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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第1章 戦いの始まり編

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洋館の主

【ユーサイズ・ド・アールセン】


 このクエストのラスボスにして、全身鎧に血塗られた大鎌を持つ洋館の(ぬし)の登場だ。

 感想としては、見た目に魔法使い感がなさ過ぎるのと、登場がいきなり過ぎるのがどうにかならなかったのかと思うところである。

 いやまあ、配下を倒したら出てくるのは不自然ではないか。

「レフトが来るまで待っては……くれないですよね」

 ユーサイズは大鎌を水平に持ち上げ、

()()け、風刃(ふうじん)。ウィンドカッター」

 薙ぎ払った。

 その軌跡をなぞるように薄緑色の刃が生まれ、放たれる。

 躱さなければ、HPはゼロになり、全てが終わるだろう。

 何も死ぬわけじゃない。

 デスペナを受けた上で、セーブ地点に戻るだけだ。

 問題なんて何もない。

「ないんだけどな」

 ため息をつきながら、身を屈めた。

 風の刃が頭のすぐ上を通過する。


「顔くらいは見せてもらってから死ぬかな」

 立ち上がり、HP回復ポーションを取り出す。

 一気に口に流し込むと、HPは7割強まで回復した。さらにもう1本。これでHPは満タンだ。

 それでも耐えられるのは一撃だけだろう。

 そして、回復アイテムはなくなった。後回しにせず、もっと多めに買っておくべきだったな。

()(そそ)げ、水流(すいりゅう)。バブルスコール」

 ユーサイズが大鎌を掲げ、魔法を放つ。

 その技名(バブルスコール)には聞き覚えがあった。PVで女魔法使いが見せた魔法だ。

「上か!」

 後ろに飛びながら、上を見上げる。豪雨の空のような光景が目の前に広がっていた。躱しきることは、不可能だ。

「くっ……」

 雨に打たれたような衝撃が全身を襲う。

 HPが小刻みに削られ、なんとか脱出したころには、6割程度になっていた。

 空中に浮かぶ水球(バブル)は、今もなお局所的な(スコール)を降らせている。少しずつ小さくなっていることから考えるに、水球が水を出し尽くせば魔法は終わるのだろう。

 ただし、それはまでは終わらないということだ。まともに喰らっていたら、危なかったな。

 雨が上がると、部屋の中に小さな虹がかかった。

 ユーサイズの体が淡い輝きに包まれる。

 魔法の追加効果か? 

 まあ、考えてもわからないけど。

 ユーサイズは勢いよく大鎌を振り下ろし、

(つらぬ)け、岩石(がんせき)。ロックエッジ」

 床を擦るように、振り上げた。

 大鎌から何かが放たれるような様子はない。

 詠唱は『貫け』と『岩石』。

 導き出される攻撃の方向は――

「下から!」

 床を見る。

 床板から生えるように、小さな岩が現れた。

 飛び出してくる。

 理解すると同時に体を反らして、躱し――きれずに倒れた。

 勢いよく転んでしまい、HPが僅かに減少する。だが、岩の針(ロックエッジ)の直撃は回避した。

 まさに、怪我の功名だな。

 そろそろと後ろに下がり、立ち上がる。

 ユーサイズは大鎌を水平に構えていた。

 風の刃(ウィンドカッター)が来る。

 剣を体の正面に構え、前傾姿勢で飛び出した。薄緑色の刃をくぐり抜けて、ユーサイズの心臓を目掛けて剣を突き刺す。

 が、鎧に弾かれた。

「嘘だろ……」

 剣が弾かれたせいで、体勢が崩れる。

「失せなさい」

 ユーサイズに蹴り飛ばされ、床に転がった。

 HPが半分を下回る。

 すぐに立ち上がらなければ、一撃でも喰らえば致命的な状況だ。頭ではわかっているが、体が追いつかない。

 ユーサイズは大鎌を真っ直ぐに突き出した。

 見たことのない構え。未知の魔法だ。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 詠唱に伴い、小さな火の玉が現れる。未知の魔法ではなかったが、状況は変わらない。

 火球(ファイアボール)が放たれた。

 回避は不可避。

 完全に詰んだ。

 悪いな、レフト――


「ライトォ!」


 声が聞こえた。

 ついで、目の前に黒いマントが躍り出る。

 手に持った杖。その先端についた黄色く丸い(・・・・・)装飾品で、火球(ボール)を打ち返す。

「な――」

 火球(ボール)はユーサイズの顔面に直撃。その体を吹き飛ばした。

「大丈夫か!」

 レフトが勢いよく振り返る。

 剣を杖替わりにして、立ち上がった。

「おかげさまで」

「さっさと回復しろよ」

「わかってる」

 今回は叩かれなかったことに安堵しつつ、メニューを開いた。回復アイテムは……1つもない。

「……やべ」

 使い果たしたんだった。

 回復しないで誤魔化(ごまか)すか。

 満タンにしたところで一撃しか耐えられないし。

「まだか?」

 レフトからの催促。

 後ろを向いて、いかにも何かを飲んでいるように上を向く。演技力に自信があるわけじゃないが、上手くできただろうか。

「……待たせたな」

「あぁ――」

 レフトは小さく頷き、杖を持っていない右手を上げた。

 何をする気だ? 

「いいから回復しろ」

「ぐっ……」

 レフトの拳が、俺の頭へと振り下ろされた。

 叩かれた理由は想像つくが、今の一撃もダメージ判定でてるんですけど。などと口には出さず、差し出された【回復ポーション】を速やかに受け取る。

 HPは8割程度まで回復した。

 レフトは無言でポーションをもう1本を突き出す。

 どうやら、満タンまで回復しないと気にいらないらしい。それでも、耐えて一撃が限界だが。


「さあ、やるぞ。ライト!」

「ああ、わかってる」

 獰猛な笑みを浮かべるレフトの横で、俺は剣を構えた。

 レフトの顔が弛緩する。

「おい、なんで――」

()らせ、閃光(せんこう)。フラッシュ」

 ユーサイズの魔法がレフトの言葉を遮った。眩い光が辺りを照らし、視界がホワイトアウトする。

「油断するな! 来るぞ!」

 姿は見えないが、声はすぐ近くから聞こえた。

 洋館に入ったときのようにバラバラにされたわけではないらしい。

 ただ、油断するなと言われても。

 閃光は収まったが、目がチカチカしていて、まともに目を開けることさえ出来ない。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 そんな状況にも関わらず、レフトは魔法を放った。

 赤い光点が一瞬だけ視界に映る。おそらくは、あれが火球(ファイアボール)だったのだろう。

()()け、風刃(ふうじん)。ウィンドカッター」

 負けじと、かはわからないが、ユーサイズも魔法を放った。

 視界に薄らと緑色の線が浮かび上がる。

 とっさに身を屈めた。

 ヒュっという風を切るような音が聞こえ、風が髪の毛を撫でる。てか、俺かよ! 

 レフトを狙えよと思うが、ヘイトが溜まっているのは俺なのだろう。視界が回復するまでは回避に集中するしかないな。


「「()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」」

 と、レフトとユーサイズの声がハモった。


 真っ直ぐに飛んでくる火球は、横に飛べばいい。……はずだが、2人の声が重なったため、正確な方向がわからない。

 とはいえ、突っ立ていてはダメージを受けるだけ。

 俺は右に走った。

 が、何か硬いものに(つまず)き、転んでしまう。魔法の回避には成功したようだが、HPが少し減った。

()()け、風刃(ふうじん)。ウィンドカッター」

 聞こえたのはユーサイズの声。

 体を小さくして魔法に備える。姿勢によってダメージが変わるわけではない。躱しやすくなるだけだ。

 目を閉じて、風刃が通り過ぎるのを待つ。

 躱せずに当たるかもしれないけど、待つ。

 当たっても一撃は耐えるはずだから待つ。

 待っているのだが、その時は一向に訪れない。

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

()(そそ)げ、水流(すいりゅう)。バブルスコール」

 レフトとユーサイズが魔法の打ち合いをする声が聞こえた。

 狙いがレフトに切り替わったのか? 

 ゆっくりと目を開ける。白がかってはいるが、視界はかなり良くなっていた。立ち上がって、2人の姿を探す。――いた。


 三日月(・・・)の装飾品がついた杖を構えるレフトと、白いローブを身に纏う女……どういうことだ? 

 頭上に表示された固有名は【ユーサイズ・ド・アールセン】だが、見た目が違った。重厚な鎧はどこへやら、白く艶やかなローブはいかにも魔法使いといった雰囲気だ。

「ライト! それ(・・)持って早く手伝え!」

 レフトが叫ぶ。

 それってなんだよ。

 なにか使えるものはあるかと周囲を見渡し、何に(・・)躓いたのか気がついた。

 斧だ。ローグの使っていた黒い斧。

 つまり、店売りよりいい武器だ。

 剣を捨て、斧の柄を掴む。


【武器装備が夜の斧(ナイトアクス)に変更されました】


 いちいちメニューを開かなくても装備品を変えられるのは、VRゲームの特権だな。

「俺が魔法で引きつける! 一撃で決めろよ!」

「わかった」

 レフトの叫び声が聞こえた。反射的に頷いてしまうが、剣が弾かれたことを思い出して、一撃で倒すことの難しさに思い至る。

「でも、失敗した時は頼むぞ」

「しくじるのか?」

 レフトは嫌味な笑みを浮かべた。

「一発で決めてやるよ」

 そう言われると、むしろ一撃で終わらせたくなる。


 メニューウィンドウから、スキル一覧を開き、斧スキルに全ポイントを割り振った。

大木斬(たいぼくざん)を習得】

【斧装備時の物理攻撃力アップ】

【斧装備時の物理防御力アップ】

兜割(かぶとわ)りを習得】

【斧装備時の会心率アップ】

 画面の端で通知が躍る。

 一撃で決めるなら【兜割(かぶとわ)り】か。

 画面を切り替えて、技を確認する。

【発動モーション 斧を縦に一回転させる】

 ローグが使ってたあれか。

 ぶっつけ本番だがやってみるしかない。


「さあ、行くぞ」


 俺の独白に応えるかのように、床から斧が抜けた。ずっしりとした重みが右手にかかる。

(つらぬ)け、岩石(がんせき)。ロックエッジ」

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

()(そそ)げ、水流(すいりゅう)。バブルスコール」

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

()()け、風刃(ふうじん)。ウィンドカッター」

()べ、火球(かきゅう)。ファイアボール」

 ユーサイズとレフトは激しい魔法の打ち合いを繰り広げていた。俺が近づいても気づく気配はない。

 斧を振り上げ、力任せに斧を一回転させる。無理矢理ではあったが、【兜割(かぶとわ)り】は上手く発動した。

 赤く輝く斧は、導かれるようにユーサイズの体に突き刺さる。


「アアアァァァァァァァァァァァァァアアア!」

 ダメージは大きいらしく、悲鳴のような声を上げるユーサイズ。だが、HPは削りきれなかったらしい。

 勢いよく大鎌が振り上げられる。

()()け、風刃(ふうじん)。ウィンドカッター」

 躱せなかった。

 HPを半分近くもっていかれた上に、体が浮いてしまって、体勢を立て直せない。次の攻撃は躱せないだろう。

()べ、火球(かきゅう)――」

「させるかぁ!」

 ユーサイズの頭に、杖が振り下ろされる。

 詠唱を紡いでいた口が止まり、全身が固まった。僅かに時間をおいて、ユーサイズはポリゴンの欠片となって四散する。

 150という経験値が表示され、レベルが1つ上がった。


「……ユーサイズが倒れましたか」


 ふいに、背筋が凍るような冷たい声が響く。

 静かで淡々とした声は、どこか不気味で、それでいて、清らかさを感じるように透き通っていた。

 まだ、終わりじゃないのか。

 新たな敵の襲来に備えて、斧を構えた。

 ユーサイズのいた位置に、ぼんやりとしたノイズが浮かび上がる。

「感謝します。ウォーロックの弟子達よ」

 ノイズはモザイクへと変化し、半透明の女性へと姿を変えた。エプロンドレスのような服を着て、憂いを帯びた顔を浮べた女性は、貴婦人と表現するのが適切だろうか。

「わたしは元々この洋館の(あるじ)でした」

 貴婦人の頭の上に、NPCであることを示す白いカーソルが現れる。敵ではないことにひと安心し、武器を下ろした。

 レフトも横に並び、2人で貴婦人の話に耳を傾ける。

「わたしも多少の心得はあったのですが、ユーサイズに負けてしまって。力を奪われ、こんな悲劇を起こしてしまったのです。その償いとなるかはわかりませんが、あなた方に協力出来ることがあればさせてもらえないでしょうか?」

 貴婦人が語り終えると、3つの選択肢が浮かび上がった。


【レアな道具(どうぐ)(もら)う】

【レアな防具(ぼうぐ)のレシピを()く】

【レア武器(ぶき)在処(ありか)()く】


 貰うが1つで、訊くが2つか。どれもレアアイテムに関するものらしいが……

 道具と言われても系統がわからないし、防具のレシピを聞いたところで錬成するだけの材料が揃えられるかどうか。

 武器はこのクエストで手に入れたから、もういらないだろうし。

 判断をレフトに任せるため、横を向く。レフトも同時に振り向いたが、確認の表情ではない。

 俺の顔を見て、レフトは不敵に笑う。

「武器の場所を教えてくれ」

 って、武器かよ。

「わかりましたわ」

 貴婦人は裾を持ち上げ、頭を下げた。

 レフトの目の前に地図(MAP)が現れる。基礎領域(イェソド)と書かれているから、これは最初に来た噴水の広場か。青い点がついているのは、その中央、まさに噴水の場所だった。

「その場所にある女神像が【鍵】となっています。真摯に向き合うことで、道が開けるでしょう」

 短く告げると、貴婦人はにっこりと笑う。


「星に願いを」


 謎の言葉を残して、貴婦人は溶けるように消えた。


 皆さん、こんにちは。

 今日は武器ガイドを勤めさせていただきます銀です。

 ライトが手にした【夜の斧(ナイトアクス)】。ついに、スキルにあったメイン武器を手に入れましたね。

 武器のカテゴリーは【片手斧】。片手武器の中では、大鎌と(ハンマー)に次ぐ攻撃力の高さが特徴です。また、スキルポイントを振っていくと、物理攻撃力だけではなく、物理防御力も上がるようになっています。

 スキル技としては、一撃の重さを重視するようなものが主体ですが、制作陣の遊び心から投擲斧の要素を取り入れたものもあったりします。

 これからの活躍を心行くまで、ご堪能ください。

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