チャットに集う同士達
【名前を入力してください】
指示に従って【ライト】と入力すると、トーク画面が開いた。上には【CHAT ROOM 5】と表示されているが、部屋の番号だろうか。
『お、新しい人が来たね』
入ってすぐにコメントが表示された。
『僕はハクア。よろしく』
コメントの横には笑顔の入った白いハートマークを赤で囲んだ正方形のアイコン。その下には【ハクア】と表示されている。
「よろしくお願いします」
『ま、そんなわけで』
俺のコメントと同時に【青レンジ】なる人物がコメントした。緑、ピンク、赤、青、黄色の服を着た5人が並んだ絵のアイコンで、青い人物に矢印が引かれている。
『俺のことは青レンジャーと呼んでくれ』
『文字数制限の話だよ』
青レンジーーもとい青レンジャーの要請に【カルマ】が反応した。アイコンはシンプルで、白い卵に赤い背景だ。
『4文字までしか入れられなかっただろう?』
カルマは会話の流れを伝えてくれたのか。
「そうなんですね」
文字数制限については、3文字の名前だったから全く気がつかなった。
「ゲームの時もですかね?」
『どうだろうね』
『ゲームでは六文字ですよ』
俺の疑問符に答えたのは【ムウシ】。こちらは、白い炎のようなアイコンだ。
『物知りなんですね(⌒∇⌒)』
顔文字付きで反応したのは【エリッチ】。名前と文体から予測するなら女子高生だろうか。アイコンはカルマの色違いで、白い卵と黄色い背景だ。
『聞いや話ですけどね』
『本当だといいですね(・・D 』
『ま、ゲームじゃ4文字の名前使うんだけどな』
『それじゃあ確認は不要だったかな』
ムウシ、エリッチ、青レンジャー、カルマとコメントが目まぐるしく投下される。アイコンがなかったら、誰が何を言っているかわからなくなりそうだ。
【ライダーさんが入室しました】
『お、新しい人が来たね』
新たな訪問者を待っていましたとばかりにハクアが反応する。
『僕はハクア。よろしく』
俺の時と同じコメントに、
『俺の名はライダーだ。よろしく頼む』
ライダーも俺と同じような答えを返した。その名に相応しく、アイコンはバイクに乗ったジャケット姿の大男。本人だろうか。
【リュウさんが入室しました】
『お、新しい人が来たね』
用意していたかのような速さで、ハクアがコメントする。……この速さは、ような、じゃないな。
『僕はハクア。よろしく』
だが、訪問者リュウは答えない。
『シャイなのかな? 緊張しなくても大丈夫だよ』
ハクアが優しく語り掛けるが、リュウの反応はない。
そして、それ以外の人の反応もない。
『あれー……、みんな?』
ハクアが寂しげにつぶやく。それに対応するように白いハートマークの中の顔が寂しげな顔に変わった。
『はーい(^▽^)/ ちょっと落ちてたの。ごめんね(..)』
エリッチの返答に、ハートマークの中の顔が満面の笑みを浮かべた。
『エリッチ! 反応してくれてありがとう!』
『どういたしまして(o^――^o)』
そういえば、アイコンの画像はどうやって設定するのだろうか。コメントを振り返ってみると、俺は青い背景の中に白い卵があるアイコン。エリッチとカルマの色違いだ。
だが、他の人はそれぞれ異なったアイコンであり、ハクアの場合は切り替わったりもしている。
「アイコンってどうやって設定するんですか?」
疑問を投げかけると、少し間があって、2人から返信が来た。
『アイコンをクリックして、出てきた設定からアイコンの変更を開くと、ギャラリーから選べるよ』
『設定を開いて、上から二番目にあるアイコンの変更という項目を選ぶと、自由に変更が出来るぞ』
ハクアとライダーの返信は、タイミングがほぼ同時だった上に、文字数までピッタリと同じだった。
偶然の一致にふと笑いがこみ上げた。
『文字数同じですね( *´艸`)』
エリッチも同様の感想を抱いたようだ。
「ありがとうございます!」
言われた通りに画面を操作し、ギャラリーから適当な写真を選択。そのままではアイコンがちゃんと切り替わったか確認できなかったので、
「アイコン」
コメントの横のアイコンはきちんと選択した写真に変わっていた。
『でも、変えてよかったのかい?』
アイコンを変えている間も会話を続けていたハクアが、こちらの話題に反応した。変えてよかったのか、とはどういう意味だろうか。
『赤、青、黄色で三人そろえてるのかと思ってさ』
なるほど。背景の色だけが違っていたから仲間か何かだと思ったということか。
「別に関係ないですよ」と俺が打ち終わるよりも早く、
『別に関係はないですよ(>_<)』
エリッチがコメントを投下した。
女子は文字を打つのが早いなぁ。と感心していると、
『仲間じゃあないよ』
アイコンを銀色の車に変えたカルマも反応したので、急いでメッセージを送信する。
「べつにかんけいな」
……打ってる途中だった。
『わかったよ。ところでカルマ、その車』
『知っているのかい?』
『知ってますよ。手に入れたら時間跳躍できるように改造してみたいくらいにはね』
『なるほど。ちょっと語り合わないか』
『いいですよ』
【ハクアさんが退室しました】
【カルマさんが退室しました】
誤爆に触れることもなく、車の話で盛り上がった二人は退室していった。
あとから知った話によると、相手のアイコンをクリックすると個人チャットが出来るらしい。双方の同意が得られて、個人チャットが始まると、全体チャットからは退室となる仕組みらしい。
『まさかの、お持ち帰り……』
青レンジャーが呟いた。
『なら、エリッチ。俺と2人で話さないかい?』
『お断りします(⌒∇⌒)』
あっさりと振られたようだ。
それからも雑談は続き、気がつけば時刻は23時55分。
ちなみに、チャットルームに入る前にアイコンが設定出来なかったのはパソコンから入った人に共通することだとわかった。まぁ、どっちでもいい事だが。
【まもなく、ベータテストプレイヤーの結果発表を行いますので、部屋は閉めさせてもらいます】
アイコンなしでコメントが投稿された。それを受け、皆が一言声をかけて退出していく。
よく見ると【CHAT ROOM】の横に書かれていた数字が退出に合わせて減っていっている。あれは部屋の番号じゃなくて、部屋にいる人数だったのか。
「ありがとうございました!」
謎が1つ解明されたところで、他の人に倣い、コメントを残して退出した。
結局、リュウという人物は1度も話すことはなかった。
そして発表された投票者結果。
物語の主人公ってのは、このわずかな確率を引き当てるのだろう。だが、残念ながら俺はその他大勢のほうだった。
【外れた方にも優先販売権が付与されます。下記のURLをクリックして、購入店の登録を行ってください】
指示に従いURLを開き、出荷予定店舗から1番近くにあるゲーム店を選択。応募番号と連絡先、4桁の暗証番号を設定し、完了。
ブラウザを閉じて、パソコンの電源を切った。部屋の電気を消し、ベッドにダイブ。
いつもより長く起きていたせいか、寝落ちするように深い眠りについた。




