決戦へ向けて
盛大に啖呵を切ったが、決戦は翌日に持ち越しとなった。
表向きの理由はチートが解放されてからの方が面白いだろうから。個人的な理由は少しでも強くなるための時間が欲しかったから。
魔法耐性の高い装備を整えるという手段もあるが、今は無理だ。魔法耐性を上げるには自分のレベルをあげるしかない。
ついでに、レベルが10になれば新たなスキルも手に入る。そのスキルに一縷の望みを託して、レベル上げに挑んだ。
だが、現実はそんなに甘くはない。
いやまあゲームだけど。リアルラック的な意味で。
手に入ったスキルは優秀であることには違いないのだが、レフトとの戦いに生かせるものではなかった。
それでもポイントを振るべきかと指が動き、そんなに焦るなと、手が止まる。気晴らしにモンスターを狩っては、ポイントを振るべきかと考え直す。
そんなことをしているうちに、日付が変わった。
――チートの解放だ。
さっそく確認してみるが、やはり現実は甘くはない。
強力であることには間違いないが、レフトの戦いには使えないチートだった。
他にも3日目に解放されたことは色々とあるみたいだが、今は気にしない。
レフトと戦うまでにもうひとつレベルをあげるため、狩りを再開した。
◇
苦労のかいもあって、レベルは11になっていた。
レベルアップで得たスキルポイントは全て、斧スキルに割り振り、新たな技を習得。稼いだVRYをほとんどつぎ込んで、新たな防具も手に入れた。
準備は万端だ。
「待たせたな」
タヴの鐘のベンチに座って最終確認していると、待ち人が現れた。
「防具は新調したみたいだな」
「……お前もな」
得意げに指摘してくるレフト。その装いも、昨日とは変わっている。
武器が変わったわけでも、身に纏う服が変わったのでもない。その右手に、昨日はなかった盾が握られていた。
「戦士と戦うんだ。当然だろ?」
レフトは得意げに笑ってみせる。
「そういうお前は、俺のファイアボール対策か?」
「……そうだよ」
順当に強化していくなら、【青銅の鎧】があったのだが、一足飛びに【鉄の鎧】を手に入れた。
その理由は、装備することによって火属性の軽耐性が得られるからだ。
それを、姿を見ただけで当てられた。
「お前は盾だけで十分なのかよ?」
苦し紛れに言い返してみる。
「そんなわけないだろ」
レフトはニヤリと笑い、メニューを開いた。待ってましたと言わんばかりの態度だ。レフトの狙った通りの質問をしてしまったことが、少し口惜しい。
そんなことを考えているうちに、レフトの姿が変わった。
D装備を外したのか。
いかにも魔法使いらしい姿から一転、身に纏うのは青銅製の胸当てだった。鎧をつけられない魔法使いの数少ない物理防御力をあげる装備品といえるだろう。
レフトもまた、この戦いに万全の準備をしてきたのだ。
そのことが、少し嬉しかった。
「なんだよ、ニヤニヤして。楽勝だと思ったのか?」
頬が緩んでいたらしい。
「いや」
キリッと真面目な表情を浮かべ、斧を構えた。レフトの衣装は元に戻っているが、中の装備品を変えたわけではあるまい。
いくら紙装甲の魔法使いでも、防御力のあるものを装備されては一撃では落ちないか。
「全力で勝たせてもらう!」
「その意気だ! 俺も全力で行くぜ」
レフトも笑顔で応えたが、武器は構えなかった。というか、取り出してもいない。
「じゃ、場所を変えようぜ」
「え?」
どういうこと。
「お前、今日から解放のアレ、確認してないのか?」
チート以外は確認していない。素直にそう答えるのが癪だったので黙っていたが、レフトは深々とため息をついた。
メニューを開き、【お知らせ】の書かれた画面を出して、その中の1文を指さす。
そこには、こう書かれていた。
【闘技場にて、模擬戦モードが追加。
プレイヤー同士の対戦はもちろん。全ての種族、職業のNPCを選んで設定して戦うことも可能】
「なるほど」
つまり、ここに行って戦おうと、そういうことらしい。
「じゃあ、行こうぜ」
「あいよ」
拳を打ち合わせ、俺達は闘技場に向かった。
「よお、ライトじゃねぇか」
その入口で、狼獣人と出会した。懲りずにサバイバルに挑んでいるかと思ったが、違う。あれは、チートが解放されるまでにクリアすればという条件だったはずだ。
今日はもうチートが解放されている。
たまたまルークが勘違いをしていて、チートもないキャラという可能性はあるが、限りなくゼロだろう。
「お前ら何しに来たんだよ?」
「そういうお前は?」
ルークの問いかけに、俺はオウム返しで答えた。
はぐらかしたのではない。知りたいという気持ちが先行しただけだ。
「オレか? オレは、決まってんだろ」
ルークは鋭い爪の生えた指で頬をかいた。
「今日こそ、パナケイアさんをデートに誘うんだよ」
「あ、そう」
しょうもないのでスルーする。
「俺達はこれから、模擬戦をやるんだよ」
「模擬戦って、今日追加のあれか?」
「その通りだ」
みんな確認しているらしい。レフトとの対戦で頭がいっぱいだったとはいえ、目を通すくらいはしておけばよかった。
そんな後悔が押し寄せる。
「面白そうだな。オレも混ぜてくれよ」
「え?」
想定外の反応だった。
その質問にはひとりで答えを出すわけにはいかない。
少し離れて知らぬ存ぜぬを突き通そうとしているレフトに声をかけた。
「なあ、ルークが混ぜて欲しいらしいんだが」
レフトは鋭い視線をルークに向ける。
ルークはニカッと笑ってレフトを見つめ返した。
「……見物くらいなら」
「そんなケチなこというなよ、兄ちゃん。オレとあんたの仲だろ?」
「仲良くなった覚えないんだけど!?」
近づこうとして、激しく抵抗されているが、ルークは怯まない。
「だからこそ、仲良くしようぜ」
真っ直ぐに見つめられて、レフトが折れた。
「……俺達の戦いが終わったあとに戦ってやるよ」
「ありがとよ! やっぱ持つべきものはダチだな」
ルークはレフトの肩に手を回すと、ズカズカと闘技場に入っていく。
というか、最初に戦うのはお前じゃないんだけど。
わかってるのかわからないルークを追って、闘技場の中へと足を踏み入れた。
喧騒と雑踏に包まれた空間は、以前と変わらない。
違う点を挙げるとすれば、NPCとプレイヤーの割合だろうか。前に来た時は、ほぼ全員がNPCだったが、今は行き交う人々の半分くらいがプレイヤーだ。
そして、プレイヤーが最も集まっている場所が、模擬戦の受付だった。特に決まりがあるというわけではないのだろうが、規則的に蛇行した行列が出来ている。
3人で最後尾に並んだ。
「なあ、お前らはどんなチートが出たんだ?」
ルークが軽い調子で尋ねてくる。他意はないのだろうが、これから戦う相手に聞くことではないだろう。
まあ、俺のチートはルークにも使えないけど。
「人に聞く前にお前が話したらどうだ?」
レフトがニヤリと笑う。
ルークが言葉に詰まると思っての判断なのだろうが、その考えは甘い。
「オレか? 聞いて驚くなよ? オレのチートは太陽と書いて、太陽と読む。カッコイイだろ? 能力は――」
ふと、ルークが止まった。
「これって言ったら不利になるんじゃね?」
ようやく気づいたらしい。
レフトは呆れてため息をついていた。
まあ、こいつは普段からこんなやつだ。内容を説明する前に止まったのが、早いくらいだろう。ルークはノリと勢いで生きてるというか、頭はいいのにバカなのだ。
「そういうことだ」
ただし、こいつのチートが戦闘向きだということは判明した。不利になるという発言から、対策は可能なチートということか。
「なあ、お前らのも名前くらい教えてくれないか?」
「断る」
ルークの懇願を、レフトが一蹴りした。
その流れで俺だけ言う気にはなれない。
「残念だったな」
肩に手を置くと、ルークはガックリと項垂れた。
その姿を見て哀れに思ったのか、レフトがため息をついてから、口を開く。
「まあ、安心しろ。俺のチートは対人用じゃないからな」
そこまで言っていいのか。
そう思ってレフトの顔を見るが、余裕に満ちた表情があるだけ。チートがなくても関係ないという自信に溢れていた。
「ライト。お前からは何も無いのか?」
レフトが口角を吊りあげ悪巧みするような笑みを、ルークは純粋な好奇心に彩られた瞳を向けてくる。
チートの名前や使い道など、何かを言えってことだろう。
となれば、言うことは決まっている。
「お前らと戦う時は使えないから、気にすんな」
伝わってないようだが、言えないんだから仕方がない。
「それよりも、なんか楽しい話でもしようぜ」
順番を待つ間は他愛もない話で盛り上がった。
現実でも知り合い、というかクラスメイトだが、レフトが素性を隠しているため、話題はゲームについてだ。掲示板等の――俺が確認していなかった――3日目に解放されたことが話題に上がった。
やっぱり、新しいことは共有したくなるのだろう。
俺は相槌を多用することで、その状況を乗り越えた。
そうしているうちに、順番が回ってきた。
皆さん、こんにちは。
後書き係、あるいは音声ガイド、もしくは武器ガイドの銀です。
ついに、アットホーム・オンラインのオリジナル要素【チート】が登場しましたね。まだ使われてはいませんが、この先のゲーム攻略を大きく変える要素です。
プレイヤー1人につき、1つだけ。
その総数は1000にものぼるとか。まあ、それは大袈裟だとしても、職業・種族や武器・防具との取り合わせを含めて、プレイヤーの数だけ選択肢があると言っても、差し支えないでしょう。
という話は置いておきまして。
次回ついに【ライトVSレフト】!




