100体サバイバル
かつて、キングレオ・ナヘマーの群れと対峙した闘技場の円形の闘技場。俺とルーク、リオンの3人は、そのちょうど中心に描かれた円の中にいた。
頭上のカウントがゼロになるまでは出られないらしい。壁を背に陣取らせないための工夫だろう。
当面は、敵がどこから仕掛けてくるかわからないため、全方位に警戒する必要がある。
「作戦を伝える!」
残り3カウントで、ルークが槍を振り上げた。
穂が赤く輝くが、すぐに消えてしまう。カウントダウン中のスキル技は、発動がキャンセルされるのか。
しかし、ルークに気にした様子はない。
残り2カウント。
シュワっと炭酸のはじけるような音を伴って、ラビーヴァが現れた。さらに、スハントンやバットンなどが横に、奥に、上に現れ、瞬く間に視界がモンスターで埋め尽くされる。
100体サバイバルって、100体が一気に出てくるのかよ。
「眼前の敵を、狩り尽くせ」
残り1カウント。
ルークは地面と水平に構えた槍を持ち上げ、体全体を使って、後ろに引く。足を前後にした構えはまるで――
「ジャベリン!」
――槍投げだ。
カウントゼロとともに放たれた槍は、モンスターの群れに穴を穿った。
倒したわけではない。ダメージを与えたであろう個体もいるが、大半はソニックブームのようなもので吹き飛ばしただけだ。
「おい、ボーッとしてんな、よっ」
ルークはいつの間にか構えていた弓で矢を放つ。矢は悪魔型のモンスターに直撃すると、小さく爆発した。スキル特有の輝きは見られなかったから、矢の特性ということだろう。
穴を塞ごうと動いていたモンスター達が、ルークへと狙いを定めた。
「狩りの開始だ!」
ルークは満足げに笑い、ウィンドウを操作。武器を剣と盾に切り替えて、モンスターに向かっていく。
「やるか」
俺も斧を構えて、目の前に向き合った。
地面を這うように進む蜘蛛、蟷螂、蜈蚣、蛞蝓、蝦蟇、大蛇。化け鼠に、腐った犬や炎の猫。剣を持った骸骨と鎌を構えた幽霊の後ろには、オーガやトロール、ゴーレムが鎮座し、空は赤い蝙蝠や火を噴く鳥、骨を纏った烏などが埋めつくしている。
「……無理だろ」
絶望的な心地のまま、斧を振りかぶった。
ーー結果は、撃破数34。
初めてにしては中々の数値だと思うだろうか。
ただし、これは3人合わせての数字だ。
3人合わせて、全体の3分1しか減らせなかったということになる。初めてパーティを組んだとはいえ、だ。
「さっきからこんなもんなのか?」
考えてもわからないので、隣に座るリオンに尋ねてみる。
「え、あ、はい。そうで……そうだよ」
同級生とわかってから口調が安定しないな。自然体でいいとは伝えたのだが、初対面の反応が抜けきらないのだろう。
あるいは、ゲーム内においては、最初の対応が自然体なのか。
「あれもか?」
「……うん」
あれとは、ルークである。
チャラい槍使いは、立ち去ろうとする【パナケイア】を必死に口説いていた。あれも、さっきから、らしい。
NPCなんだけどなぁ。
「いつ終わるんだ?」
パナケイアは話す気がないらしく、ルークを避けては外に出ようとしている。その度に上手く前に回り込むルークだが、動きを完全に止めるまでには至っていない。
「……出ていくまで続くよ」
リオンが呆れたようにため息をついた。
「そうか……」
まだ、続くんだな。
ベンチにごろっと転がり、天井を仰ぎみた。
得られた経験値は、デスペナルティとして相殺された上に、ドロップアイテムはなし。VRYは、100体サバイバルでは増減しないそうだ。
増えたものといえば、スキルの使用回数と戦闘経験というリアル経験値くらいか。消費したアイテムや精神的な疲れはそのままなので、合計でプラスなのかマイナスなのかはわからない。
用事が済んだのならレフトのところに行きたいのだが、リオンはまだやりたそうな顔だしなぁ。
「あ、終わったみたいですよ」
ポンポンと控えめに肩が叩かれる。
ゆっくりと体を起こすと、出入口の前で項垂れるルークの姿があった。
結果はまあ、予想の範囲内だな。
「まだやるのか?」
慰める義理もないので、端的に問いかける。
ルークはキメ顔でガッツポーズをとった。
「もちろん!」
やる気に満ち溢れた表情が、少しずつ、苦笑いへと変わっていく。
「……と言いたいところなんだが、実はこれからデートの約束があってな」
マジか。
「今日はこれで落ちるわ」
俺達の答えを聞くこともなく、ルークは姿を消した。外に出たのか。幻世に行ったのか。それとも、あの場所でログアウトしたのか。
まあ、どれであっても結論は変わらない。
ルークが居なくなった。
それだけだ。
「2人だけでもやるか?」
リオンは勢いよく首を振った。縦ではなく、横に。
「じゃあ、今日はお開きだな」
リオンと別れ、闘技場を後にした。目指すのは、レフトの待つ基礎領域の噴水広場。
あぁ、なんか考えたら気が重たくなってきた。
とはいえ、足を進めていれば目的にはついてしまう。
レンガ造りの円形広場。中世ヨーロッパ風といえば、10人に1人くらいは同じ光景を思い浮かべるのではないだろうか。
その中央にある噴水の前で、黒い魔法使いが仁王立ちしていた。腕を組んだその姿は、傲岸不遜と表現するのが適切か。
「待ってたぞ。ライト」
怒気をはらんだ低い声。何が、とは言わないが、怒っていらっしゃるようだ。
謝っておいたほうがいいか。
謝るほどのことではないか。
謝らなくてはいけないのか。
謝る必要ないんじゃないか。
そんなふうに迷っていると、レフトが口を開いた。
「生憎だが、挑めるのは1日1回までらしい」
「え?」
「だから、俺はもう今日は挑めないっつってんだよ」
「はぁ」
どうやら、システムに対してご立腹らしい。
「明日は、2人でやるぞ」
「了解」
機嫌が悪いときは頷いておくに限る。
「アイテムは十全に揃えとけよ」
「了解」
「防具も新調しておけよ」
「了解」
「レベル上げもしとけよ」
「了解」
素直な俺を見てか、レフトの顔が少しだけ明るくなった。今のうちに今後の方針を決めておきたいところだな。
「明日は何時から挑むんだ?」
「……午前中は予定があるから、午後だな」
「じゃ、目処がたったら連絡してくれ」
こっちも何してるかわかんないしな。
「……あぁ、そうだな」
レフトは力なく呟いた。
「何かあったのか?」
「いや、なんでもねぇよ」
「そうか」
怒ってたり、元気がなくなったり、情緒不安定だし、何かはあったと思うのだが。話したくないなら、無理には聞かないでおこう。
「それで、今はどうすんだよ?」
「あ? 好きにしろよ」
レフトがため息とともに時計を指さす。
「俺は用事があるから今日は終わりだ」
用事か。あいつらといい、忙しいことで。いや、ルークはただのデートだったか。まさかこいつも……
「デートか?」
「おい。ふざけてると殺すぞ」
「冗談です。ごめんなさい」
だから胸ぐらを掴まないで、持ち上げないで。
「わかってんだろうな?」
「はい。わかってます!」
「……いいだろう」
乱暴に解放された。
地面に強かに打ち付けられたような形だが、ダメージはない。
俺が立ち上がると、レフトは気まずそうに顔を逸らした。
「……悪い、やりすぎた」
「別にダメージもなかったし、気にするな」
ちょっと悪ふざけが過ぎただけだ。
「ふんっ」
レフトはそのまま、逃げるように消える。
近くで見ても、幻世に行ったのか、ログアウトしたのかはわからなかった。もしかしたら、違いはないのだろうか。
まあいいや。
「また、明日な」
レフトのいた場所に向かって声をかけて、噴水から離れた。
とりあえず、レフトに言われた通りにアイテムと防具を揃える。レベルは【ダウ】のところで1つくらい上げておくか。
「まぁ、そんなもんでいいだろ」
不思議と足取りはさっきより軽かった。
皆さん、こんにちは。
後書き係に戻りました銀です。
今日はデスペナルティについて、説明します。
プレイヤーのHPが全損し、蘇生が行われなかった場合、死んだ場所に応じた蘇生場所へと移動させられた上で、HPとMPが全回復した状態になります。
その際に与えられるのが、デスペナルティ。
このゲームにおいては、VRYの減少はなく、レベルアップ後に獲得した経験値が【レベル】%分だけ減少します。
レベルアップから獲得した経験値が少ないほど影響は小さくなり、もう少しでレベルが上がるような状況であれば、影響は大きくなります。
レベルが低いうちはデスペナルティも小さいですが、高レベルになってからはあまり死なないように気をつけなければならないですね。
死なないのが1番ではありますが。




