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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第2章 チート解放編

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チート無双

 月の満ちる庭園を、短刀片手に考古学者が駆け回る。

 いや、職業は盗賊(THIEF)らしいから、イメージとしては盗掘者か。狙っているのは墓に眠る財宝ではなく、魔法使いの落とす宝石だが。


「出たで、ライトはん!」

 ニコラの近くに【ナイトメイジ】が出現する。

「了解!」

 俺は庭園の中央から、その背中目掛けて斧を投げつける。ただ投げるのではない。投擲技のトマホークだ。

 ここにいれば、庭園内のどこに現れようと射程範囲であるし、斧はブーメランのように戻ってくるから何度でも繰り返せる。

 まあ、この位置にいるのは【ナイトマジシャン】がリスポーンを防ぐ、あるいは出現にすぐ気がつけるようにというのもあるが。

「しぶといやっちゃな」

 ナイトメイジーー魔法使いなだけあって物理防御は弱いのだが、今回のように倒しきれないこともあり、その場合はニコラがとどめを刺す。


 この連携を1時間ほど続けているが、ドロップしたのは1個だけーー

「よっしゃ、ゲットや!」

 ーー2個だけで、心なしかナイトメイジのリポップ率も下がってきている気がする。同じところで狩りを続けていると出現しにくくなるのは、この手のゲームではよくある仕様だ。


「そろそろ、頃合やな」

 ニコラも同じように感じたのか、夜の欠片をいじりながら、ゆっくりとこちらに戻ってきた。

「お疲れちゃん」

「お互いにな」

「あんさんのおかげで随分と楽に稼げたわぁ」

「1個ずつしかないけどな」

 最初の1個は俺が貰ったので、今ドロップしたのはニコラの取り分だ。

「せやな。本当ならもう1個くらい欲しいとこやけど、敵さんも出てこんくなっとるし」

「時間を置く必要があるな」

「やな」

 お昼を過ぎてお腹も空いてきた頃だし、昼食を食べて戻ってきた頃には、出現率も戻っているだろう。

「じゃあ、また縁があれば」

「最後にひとつだけ」

 ニコラはニヤリと口角を上げ、とびきり胡散臭い笑みを浮かべる。

 

「【ライトはん】って車みたいな名前やな」


「……ライトバンって言いたいのか?」

 というか、勝手にはんをつけるからそれっぽくなっているだけで、俺の名前はライトバンのライトじゃない。

「そこはもっと元気にツッコンでくれや」

「いや、そういわれてもーー」


 ドスッと、背中に衝撃。


 撃たれた。

 そう思って振り返るが、誰もいない。

「あんさんそれ」

「大丈夫だ。問題ない」

 感触からして矢だろう。ダメージは誤差の範囲だが、今回はそれだけでは終わらない。異常状態を表すアイコンがHPゲージの上に表示された。紫色の髑髏マークは、毒だ。

 ゲームのPVでは見たが、実際のプレイで見るのは初だな。

 問題は、誰が打ったのかだ。

「ニコラ。誰か、怪しい人影は見たか?」

「見てへんな」

「……そうか」

 コフの庭園に出現するモンスター達の攻撃手段は魔法だし、新種だとしても攻撃してすぐに隠れるのは序盤のモンスターにしては不自然。

 必然、プレイヤーの可能性が高いが、姿は見えない。

「……まずは解毒するか」

 毒状態は、一定時間ごとに最大HPの2パーセントが減っていく異常状態だ。それは、毒にさえしてしまえばそれ以上攻撃しなくても相手を倒すことが出来るとも言える。

 回復されなければ、という条件がつくが。

 ストレージから解毒ポーションを実体化して、一気に飲み干す。

 ーーが、髑髏マークは消えなかった。念の為にストレージを確認してみるが、消費したのは間違いなく解毒ポーションだ。

「どういうことだ?」


「あ、すまんすまん。オレのチートや」


 ニコラが頬を掻く。

(THE MOON)混沌の世界(カオスワールド)危険地帯(カオスエリア)にいる間はMPが自動で回復していくチートなんやけどーー」

 最初にも言っていた効果だが、多少の制限はあるらしい。

もう1つ(・・・・)効果があってな。オレが近くにいる限り、毒とかの状態変化が固定されるんや」

「なるほど」

 自動MP回復だけでは微妙かと思ったが、アイテムを使っても毒が治せないというのは、チートと呼ぶに相応しい性能だ。

「なら、今日はここまでにしよう。襲撃者はおーー」

嫌や(・・)

「は?」

 予想外の拒否に振り返ると、ニコラは不気味な笑みを浮かべていた。


「ライトはんのチートは、体力(MAX )(HIT)タン( POINT)やろ? PVでもやっとったけど、その弱点は毒や」

「残念ながら、俺のチートは体力(MAX )(HIT)タン( POINT)じゃない(・・・・)

「それならそれでかまへん」

 言い返してみたが、ニコラの笑みは崩れない。

「大事なんは、毒で死ぬっちゅうことや」

「毒で死なないチートがあるのか?」

 チートがあることは明らかになっているが、公式からその詳細はほとんど明かされていない。攻略サイトにも、毒を無効化(・・・)するようなチートは載っていなかった。

「あるかもしれへんやろ?」

 自分のチートを過信するタイプではないらしい。見た目通りの抜け目のなさだ。

「ただ、少なくともライトはんは違う」

 初対面で自分のチートについて話したのも、こちらの口を軽くするためか。

「魔法攻撃を余裕で耐えとったし、HPか魔防に関するチートなんは確定や」

 確かに、専用のチート(・・・)でもない限り、毒が治せなくなった時点で生存は不可能だろう。


「そこで、提案や」

 ニコラは夜の欠片を手で弄びながら、不敵に笑う。

「もし、夜の欠片をくれるんなら、ここは引いたるわ。とりあえず、オレと彼女の分の2個(・・)でどや?」

 協力プレイの1つと、ナイトマジシャンの1つで、2つか。確実に持ってる分だけを要求してくるやり口がいやらしい。

 彼女というのは、どこかに潜んでいるこの矢の主か。

「渡す気はないって言ったら」

「あんさんが、毒で死ぬだけやな。そうしたいんなら、好きにしたらええ」

死んだとしても(・・・・・・・)、必ずこの借りは返すぞ」

「好きにしたらええ。見つけられたら(・・・・・・・)、やけどな?」

 ニコラの笑みは崩れない。

 確かに、名前と顔くらいしか知らないプレイヤーと再会することは稀かもしれないが、この自信はそれだけでは説明がつかないような。


「まさか……(DOP)(PEL)(GAN)(GER)か?」

「ご明察」

 糸目が薄らと開かれる。

「この顔も、名前も借りもんや」

「…………」

「お人好しが過ぎたな。ライトはん」

 顔も名前も違うというなら、この自信も頷ける。チート(・・・)でもない限り、見つけるのは不可能だろう。

 自称ニコラが顔に手を当てると、その顔が俺の顔へと変化した。

「今度は、お前の(・・・)顔を使って、誰かをひっかけてやるよ」

 その顔に浮かぶのは邪悪な笑み。俺にも同じ表情は出来るのだろうが、悪人ぽいので避けたいところだ。


「は、はは」

「ん? 何がおもろいんや?」

「いや、色々と都合がいい(・・・・・)というか、詰めが甘いというか」

 ニコラ(仮)が悪いわけではない。いや、やろうとしてることは悪いが。今回は彼のやり口と俺の相性が絶望的に悪かったのだ。

「お前、この戦法でプレイヤーが死ぬまで待ったことあるか?」

「あるに決まってるやろ?」

「そいつは、こんなに長生きしてたか?」

 彼には見えていないだろうが、俺のHPはまだ1割も減っていない。

「……っ! まさか、毒が効かないんか。いや、でもチートはーー」

「お前も言ってただろ」

 斧を地面に突き立てる。


チートの効果の(・・・・・・)ひとつ(・・・)()。って」


「なっ……」

 チートの効果はひとつとは限らない。

「俺のチートは、防御系のチートでもあり、毒が効き(・・)にくい(・・・)チートでもあり、ついでにーー」

 一足で距離を詰め、理解の追いついていない考古学者の顔面を素手で殴りつける。

「ーーすばやさ系のチートでもある」

「んなの、ズルーー」

 その言葉が最後まで言いきられることはなかった。

 体がポリゴンの欠片となって砕け、その手から夜の欠片が落ちる。武器や防具は本人と一緒に人魂になるが、持っていただけのアイテムはその限りではないらしい。


「これは、迷惑料としてもらっとくよ」

 夜の欠片を拾って、ストレージへしまう。

「ま、毒が効きにくいのは、俺も今知ったんだけどな」

 入れ替わりに解毒ポーションを取り出して、飲む。人魂状態ではチートの効果が発揮されないらしく、毒はすぐに消えた。

「ズル、ね」

 語源からしてズル(CHEAT)だから、言い得て妙かもしれない。とはいえ、大きな力には代償(デメリット)が付き物だ。

 攻撃で倒されないチートが毒に弱いように、俺のチートは経験値が得られないし、そもそも使える状況が限られる。

 そんな俺のチートは矢の主が消えたことを静かに伝えて、機能を停止した。仲間が倒されれば矢の主が出てくるかと思ったが、そう甘くはないらしい。


「見捨てられたみたいだな?」

 偽ニコラの返事はないが、人魂になっても聞こえているはずなので続ける。

「あと、(DOP)(PEL)(GAN)(GER)じゃないだろお前。条件を満たしてないのに、俺の顔を使ってたし」

 本物だとすれば、変身する為には触れる必要があるはずだが、最初の握手は拒んだし、共闘中に触れる機会はなかった。

 顔についてはどうやったのかわからないが、手を当てていたから何らかのアイテムを使ったのだろう。

 その上で(DOP)(PEL)(GAN)(GER)を名乗ったのは、自分を容疑者から外すため。

 つまり、

「顔は覚えたからな。記憶力には自信があるんだ。次に会ったら覚悟しとけよ?」

 夜の斧(ナイトアクス)を人魂へ向ける。

死んだとしても(・・・・・・・)借りは返すって、言ったよな。1度死んだくらいで終わりだと思うなよ?」

 口角を上げて、不敵に宣言するも、言い終わるかどうかというタイミングで、人魂は消えた。

 まあ、釘を刺すことは出来ただろう。

「帰るか」

 ナイトメイジの出現率も下がっているし、体力的にも、精神的にも疲れる一幕だった。

 おとめ座での悪魔(グリード)といい、プレイヤー運がない日だ。


 ーーなどと思ったのがいけなかったのだろうか。


「ちょっと力を借りたいんだが、今ヒマか?」


 クエスト掲示板で処理を終えたところで、新たな胡散臭いプレイヤーに声をかけられてしまった。


 どうも。今回はチートが出てきたんで、銅が担当させてもらうっす。

 チート(THE MOON)

 と言っても効果は本人が説明している通り、自動MP回復と状態異常の固定化。対となるルークの太陽(THE SUN)もそうっすけど、自動MP回復は、攻略が進めばアイテムやスキルで付与することも出来る力ではあるっすね。

 まあ、状態異常の固定化を無制限に出来るのは、このチートだけの特権っすけど、毒自体のダメージ量に干渉するライトのチートを相手にするには少し分が悪かったようっすね。

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