人と激戦を繰り広げていた頃、同じ森の別の場所でもゼクレテーアとオルバーが対峙していた。

 ただし、2人ではない。ゼクレテーアの少し後ろにはライダーが静かに控えている。

 3人の間には、立て札がひとつ。


(つど)いし3(にん)(なか)から偽物(にせもの)見破(みやぶ)れ。偽物(にせもの)(たお)せば、(みち)(ひら)かれる。選択(せんたく)(あやま)れば、(みち)永遠(えいえん)()ざされる】


 その文言を見た瞬間、ゼクレテーアは己の勝利を確信した。

「大人しく死んでもらえますか?」

 透明化のチートを解除して、己の得物ーー偃月刀を構える。その鋭い刃先がオルバーを真っ直ぐに捉えた。

「悪いが、そうはいかないな」

「なぜ?」

「そりゃ決まってるだろ。俺が"本物"だからだ」

 1歩でも踏み込めば届く位置に武器を構えられながらも、オルバーは飄々とした態度を崩さない。

「それはありえませんわ」

 ゼクレテーアは冷たく吐き捨てる。

「わたくしたちは、第2の試練で"本物"だと確定していますの。ならば、偽物はあなたしかありえませんわ」

「ずいぶん、強引だな。入れ替わった可能性もあるんじゃないのか?」

「あなたこそ、本物だと証明する手立てはないのでしょう。大人しく認めなさい」

 平行線な口論が進む中、オルバーの視線が後方へと向けられる。

「ライダーからは何かあるか?」

 ゼクレテーアも、構えは解かずに、視線だけを後ろに向けた。


 2人の視線を受け、ライダーは頷く。

「ふむ。テーアの語った通りだ。我々の試練は"偽物を見つける"のではなく、偽物が"いないことを見抜く"試練であり、どちらも"本物"だった」

「なら、今回も全員が本物って可能性もーー」

「ありえませんわ」

 この状況で全員が本物と主張するメリットがあるのは、正体を隠したい偽物だけ。

「全員が本物など、ありえませんわ」

「いや、ありえなくはないだろう」

 ライダーの発言に、ゼクレテーアの瞳が一瞬揺らぐ。


「……我が主がそういうのならば、その可能性もあるのでしょう」


 冷静に考えれば、頭から可能性を否定するのはよくない。本物しかいない状況で偽物がいると表示して、疑心暗鬼にさせることが狙いの可能性だってあるのだ。

「では、3人とも本物だとしてーー」

「参考までに聞くが、お前らの第2の試練はどうやってクリアしたんだ?」

 話を遮るオルバーの態度へ苛立ちを覚えながらも、ゼクレテーアは努めて冷静に言い返す。

「……あの時は主が"立て札"を倒してーーえぇ、そうでしたわ。あなたが本物だと主張するのならば、立て札を倒せばよいのですわ」

 ゼクレテーアは勝利の手筋を見出すように、ゆっくりと頷いた。微かな違和感はある。だが、間違ってはいないはずだ。

「それでも扉が現れなければ、あなたが"偽物"だと確定しますもの」

「いや、3人の中に"偽物"がいるのが、確定情報だろ?」

「同じことですわ」

 ゼクレテーアは偃月刀を手元に引き戻し、地面に突き立てる。


「さあ、本物であると証明するために立て札を倒しなさいな」


「……悪いが、そのリスクは負えないな」

 オルバーは弓も矢も構えない。

「俺はお前らのどっちかが、偽物だと思ってる」

「しつこいですわね。わたくしは、本物ですわ!」

 その瞬間、ゼクレテーアは偃月刀を振るって立て札を切り倒す。


 だが、扉は現れなかった。


「ふっ。偽物は確定しましたわね」

 偃月刀を構え直し、冷たく告げる。

「強情だな」

 オルバーは弓を構えた。だが、矢は番えない。

「ライダー、お前は誰が偽物だと思うんだ」

「それはもちろん、君だよ」

 ゼクレテーアの後ろに立つライダーは、構えは取らずに仁王立ちしていた。威風堂々とした姿は本物としか思えない。

「えぇ、その通りです。ですが、我が主が出るまでもありません」

 冷静な殺意を乗せて、彼女は言い放つ。


「露払いはわたくしが努めさせていただきますわ!」


 振り下ろし、薙ぎ払い、突き。

 苛烈に責め立てるが、のらりくらりと回避するオルバーには届かない。職業は同じ魔法使い(MAGE)だが、レベルはオルバーが3つ上。

 一撃でも当たりさえすれば倒せる自信はあるが、その一撃があまりも遠かった。

「逃げてばかりですわね。反撃なさったらどうですの」

「する余裕も、理由もないだけだ」

「偽物風情では、弓など使えませんか」

「それなら、素手のヤツが1番怪しいんじゃないか?」

「そうやってわたくし達を仲違いさせようと言葉を弄する!」

 偃月刀を振り上げながら、ゼクレテーアは吼える。

「それこそが、あなたが偽物であるという証左ですわ!」

「めんどくせぇ女だな! そういうのは嫌いじゃないが、師匠で足りてるんだよ」

「また、訳のわからないことを!」

 怒りに任せた大振りな一撃を、オルバーは避けなかった。


「なぜ……」

「決まってるだろ」

 オルバーが弓を持ち上げる。そこには既に黄色く光る矢が番えられていた。それを理解するよりも早く、最大限に引き絞られた矢が放たれる。

「しまっーー」

麻痺矢(パラライズアロー)

 反撃してこないという思い込みから、弓が視界に入っていなかった。僅かなダメージと共に麻痺の状態異常が付与される。


「さて、このままだとお仲間が死ぬが、お前はそれでもいいのか?」

 動きを封じられたゼクレテーアから離れ、ライダーに矢を向けるオルバー。

「テーアは本物だ。見捨てるわけにはいかないな」

 ライダーが腰を落として、構える。

 一触即発の空気の中、オルバーが1歩下がった。

 矢と魔法では、途中で減速して落下するという性質を持つ矢に比べて、飛び続ける魔法の方が射程の面では勝っている。

 それでも、弓使いはまた1歩後ろへ下がった。

 その距離を詰めるようにライダーが前に進むと、オルバーは同じだけ後ろに下がる。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 大きく踏み込むと同時に、小声で詠唱して魔法を放つライダー。

 オルバーは大きく後ろに飛び、火球腕を広げて火球を受け止めた。避ける気のない行動だ。


「ふむ。勝ち目はないと諦めたのかね?」

 拳を構えながら、ライダーがゼクレテーアの前に出る。

「いや、勝つ必要がなくなっただけだ」

「おかしなことをーー」

 その大きな体を槍が貫いた。

 麻痺から回復したゼクレテーアである。

「テーア……?」

「その名で呼ぶな。下郎」

 偃月刀で斬り捨てる。

 魔法使いゆえに見た目とは反比例して物理防御力の低いライダーは、その一振で崩れ落ちた。大きな体は小さな蟻ーーリアルの蟻と比べれば大きいーーへと代わり、砕け散る。

 偽物の敗北を受けて、広場の奥に扉が出現した。


「俺の言った通りだっただろ?」

「……えぇ。認めざるを得ませんね」

 笑みを浮かべるオルバーと苦虫を噛み潰したようなゼクレテーア。対照的な表情を浮かべながら、2人は扉の前に立つ。

「先にどうぞ。テーアさん?」

「その名で呼ぶな。下郎」

「え。俺、蟻と同じレベル?」

 小言は無視して、扉に手を触れる。

 が、何も起こらない。

「あー……やっぱりか」

「何かしましたの?」

 訳知り風に呟くオルバーへ視線を向ける。

俺は(・・)、何もしてねぇよ」

 そう言いながら彼が指さしたのは、倒れた立て札。


選択(せんたく)(あやま)れば、(みち)永遠(えいえん)()ざされる】


 確か、そう書かれていたはずだ。

 偽物がいなかった第2の試練では、立て札を倒すことが正解だった。だが、今回の正解は偽物(ライダー)を倒すこと。

 つまり、立て札を倒した(にせものはいない)というゼクレテーアの選択は間違いだ。その行動に秘められた意志など森には関係ない。

「仕方ありませんわね」

 ゼクレテーアは近くにあった木に寄りかかり、静かに腰を下ろした。

「意外と素直に認めるんだな」

「えぇ。そもそも、主の真贋を見抜けなかったのです。死して償うべきことでしょう」


「忠臣ーーいや、ここは義臣というべきか?」


 オルバーは楽しそうに笑う。

「いき過ぎてはいたが、お前の忠義は悪くなかった」

「褒めても何も出ませんわよ。それよりも【死亡】が来る前にいきなさい」

「そうはならないとしたら?」

「は?」

「俺のチートを使えば、お前は立て札を倒さなかった。そういう風に書き換えられる」

 オルバーの言葉に、ゼクレテーアは小さく目を見開いた。

「不忠は罰ではなく、忠義で贖うべきだろう」

 数分前まで激しく口論していたとは思えないほど、穏やかな雰囲気だ。いや、結果だけ見れば、ゼクレテーアが思い込みで暴走していただけか。

「なまいきですわね」

 ゼクレテーアは小さく笑って手を伸ばす。


 そんな2人の横に、鈍色の光を放つ球体が出現した。


「どうやら、手遅れみたいですわね」

 ゼクレテーアは偃月刀を構えて、立ち上がる。

「行きなさい、オルバー。巻き添えを食らっても知りませんわよ」

「あぁ、死ぬなよ」

 短く言い残し、オルバーが扉に触れ、消えた。

 気配がなくなったことを確認して、ゼクレテーアは小さく息を吐く。

「無茶をいいますわね」


「アレが相手では、死ぬしかないでしょうに」


 どうも、銅っす。

 ギシンの森の攻略も、いよいよ大詰めみたいっすね。

 最後の解説はゼクレテーアの【隠者(THE HERMIT)】について。

 基本的な使い方は、本人からも話があったように武器やアバターの透明化っすね。効果時間については、対象が大きいほど短くなったり、ダメージで解除されることもあるみたいっす。

 あと、基本的には混沌の世界(カオスワールド)でしか使えないチートみたいっすね。

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