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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第1章 戦いの始まり編

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19/94

星の守り神

 人魂の消滅が戦闘終了の合図だったのか。

 天使が俺達の前に舞い降りる。正面に見据えたその顔は、無機質で機械チックだった。

 回復したのか、名前の上に表示されたHPは全く減っていない。


「殲滅――セヨ」

 天使が駆ける。

 同時に、両手の光球から光線が放たれた。

 光線は俺を挟むように通り過ぎて、消える。躱したのではない。外したのだ。

 当てる気など最初からなかった。挨拶代わりの威嚇射撃だ。表情ひとつ変えずに向かってくる天使は、そう言っているような気がした。


「ぼーっとすんな!」

 焦っているようなレフトの声。その声で武器を構えていないことを思い出した。

 メニューを開き、装備品一覧の武器を選び、夜の斧(ナイトアクス)を選択する。何も無い空間から現れた斧は、自然と手の中に収まった。

 天使は、すでに目の前だ。

 隙を見せることをわかった上で、斧を振り上げる。

 天使の拳が腹部に刺さる。

 HPは1割ほど削られるが、それだけだ。斧を回転させて、スキルーー【兜割(かぶとわ)り】を発動。追加効果で敵の物理防御力を下げる技だ。

 天使の拳が離れた。

 だが、遅い。

 振り下ろした斧は、離れていく天使に当たり、そのHPを削った。1割――は、いってない。だが、物理防御力は下げた。

 次の一撃では1割を削る。

 床を蹴って踏み出すと同時に、斧を水平に引いた。発動するスキルは、【大木斬(たいぼくざん)】。

 システムのアシストに引っ張られるように走り、赤く光る斧を水平に薙ぎ払った。

 天使は大きく翼を羽ばたかせ、空に逃げる。

「くそっ!」

 技は空振り。けれど、しっかり発動させたので技後硬直は当てた時と同じように起こってしまう。

 天使はさらに高く舞い上がった。

 もうあの高さでは俺の攻撃は届かない。

 俺のは、だが。


「背中借りるぜ」

 レフトが俺の背中を蹴って、飛んだ。

 地味にダメージ判定は出ているが、それは気にしないでおこう。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 レフトが放った魔法を(かわ)すために、天使は上へ飛び上がる。

「くそっ! 距離を取れ!」

 レフトが叫んだ。

 その理由を聞くよりも早く、天使が体を回転させる。その動きに合わせ、盆から水が溢れるように、光の雨が降り注いだ。

 これは確かに距離を取るしかない。

 逃げて、逃げて、逃げる。

 全てを躱しきれはしなかったが、直撃を免れたおかげで、HPは8割を保っていた。

 HPが減らなくなったところで、振り返る。

 攻撃を終えた天使は、ゆっくりと地面に降り立った。

 仕切り直しだ。

 今度はこっちから仕掛ける。


「行くぞ! レフト!」

「わかってるよ!」

 前後からの挟撃だ。

 ダメージを与えたのは俺だけなので、前はもちろん俺。少しでも引き付けて、レフトに攻撃のチャンスを与える役割だ。

 天使が真っ直ぐに飛んで来た。

 斧を振り上げて、回転させる。

 相打ち覚悟の一撃だ。横ではなく、縦に動く【兜割り】なら、飛んだとしても当てられる。むしろ、その方が攻撃は受けないから好都合だ。

 ――そんな甘い考えは、お見通しらしい。

 天使は兜割りを横にスライドして回避すると、後ろに飛び退きながら、光の玉を投げつけてきた。

 スキルを撃ち終えたばかりの俺には、避けられない。

 玉が弾け、HPが削られた。

 攻撃は当てられず、むしろダメージを与えられただけ。個人で見ればいいとこなしだが、注意を引くという役目は果たした。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 叫びながら、レフトは半月(・・)の装飾品がついた杖を振り下ろす。真っ赤に光るその装飾品は、スキルが発動しているというよりは、燃えているようだ。

 そう。例えるなら、火球のように。

「嘘だろっ!?」

 斧の一撃では1割も減らなかった天使のHPが、3割も減った。

 魔法職の物理攻撃でさらっと戦士よりもダメージ出されると、傷つくな。いやまあ、スキルなんだろうし、原理も違うから、一概に優劣が決まるわけじゃないけどさ。

 気分的にスッキリにしない。


 だから、レフトに向いた視線を戻させるために、斧を構えた。スキル技を選ばなかったのは、威力の問題だ。

 兜割りも大木斬も、追加効果があるだけで、威力は通常攻撃と変わらない。当てやすさには補正がかかるが、同時に動きも制限されてしまう。

 極めつけに、2つのスキル技は単発攻撃だ。

 剣ほど扱いやすくはないが、斧でも連撃は出来る。大きなダメージをというだけなら、それで十分。

 問題は、追いつけないということだ。

 足の速さ――天使は浮いているが――で負けていた。走ってるとか飛んでるとかの違いではなく、天使の方が速いのだろう。

(ふさ)げ、()(かべ)。ファイアウォール」

 真っ赤な壁が現れて、天使が止まった。

「どーも!」

 レフトの魔法は攻撃ではなく、行く手を遮るだけだ。それでも、天使は動きを止めた。

 火の壁は消え始めてしまうが、問題はない。

 追いついた。

「喰らえ!」

 無防備に晒された背中に斧を振り下ろす。続けて振り上げ、薙ぎ払い。

 天使が振り返ってしまったため最後は浅かったが、目的は果たした。振り返ったということは、俺の方がヘイトが高くなったということだ。

 天使のHPは半分を下回り、約3割を残して止まった。今の3連撃をもう一度やれれば、倒せる。

 だが、次の攻め手は、完全に振り向いた天使だ。

 天使は後ろに飛び退きながら、光の玉を投げつけてくる。俺に躱す余裕はなく、HPが削れた。

 天使の攻撃は終わらない。

 さらに後ろに下がると、もう片方の手の光も投げつけてきた。

 これも、まともに受けてしまう。

 攻撃に移ろうとしていたため、避けられなかったのだ。HPが削られ、半分を切る。ゲージの色は、緑から黄色に変わった。

 対する天使も、両手の光球を失っている。

 反撃されない攻撃のチャンスなのだろうが、あいにくと俺は遠過ぎた。攻撃出来るとすれば、


「トドメはもらうぜ!」

 真後ろに立つレフトくらいだ。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 赤く輝く杖が振り下ろされた。

 その威力はHPゲージを見るまでもない。

 天使は動きを止め、ポリゴンの欠片となって砕け散った。


 俺達の勝ちだ。


 104という経験値が表示される。

 レベルは上がらなかったが、次のレベルに近づいたことだろう。そう思ってメニューを開いてみるが、経験値は全く増えていなかった。

「おい、レフト。経験値が増えてないんだが?」

「あ……」

 レフトが目を逸らす。

「そういう敵だったんだな。苦労したのに残念だなー」

「いや、違うだろ!」

 ごまかし方が無理矢理過ぎだ。

「ユーサイズの時はしっかりと分配されたと思うんだが? そのあたりのしっかり説明をしてもらえるか?」

「あぁ、全部説明してやるよ」

 ビシッと、レフトは杖を横に向けた。

「あいつを倒したらな」

 敵か。

 そう思ってレフトが示したほうを向いてみるが、そこには何も無い。ゆっくりと現れるとか、隠れてるとか、そういう雰囲気でもなかった。

「どれだよ?」

「あれ?」

 レフトは首を傾げる。

 どうやら、確認しないで杖を指したらしい。

「おい、また違う展開か?」

「あー、いや、そうじゃなくてな」


「――断罪(だんざい)(つぶて)


 声が上から降ってきた。

 その在処を求め、ふと頭をあげると、花火が上がっていた。小さな何かが炸裂し、放射線状に広がる火花を見れば、誰もがそう思うだろう。

 ただ、それは花火のように観賞するものではない。

 広がった火花は消えることなく、形を保ったまま降り注ぐ。例えるなら、光り輝く流星群だろうか。

 美しく幻想的な光景だが、そんな余韻に浸る余裕はなかった。

「逃げろ!」

 レフトが叫ぶが、そんなことは言われずとも分かっている。あれは、攻撃だ。

 ひと足早く落ちてきた礫がHPを削り、確信が得られた。

「くっそぉ!」

 声を張り上げ、地面を蹴って、駆け抜ける。

 光の雨は――目の前に降り注いだ。

 ダメージを認識出来たのは最初の数発のみ。

 全身から力が抜けると、視線が低くなり、体に当たる衝撃も消えた。少し遅れて、赤く【DEAD】の文字が浮かび上がる。


 HPが0になったのだと、少し遅れて理解した。

 また、デスペナだ。

 闘技場(コロシアム)のサバイバルと違って、蘇生待ちの時間があるが、こんな序盤に蘇生手段を持っているはずがない。

 予想を裏切ってくることが多いレフトだが、こればっかりは無理だろう。

 まあ、経験値がレベル×1%分減るだけなので、今はそこまでの痛手ではない。レベルが上がってからはほとんど経験値を稼いでいないから、余計に。

 あ、経験値。

 ユーサイズとの戦闘では得られて、ヴァルキュリアとの戦闘で得られなかった理由をしっかりと聞き出さないとな。

 そんなことを考えていると、視界がブラックアウトした。


 戻ってきたのは、噴水の前だった。

 基礎領域(イェソド)に戻ってきたのだ。噴水の中心で女神像が微笑んでいるから、間違いない。

 レフトの姿はなかった。

 同じタイミングで死亡したなら、同じタイミングで出てくるはずだから、レフトはあの弾幕の中を生き残ったということになる。

 職業も、ステータスも、装備品も、おそらくはレベルも違うのだから、差があるのは仕方ない。

 ただ、それで納得出来るかと言えば、そういう問題でもない。

 思えば、ヴァルキュリアだけでなく、ユーサイズと戦った時も、謎のプレイヤー達に襲われた時も、決め手は全部、あいつだった。

 ベータテストあがりだから。

 そんなことは関係ない。

 このゲームにおいて、約1月分の慣れの差があるというだけだ。他のタイトルの総プレイ時間を考えれば、そんな差は無いに等しい。

 そもそも、プレイヤースキルは、プレイ時間が長ければ高いというものでもない。

「残念だったな」

 レフトが現れる。

 ログインや転移してきた時と、同じエフェクトだ。事情を知らないプレイヤーからしたら、ダンジョンから死に戻りした2人だとはわからないだろう。

「なあ、レフト」

「……わかってるよ。説明だろ?」

 あぁ、確かに説明はして欲しい。

「経験――」

「いや」

 だが、俺はその言葉を遮った。

「あ? 急にどうしたんだよ」

「レフト」

 名前を呼び、真っ直ぐにその顔を見据える。


「俺と戦え」


 俺自身がどんな表情をしていたかは、わからない。

 けれど、レフトの表情はしっかりとわかった。

 最初は戸惑い。それが内容をしっかりと理解するにつれ、口角が釣り上がり、喜びに変わった。


「いいぜ。全力で相手してやるよ」


 皆さん、こんにちは。

 今回はモンスターの名前について。

 今回、ライト達が相対したモンスター【ヴァルキュリア】はカーソルの上に名前が表示されていましたね。

 以前戦った【レオ・コルニス】や【ローグ・コープス】、【ユーサイズ・ド・アールセン】もそうでした。

 ですが、それ以外のモンスターには表示されていませんでしたね。

 これについては、名前が表示されるモンスターは特別なモンスターだとご理解いただければと思います。

 全てのモンスターに表示されるようになるスキルもありますが、それを習得するのはまだ先のお話。

 ちなみに、スキルがなかったとしても、1度戦ったモンスターはメニューのモンスター図鑑という機能から名前やドロップアイテムの確認も可能となっています。

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