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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第2章 チート解放編

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魔法使いのクエスト

「魔法使いのクエスト?」


「あぁ、今朝解放された魔法使い(・・・・)だけ(・・)が参加出来るクエストで、5つ全てクリアすると【魔法使いの証】がもらえるんだ」

 今朝、掲示板を確認した時に見た覚えはないので、洋館のクエストと同じように特定のNPCから受けるクエストなのだろうか。

 問題は、前提条件である。

「魔法使い限定なら、俺いらないだろ?」

「第3・4の試練は協力プレイ可だ」

「なるほど。その試練に挑む時に手伝えばいんだな?」

(That's )(right)!」

 ライトだけに、とレフトが指を鳴らして笑う。

 上手いことを言ったみたいな得意げな顔をしているが、俺の名前はThat's(ザッツ) right(ライト)のライトじゃない。

 というか、なぜ、唐突に英語なんだ。


「まあいいや、その試練を受ける時に呼んでくれ」

 1つの試練にどれくらいかかるかはわからないが、2つ終わってからなら、しばらくはかかるだろう。

 その間に少しでもレベル上げをーー

「だから頼みに来たんだよ」

「は?」

「お前と合流する前に、第2の試練までは終わらせてきた」

「さすがだな!」

 やることが早い。ついでに、俺がログインしてもすぐに連絡が来なかった理由も判明した。

 だが、そうだとすれば疑問がひとつ湧いてくる。

「ヴァルキュリアに挑む前にやれば良かったんじゃないのか?」

 レフトはニヤリとカッコつけた笑みを浮かべた。

「無駄なことをすると思うか?」

「割と」

「おい」

「ぐふっ」

 杖で腹を思い切り叩かれた。

 ツッコミならせめて手でやれ。

 安全空間(コスモスペース)の中央広場なのでダメージはないが。

「ま、後でわかるから楽しみにしてろ」

「そうかよ」

 理不尽な仕打ちにジトっと視線を向けるが、レフトは何処吹く風といった様子で杖を担いだ。

「それじゃあーー」


「よ、ようやく、見つけたわ」


 そこへ、息を切らした魔法使いが現れた。

 水色と白の衣装に青いマントと涼し気な配色の装備に、小さな白のシルクハット。魔法使いというよりは手品師のような風体だが、夜色の杖を持っているし、魔法使いだろう。

「どちらさん?」

 十中八九、レフトの関係者なので小声で聞いてみる。

「第2の試練で戦ったユリウスだ」

「なるほど」

「帰国子女かもしれん」

「帰国子女?」

「英語が流暢だった」

「それだけか」

「ーー作戦会議はそこまでよ!」

 息を整え終えたユリウスが、声を張り上げる。

 そちらを見れば、青い魔法使いは片手を腰に当てて、もう片方の手で杖を突き出し、カッコよくポーズを決めていた。


もう一度(Let's)戦いま(fight)しょう(again)!」

 内容はカッコよくないが。

 そして、流暢な英語の発音。

「帰国子女かもしれないな」

「だろ?」

「無視しないでくれる!?」

 2人で納得していると、ユリウスの悲鳴じみた叫び声が響いた。

 自分か、と周囲のプレイヤーの視線が集まり、自分じゃないのか、と視線が外れる。ついでに、関わらない方がいいだろうか、とプレイヤー達が離れていき、周囲の人口密度が少し下がった。

 その流れに乗って、俺も距離をとる。

 ユリウスは周囲を気にしながら軽く咳払いをすると、早足でレフトに詰め寄った。

再戦(revenge)よ!」

 顔と顔がぶつかりそうな距離で睨まれても、レフトは怯まない。

「却下。俺たちは次に行く」

 ユリウスの顔を押しのけ、ひとり歩き出す。

「そこを何とかぁ」

 が、肩を掴まれ、立ち止まった。

困った(give)時は助(and)け合い(take)、でしょ」

「泣きの1回は受けてやっただろ。2度目はない」

「そんなぁ」

 離れようとしない魔法使いを引きずりながら、再び歩き出す。いや、置いていけよ。

「私は」

 目的地聞いてない俺は、置いていくなよ。

「私は、魔法使いに勝たないといけないの!」


「ほう。これは丁度いい場面に出会ったな」


 2人の会話に、新たな男が反応した。

 オールバックにサングラス。背が高く、肩幅も広い、いかにも魁偉(かいい)な風貌である。闘技場(コロシアム)で出会ったオカマ闘士や機械人間(アーケイン)よりも一回り以上は大きいだろう。

基礎領域(イェソド)に来れば誰かはいると思ったが、探す手間が省けて何よりだ」

 台詞からして魔法使い(MAGE)――それもクエストに臨む――なのだろうが、見た目は全く魔法使いらしくなかった。

 筋骨隆々たるその巨漢は、ゆっくりと歩いていき、レフトから離れて杖を構えたユリウスの前に立ちはだかる。

「俺の名はライダー。以後、よろしく」

 ごつごつとした厳つい手を、優しく差し出す大男。

「ユ、ユリウスよ。よろしく」

 ライダーは、僅かに震えながら差し出されたユリウスの手をがっしりと握りしめ、

「よろしく。ユリウス」

 ニカッと笑みを作った。

「で、魔法使いと戦いたいのだろう?」

 手を握ったまま、ライダーは話を続ける。

「そうっ、よ。か、勝ったらっ、次に進めるのっ」

 ユリウスは何とか手を放そうと、もがきながら答えた。だが、ライダーの手はビクともしない。すでに戦いは始まっている的なノリだろうか。

「では、お手合わせ願おうか。こんななりだが、魔法使いなんだ」

「……はい」

 ユリウスの抵抗は次第に弱くなっていき、諦めた。

 前哨戦はライダーの圧勝だ。


「あなたがたは、帰っていただいてよろしいですわよ?」


 ふいに聞こえてきたのは女性の声。ユリウスではない。そもそも聞こえたのは左側からで、そちらにいるのはーーいつの間にか避難していたレフトだ。

 驚いた顔でこちらを見つめるレフトと目が合った。

「今の声、お前か? レフト」

「今の声はどこから聞こえた? って、俺じゃねぇよ」

 お互いほぼ同時に声を発する。


「わたくしですわ。姿を現すのを忘れていましたわね」

 女が現れた。

 黒く長い髪の毛を耳の後ろで一つ結びにした、眼鏡の女だ。スーツを着ており、全体的な印象を率直に述べるのなら、OLだろうか。右手には小さなメモ帳のようなものを持っており、それっぽさを上げるワンポイントとなっている。

「いつからそこに……」

「企業秘密ですわ」

 OL風に返された。ただ、企業は関係ないと思う。

「それよりも、早くこの場から立ち去ることをオススメしますわ」

「お前も魔法使いか?」

「企業秘密ですわ」

 レフトが問いかけも、OL風に返された。

 発言のタイミングから考えてライダーの仲間であることは間違いないだろうが、見た目からは職業が全く予想出来ない。

「姿を消したのは、チートか?」

「企業秘密ですわ」

 レフトも同じように考えたのか質問を変えたが、OLの返答は変わらない。

「塞げ、火の壁。ファイアウォール」

 OLの詠唱に合わせて、火柱が立ち上り、炎の壁が形成される。火属性の防御魔法だ。

 たまたまだろうが、魔法名までOLっぽい。

「我が主の戦いは最高機密ですわ」

 今回の使用目的は視界を塞ぐことだろうが。

「この場は、早々にお引き取り願えますか?」

 真っ赤な壁を背に、OLがどこからともなく取り出した槍を構える。安全空間(コスモスペース)なのでPKは不可能だが、実力行使も厭わないという意思表示なのだろう。

 ダメージは与えられずとも物理的に押し出すことは出来るし、対戦(DUEL)という方法もある。

「……行くぞ」

 しばし睨み合ったのち、先に視線を逸らしたのはレフトだった。


 ◇


「で、目的地聞いてないんだが?」

 黙ってついてきたが、レフトが向かっているのは北。王国領域(マルクト)とは正反対で【ダイペーゲン】の名がついた大草原があるだけの方向だ。

 小さな丘は存在するが建物などは存在せず、モンスターが跋扈するだけでNPCはいない。更に先には未開放領域が広がっているが、現時点で行くことは不可能。

 要は何もないと思うのだが。

「小領域の主」

「なに?」

「そう呼ばれるモンスターを倒すことが第3の試練だ」

「なるほど」

 聞いたことないが、2つ名からすでに強そうだ。

「どんなモンスターなんだ?」

「気になるか? いいだろう」

 思わず聞いてしまったが、待ってましたと言わんばかりのレフトの顔がムカつく。


「小領域の主ってのは、

 【タヴの鐘】の【ギガアントライオン】、

 【シンの巣穴】の【スカルサーペント】、 

 【レーシュの丘】の【ヴェノムウルフ】、

 【コフの庭園】の【ナイトマジシャン】、

 【ツァディーの丘】の【オーガナイト】、

 の5体(・・)のモンスターを指す言葉だ」


「1体じゃないのかよ!」

「1体だけとは言ってないだろ?」

「……確かに」

 主という響きから洋館のクエストのユーサイズのようなパターンを想像していたが、数は明言されていない。

 ついでに全てが未知のモンスターではなかった。

 コフの庭園のナイトマジシャンといえば、夜の欠片を取りに行った時にチートで倒したレフト似のモンスターだ。

「ま、どれか1体でも倒せば、試練はクリアだけどな」

 タヴの鐘のギガアントライオンは、名前からしてレフトを待っていた時に襲ってきた巨大な蟻地獄(アントライオン)のモンスターだろう。

 他の3体は出会ったことのないモンスターだが、名前から能力や姿のイメージはつきやすい。

「こいつらは、ベータの時と性能が変わってなけりゃ、基本ステータスは同じだが、物攻、物防、魔攻、魔防、素早さのどれかが0の代わりに、どれかが2倍になってる」

 明確な得意分野と弱点があるということか。

 序盤の小ボスだということを考えれば納得の性能だ。


「で、どれを倒すんだ?」

「ツァディーの丘のオーガナイトだ」

 オーガナイト、直訳すると鬼騎士といったところか。

「性能は?」

「物防が倍で、魔防が0」

「無難過ぎてらしくないな?」

「……仕方ないだろ」

 レフトの表情が曇る。

「ベータの時に成長限界(Lv21)で何度もやってギリギリ勝てた相手だ。今のレベル(Lv14)じゃ、相性有利を狙っても勝てるかどうか」

 珍しく弱気な発言だ。

 いつもなら強敵相手でも根拠なく強気な発言が多いが、根拠があるとむしろ弱気になるらしい。

 ならば、ここは根拠(・・)を持って宣言しよう。

「無理だったら俺が(・・)代わりに倒してやるよ」

「……はっ、必要ねぇ」


「一発で決めてやるよ」


 レフトの顔に不敵な笑みが戻った。

 ただ、一撃は無理だと思う。


 こんにちは、今回も後書きは私、銀が担当させていただきます。

 以前、ベータテストで使用時間が最も長かったのが魔法使いで、製品版では特別な役割が与えられるというお話をしましたね。

 それこそが、この魔法使いのクエストです。

 上級職への転職に必要となる【証】を入手出来るクエストになっており、全ての職業で専用のクエストを受けることになりますが、その試運転に選ばれたのが魔法使いです。

 正式に転職が出来るようになるのは、【転生・転職神殿】のある勝利領域(ネツァク)が解放されてからになるんですけどね。

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