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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第2章 チート解放編

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34/94

ライトVSオルバー

「俺はオルバー。対戦(DUEL)の準備は出来ている」


 手を広げて、仰々しく、オルバーは名乗りを上げた。

 俺はメニューを開き、対戦(DUEL)申請を選択。オルバーの名前の入力し、フル(FULL)ライフ(LIFE)決戦(DUEL)を選んだ。

 賭けの項目からライトの報酬を選択――他には、オルバーの報酬、勝者の報酬、敗者の報酬の3つがある――して、テキストを入力する。


【オルバーは、他のプレイヤーが十二宮星具を装備して、使用するまで、金牛長弓(ロングレンジトラス)を装備、使用することが出来なくなる】


 音声入力も可能だが、今回はキーボード入力にしたうえで、内容を読み返した。

 この言葉選びは慎重でなければならない。

 なぜなら、賭けの内容はシステム的に管理されるルールとなる。

 システムは融通が利かないのでルールは絶対だ。しかし、システムは応用も利かないのでルールの穴を掻い潜られたら何もしてくれない。

 ゆえに、内容を決める時は細かいことまで気にする必要があるのだ。

 2度3度と読み返し、大丈夫と判断したところで、申請ボタンを押した。

 オルバーは即座に受け入れる。


 試合開始のカウントダウンが始まった。


「わかってると思うが最後は負けろよな?」

「わかってるさ」

 オルバーと全力で戦ってみたいが故に一撃決着やハーフライフではなくフルライフを選択はしたが、あくまで目的はルールの施工だ。俺が負けては意味がない。

 いや、待てよ。


「なあ、始まってからの賭けの変更は可能か?」

「さあな。それがどうした?」

「いや、ちょっと気になって」

「試してみたらどうだ?」

「そうさせてもらう」

 少なくともあの悪魔のように不意打ちしてはこなそうだ。

 メニューを開き、対戦(DUEL)関連の部分を開く。そこにあったのは普段とは少しだけ異なる表記。その中に、賭けの内容変更と書かれた項目があった。

 開始のブザーが鳴る。

 オルバーの報酬を開いて同じ文章を入力ーーしようと【お】を入れた時点で予測変換が現れた。【文章スキル】の効果だろうか。

 選択すると、一言一句同じ言葉が入力された。

 下部の変更ボタンを押すと、メニューが閉じ、代わりに小さなウィンドウが現れる。


【ライト、が以下(いか)のように()けの内容(ないよう)変更(へんこう)しようとしています。許可(きょか)しますか?】


 オルバーの目の前にも、同じように小さなウィンドウが表示されていた。両者の同意があれば変えられるわけか。

 俺が許可するを押すと、入れ替わるように表示される新たなウィンドウ。


両者(りょうしゃ)からの許可(きょか)()られました。()けの内容(ないよう)変更(へんこう)します】


 読み終わるであろうタイミングを計算しているのか、ウィンドウは勝手に消えた。

「で、倒してもいいってことだよな?」

 オルバーが弓に矢を番えながら聞いてくる。

 どうやらこれ以上待つ気はないらしい。


「ああ、全力で来いよ。オルバー」

 俺は蟷螂のように両手に斧を構えた。


「俺の実力を見て驚くなよ?」

 オルバーは本来の黒い弓に矢を番えて、放つ。

 線ではなく、点の攻撃。モンスターの動きよりは早いが、見切れないほどじゃない。

 矢の軌道に合わせて、斧の()を振り下ろす。

 漫画のように切り伏せるのは難しいが、叩き落とすくらいなら、俺にも可能だ。

「お見事」

 素直に賞賛してくるオルバーの顔に焦りは見られない。横に移動しながら、次の矢を番えてーー

「なら、これはどうだ?」

 ーー放った。

 引き絞り方の差なのかさっきよりは速いが、反応出来ないほどじゃない。

「余裕だな」

「言ってくれる」

 場所を変え、速度を変え、矢継ぎ早に打ち込まれる矢を、両手に持った斧で叩き落とす。

 そんな攻防を10数度繰り返すも、オルバーの矢が尽きる気配はない。


「防御だけなら一級品だな。防御だけなら」

 オルバーは新たな矢を番えながら、挑発してくる。その矢は、黄色い輝きを帯びていた。

麻痺矢(パラライズアロー)

 メロペーの動きを止めた技だが、追加効果があろうとも、当たらなければ関係ない。とはいえ、防御しているだけではジリ貧だ。

「今度は、こっちからやってやるよ」

 スキル技後の隙を狙い、最短距離で走り寄って、斧を振り下ろす。ーーが、届かない。

「おっとっと」

 わざとらしく呟きながら、矢を番えるオルバー。

 反撃される前に距離を詰めるが、同じだけ距離を取られる。鈍足の戦士と魔法使いという差に加え、14と21というレベルの差から生まれるスピードの差だ。

 レフトみたいに向かってきてくれたら、当てられるんだけどな。

「いや、そうとも限らないか」

「何の話だ?」

「ここにはいない奴の話だよ」

「なるほど。他のプレイヤーことを考えるなんて、余裕だな」

「余裕はねぇよ」

 お互いにダメージは与えられていないとはいえ、余裕があるのは肩を竦めながら、矢を番えるオルバーの方だろう。

「ただ、諦める気はないけどな!」

 狂戦士の斧を肩に担ぎながら、右手の常夜の斧(オールナイトアクス)を振り上げる。

 オルバーはバックステップで距離を取るが、問題はない。

 発動させるのは、投擲技のトマホーク。

「喰らえ!」

 左手から放たれた斧は、矢を番える(・・・・・)オルバーの肩にヒットした。

「ん?」

 何かがおかしい。

「斧にも遠距離技があったんだな、油断した」

 ゆっくりと、オルバーが弓を引き絞る。そこに番えられた矢は1本だけだが、直前の逃走劇の中でオルバーが番えた矢は3本。それは、一度も(・・・)放たれてはいなかった。

「でも、本家を舐めるなよ?」


高速乱射(ショットパレード)


 一射で、無数に分裂した矢が放たれた。

「くっ!」

 落としきることは不可能だ。

 斧を突き出し、横回転。赤い光を帯びた斧の盾が形成された。だが、それだけでは防ぎきれず、HPが削られる。

 左手に斧が戻ってくるが、2枚目のシールドを展開するほどの器用さは持ち合わせていない。

 矢の嵐が止む頃には、HPは2割ほど減らされていた。

 少し遅れて、アームシールドが終了する。

 その差が、致命的だった。


 矢を番えたオルバーが眼前に迫る。

麻痺矢(パラライズアロー)

 射つというよりは弓ごとぶつけられた一撃のダメージは大きくないが、追加効果の麻痺が発生。身動きが取れなくなる。

「これで勝敗は決した。何か言っておきたいことは?」

 オルバーはマイクのように矢を突き出した。

 完敗だ。そのうえで感想を求められたなら、こう答えよう。


「魔法使いなら、魔法で戦えよ」


 そんな奴は1人でいい。

「悪いな。使えないんだ」

 悪びれるでもなく笑うオルバー。

「その代わり、とっておきを見せてやるよ」

 勝ち誇った狩人は黄金の矢に続けて、赤と紫に光る矢を弓に番えた。3本の矢が2色の光を帯びた1本の矢に変化する。

異常状態乱射(バッドパレード)

 1本だった矢が、発射させると同時に分裂し、圧倒的な密度で襲いかかる。それだけなら、さっきと同じだが、違いはヒット後に判明した。

 HPの横に表示される火傷と毒のアイコン。

 矢の雨を耐えた残りHPは呆気なく全損した。


 とはいえ、アイテム交換に勝敗は関係ない。

 俺は金牛長弓(ロングレンジトラス)を、オルバーは理想鏡(りそうきょう)を差し出した。

 次はストック経験値を、と思ったところで2人同時にメッセージウィンドウが表示される。


┏ ギシンの森 侵入可能条件 ━┓

┃  レフト       15 ┃

┃  ライト       14 ┃

┃  ライダー      21 ┃

┃  ゼクレテーア    18 ┃

┃  オルバー      21 ┃

┃  ジャスティス    19 ┃

┗━ 合計レベル 108/106┛            


 少し遅れて、レフトからのメッセージ。

【決行は今夜8時。ギシンの森の入口に集合だ】

「夜なのか」

 てっきり準備を整えてすぐにでもやると思っていたのだが、都合の悪い人でもいるのだろう。

 というか、決定事項として送られてきたが、俺は都合は聞かないのか。予定はないけども。

 と、不承不承ながらも、了承の返信を送った。


「じゃあ、解散だな」

「経験値はどうするんだ?」

 オルバーが問う。

「必要なくなったから、やめとく」

 ギシンの森に入る条件が満たされた以上、急いで経験値を稼がなければいけない理由はない。

「その代わりに1つ、答えてくれ」


「俺のチートのことを誰から聞いたんだ」


 チート解放から1週間。隠しているわけではないが、説明の一部や能力の一端を見せた相手はいても、詳細は誰にも説明していない。

 公式の説明にも、有志の攻略サイトにも、俺のチートは載っていなかった。

 オルバーは考えるような素振りを見せたあと、ゆっくりと呟く。

「……ムウシ」

「なに?」

「知らなくても無理はない」

「あ、いや」

 俺は、その名前を知っている。

 初日にタヴの鐘でアーケインと共にスタンピードを仕掛けてきたプレイヤーだ。だが、チートの説明はしていない。というか、あの時点では俺さえ知らなかった。

「あいつは初めて会う俺のチートも知っていた。俺さえ使いこなせない詳細な仕様まで、な」

 少し誤解されてしまったが、無理に言う必要は無いか。

「そして、お前の存在とこの隠しダンジョンの存在を教えられ、利害の一致から手を組むことになった。言えるのはこれくらいだな」

「……いや、十分だ」

「あとはまあ、俺が言えた義理はないが、ジャスティスには気をつけろ」

「ジャスティスに?」

「情報提供の交換条件が、ギシンの森へレフトが参加するタイミングで、ジャスティスと一緒に参加すること。だったからな」

 また、レフトか。

 アーケインとムウシに続き、ジャスティスまで何かあるとは。ベータテストに何をやらかしたんだか。

 

 こうして、突如発生したおうし座の攻略戦は、ギシンの森への不穏な予感を残しつつ終わりを迎えた。


 

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