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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第2章 チート解放編

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暴走する正義

「本物かぁ。よかったぜ」


 偽ライダーを倒したレフトとジャスティス。

 その瞬間に扉が現れ、お互いが本物であることは確定した。にも関わらず、ジャスティスは艷めく刀身を舌で舐め、霞の構えをとる。


「てめぇの物語は、ここで終いだァ」

 剣を少し引いてスキルを発動させ、飛ぶ。

 その動きは斬るというよりは突くといったほうがいいだろう。剣に引っ張られるようにして、狂気の笑みを浮かべたジャスティスが迫る。

 レフトは左に飛んで、凶刃から逃れた。

 躱すことだけを意識したため、起き上がって体勢を整えるまでにわずかな時間を要する。その間に、ジャスティスはスキル技を放った後の硬直を終えた。


「チッ、やるなァ」

 ジャスティスは剣を肩に担いだ。

 新たなスキル技が発動する。

「らァッ!」

 赤い輝きを帯びた刃が振り下ろされた。

 レフトは杖をかかげて受け止める。回避が出来なかったわけではない。攻撃自体は単純な振り下ろしだ。

 ただ、ジャスティスの動きを見て、逃げてばかりでは状況は好転しないと理解した。

 じわじわと押されながらも、レフトは言葉を返す。

「俺は本物だ!」


「ハッ、知ってんだよ!」

 ジャスティスが剣を引き戻し、なおも赤みを失わない剣に力を込めて、再び振り下ろす。スキル技は終了していなかった。

「これは……」

 普通じゃない。

 けれど、このゲームにおいてそんなことが起きるのは普通だ。なぜなら、このゲームには公式から与えられたチートが存在するのだから。

「くっ……」

 受け止めきれなくなったレフトは、杖をスライドさせて、斬撃を受け流す。失敗すれば押し切られる状況だが、レフトは上手く受け流した。

「おろっ……」

 結果として、ジャスティスの体勢が崩れる。

 だが、レフトは攻撃をせずに離れた。

 このクエストをクリアする為には、仲間を倒してはならない。つまり、ジャスティスの残りHPがわからない以上、下手に攻撃は出来ない。


「おいおいおい。本気で来いよォ」

 ジャスティスは笑いながら剣を構える。

「俺には戦う理由がない」

「てめぇになくても、俺様にはあんだよ」

「……このクエストが終わってからじゃダメなのか?」

 先にライダーの偽物を排除したことからも、他人を巻き込みたいわけではないのだろう。

「ハッ、逃がすわけねぇだろ」

「逃げねぇよ」

「なら、今だって構わねェよなァ?」

 ジャスティスが剣を地面に突き立てた。


未練(みれん)(のこ)した亡者達(もうじゃたち)よ。(すく)いを(もと)めて()()がれ。

 怨念兵団(ズローバ・コールプス)


 大地が黒く染る。

 そこから這いずりでるのは、亡者の名に恥じないアンデットの集団。ゾンビというほどは腐敗しておらず、死んだばかりといった印象だ。

 その全てが、武装していた。

 武装した死体の群れを生み出す。そんな技を使えるのは、魔法使い(MAGE)ではない。

「お前、祓魔師(EXORCIST)なのか……」

「正解。()(はら)うものだ。()法使いさんよ」

「その魔じゃないだろ」

 レフトは小さな声で呟き、杖を亡者の群れに向けた。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 魔法を食らい、亡者がのけ反る。

 だが、それだけだ。

 ゆっくりと体を起こすと、何事もなかったように動き出した。

 どこぞのゲームのように、撃っても撃っても撃っても湧いてくる代わりに一撃で倒れてくれる相手ではないらしい。残念なことに、倒れないという点だけが。


「せイィ!」

 亡者の陰からジャスティスが飛び出した。

 刀身の色は赤。突撃系のスキル技が発動している。

「このっ……」

 避けきれなかったレフトの体を掠め、ジャスティスは亡者の中に消えた。硬直時間にはなっているはずだが、見えなくては攻撃するどころではない。

 レフトは、亡者達の攻撃に気をつけつつ、ジャスティスが消えた方向に視線を向ける。

「なぶり殺してやるよ」

 ジャスティスは後ろから現れた。

「そう来ると思ってたよ」

「チッ……」

 レフトは大きく左に飛んで躱す。それでも少しだけ掠ってしまった。体勢を立て直すころには、ジャスティスは亡者の中だ。

「まずいな……」

 レフトは苦笑いを浮かべながら、頬をかいた。


「おらァ!」

「くっ……」

 亡者の陰を移動し、不意打ちを仕掛けてくるジャスティスを、レフトは紙一重で回避する。執拗に背後に回ろうとすることと、飛び出す寸前に叫ぶおかげで、レフトは直撃を免れていた。

 それでも、避けきれずに掠ってしまうこともあり、残るHPは約6割。

「しぶてぇやつだなァ」

 亡者の陰で呟くジャスティスの言葉はレフトに向けられたものだ。

「お前も、そろそろMPが尽きるんじゃないのか?」

「残念ながら、それはねぇよ」

「どういうことだ?」

「俺様の正義が揺るがない限り、MPは尽きねぇ」

 ジャスティスの声は同じ方向から聞こえてくる。レフトは話をしながら、亡者の隙間に目を凝らした。

魔力満(MAX MAGIC)タン( POINT)か?」

「違ぇよ」

 亡者の群れの中から、ジャスティスが浮かび上がる。

 原理は不明だ。魔法かもしれないが詠唱した気配はなかったし、亡者に乗っているという感じではない。まさに、浮いていた。


「俺様のチートは正義(JUSTICE)。正義ある限り滅びない、絶対無敵のチートだ」


 レフトを見据え、真っ直ぐに剣を掲げる。

「そんなに疑うんならいいぜ。見せてやる」

 剣が白い光を帯びた。スキル技の赤とは違う、けれどそれに負けないくらいの強い輝き。

「これが、正義(JUSTICE)だ」

 ジャスティスが剣を振り下ろす。

 そこから放たれた斬撃が、意志を持ったかのようにレフトに襲いかかった。

 打ち返す。という発想は一瞬で霧散した。あれは魔法じゃない。スキルでもない、別の何かだ。

 レフトはメニューを開き、装備品を――


 ドームの中が光に満たされた。


 その全てが攻撃ではない。

 攻撃の余波の光が、ドーム全体を包み込んだのだ。あくまでターゲットはレフト。ジャスティスの正義(JUSTICE)によって生み出された一撃は、ターゲットのみを滅ぼす一撃だ。

 発動者の視界さえ奪っただろう光が消えた。

 怨念兵団(ズローバ・コールプス)は減っていない。

 肝心のレフトは生きている。

 体を小さく丸め、鉄の盾の裏に隠れることで、生き延びていた。盾で防御力を上げ、直撃を避けたことで、耐えられたのだ。

 HPはほんの数%しか残っていない。

 まさに紙一重の生存劇だった。


「あ、ありえねぇ……」

 だが、相手のHPを見る術のないジャスティスにその判断はつかないのだろう。彼にとってみれば、絶対に殺せるはずの一撃を耐えられたわけだ。

 その事実を簡単に認められるはずがない。

「てめぇ、ふざけたチートを持ってんのかよ!」

 その感情が行き着く先は安易な結論(チート)だ。チートだからチートに勝てた。

「許さねぇ」

 自分のチートは棚に上げ、敵がチートで生き残ったことを非難する。

 そうして、ジャスティスはゆっくりと地面に降りた。


「くそっ! てめぇら、やっちまえ!」

 ジャスティスは亡者達に命令する。1部の(・・・)亡者が、それに従い、レフトに狙いを定めた。

「へぇ、もしかしてこいつら幻影兵(げんえいへい)と同じカテゴリーか」

 まばらに動いていただけの敵が自分を狙う。

 そんな状況にも関わらず、レフトは不敵な笑みを浮かべた。そして、ゆっくりと拳を上げて、開く。


「止まれ」


 その言葉に合わせて、全ての(・・・)亡者が動きを止めた。

「……は?」

「悪いな。これが、俺のチートだ」

 惚けているジャスティスに状況を理解させるために、レフトは新たな言葉を発する。

「全員。ジャスティスを攻撃しろ」

 その言葉に合わせて、亡者達は召喚者であるはずのジャスティスに向かって、襲いかかった。

「て、てめぇ――」

 ジャスティスが亡者の群れに飲み込まれる。それだけで死にはしないだろうが、時間稼ぎには十分だ。


「上手く、いったな……」

 レフトのチートは、【(THE)術師( MAGICIAN)】。簡単にいえば、NPCを操るチートである。

 ただ実は、このNPCという括りがややこしい。

 例えば、モンスターなどはPCではないのだから、理屈はNPCだが、NPCには分類されない。一方で、幻術師(CONJURER)の幻影兵などはモンスターであろうと、NPCという扱いになるのだ。

 今回の怨念兵団(ズローバ・コールプス)は後者だった為、レフトのチートが召喚者の命令よりも絶対だった。


「さて、逃げるか」

 この程度で解決するとは思っていない。

 だからこそ、状況を打開する為、扉に向かって走る。

 最高の展開は、他のプレイヤーと合流した時点でジャスティスがレフトを殺すことを諦めてくれることだ。最悪の展開は、わざわざ考えない。


「レェフトォ!」

 亡者の中から、ジャスティスが飛び出した。

 足の遅い亡者達に足止めは叶わない。

 ジャスティスは亡者を振り切って、迫る。

 その足は、レフトよりも早かった。

 2人の距離が少しずつ近くなっていく。扉との距離のほうが近いが、ジャスティスの移動速度を考えると、追いつかれないかは五分五分だろう。


「くたばれやぁ!」

 剣を振り、斬撃を飛ばす。

 スキル技ではない。とてもそうは見えないが、おそらくは通常攻撃だ。

 斬撃は意志を持った光の刃となって、迫る。

 レフトは扉に触れ、紙一重のところで躱した。


 攻撃はフィールドの切り替わりについてこない。


「お、お前も無事だったのか」

 扉の先にはライトがいた。

「無事、とは言い難いな」

「どういうことだ?」

 ジャスティスに何かあることは、ライトも知ってる。

「実はーー」


「チッ、めんどくせぇことしやがる」


 扉からジャスティスが現れた。その手にはスキル特有の赤い輝きを放つ直剣。いささか輝きが強すぎるのは、気のせいではないだろう。

「らァッ!」

 ライトに構わず、突きを放つジャスティス。

「くっ!」

 レフトは盾で受け止めた。

 フィールド全体を包み込んだ一撃よりは重くない。それでも、受け止めきれる一撃かといえば、答えは否。

 盾を手放し、レフトは後ろに飛んだ。


「待て待て待て。ここは会話で解決するべきだろ?」


「……偽物か」

 ジャスティスの凶行に対して、ライトはその場から動かずに宥めるような声を発した。これが本物のライトならば、状況がわからなくてもまずはレフトに助太刀する。

 そんな確信があったからこそ、いまそこにいるは偽物だと判断した。

「チッ。ーー失せろ」

 ジャスティスは一足でライトとの距離を詰め、赤く輝く剣を振り抜く。

「ぐ、ギギ……」

 物理攻撃力が高くないはずの祓魔師(EXORCIST)の一撃で、物理防御力の高い戦士(SOLDIER)が倒された。

 そのことに驚く暇もなく、振り返ったジャスティスが剣を振り上げる。彼のチートは、硬直時間さえ乗り越えた。

 レフトの手に盾はない。

 杖でも受けきれないだろう。

 逃げるには体勢が悪い。

 HPは残りわずか。

 状況は絶体絶命。

 凶刃が迫る。


「っと!」


 2人の間に割り込んだ戦士が、ジャスティスの剣を受け止めた。

「で? これどういう状況?」

 戦士――ライトは苦笑いを浮かべながら、レフトに尋ねる。状況も理解せずに飛び込んできたらしい。

「それでこそだよ」

 本物だと確信し、レフトは笑みを浮かべた。


 どうも、銀先輩不在で出番の多い銅っす。

 オルバー、ライダー、ジャスティスと来て、今回はレフトのチート魔術師(MAGICIAN)についての補足っす。

 レフトはNPCの括りに対しての感想をもらしていたっすけど、操る、の範囲にも色んな制限があるんすよ。

 例えば、店員のNPCに商品をタダで売らせたり、非戦闘型のNPCに戦わせたり、元から無理なことはさせられないっす。

 出来るのは、今回みたいに統率なく動くNPCに秩序ある行動をさせたり、決まった道しか通らないNPCに寄り道をさせるくらいっす。

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