第3話 最弱で最悪!
ラピス『じゃあ、10秒数えてあげる。
その間に答えを出してね』
エリン『なっ!?』
ラピス『10、9、8、7、6』
チャンスは今しかない。
正体もよく分からないが目の前にいるのは間違いなく最強のパーティ。
あたしが出す答えは一つだった。
ラピス『5、4、3』
エリン『入りたい』
ラピス『おめでとう、今日から君は最強パーティだ』
エリン『入る前に二つだけ聞かせて。どうして正式なパーティじゃないの、
どうしてあたしを誘ったの』
ラピス『正式登録だと何かと面倒なんだよね。動き辛いっていうか。
政府の管理下って感じがしてさ、好きじゃない。別に正式にパーティ登録
しなくても僕たちなら食べていけるし。もちろん闇の稼業はしてないよ。』
あたしが視線をチラリと横へやると、
他の2人は何故か心配そうにラピスを見つめていた。
ラピス『あと君を誘ったのは、試験で偶々目に入って、
本当に強いと思ったから、ただそれだけ。僕たちのパーティに必要だよ』
エリン『そう、なら良いけど』
最強パーティから目の前で褒められては流石のあたしも赤面した。
ラピス『早速、他の二人を紹介するね。この小さい少女が・・・』
メル『小さいっていうな、幼女っていうな。
私はメル。こう見えても20才。宜しく。』
ラピス『幼女とは誰も言ってない・・・そしてこの巨乳・・』
シェリル『巨乳っていうなこの貧乳、まな板、絶壁!
私はシェリル。宜しく宜しく!!』
ラピス『僕そこまで言ってないんだけど?』
エリン『ふふ、仲良いんだ。みんな宜しく。
あたしだけまだまだ弱いし迷惑かけないようにしないとね!』
ラピス『あはは、そうだね。
早速パーティ契約しに行こうか』
エリン『正式な登録はしないんでしょ?』
ラピス『もちろんそれはしないよ。
正式な登録をしないパーティが、契約の為に使う専門施設があるんだ。
いくら登録しないからといって、契約すらないと
いくらでもパーティの破綻、崩壊、裏切り、スパイなど様々な問題が起こるからね』
エリン『へぇ、初めて知った。そんなところあるのね』
ラピス『正式じゃない、政府管理下外の隠れ家みたいなものだからね』
ラピス『だから偶に闇パーティが紛れてることもあるんだよ。
施設の中では決して闇パーティの悪口はしないでね』
エリン『わかった、大人しくしとくわ』
シェリル『闇パーティのやつらは怒らせたら怖いぞー?』
エリン『十分に知ってますー、ま、此方から何もしない限り大丈夫よ』
メル『さっき路地裏で襲われてたの誰だっけ』
エリン『う、、ま、まぁ偶にはあるわよそういうこと!』
明るくて良いパーティじゃない。
最初は怪しいと思ったけれど、良かった。
暫く談笑が続き、目的地についた。
ラピス『ついたよ、この洞穴の中だよ』
施設っていうから建物かと思ったら、小さな暗い洞穴だった。
自然にできたものではなく、人工的に掘られた跡がある。
シェリル『うげっ、相変わらず湿っぽいなぁここ』
ラピス『ここからは関係のない私語厳禁だよ、気をつけてね』
奥に進むにつれ異様な雰囲気が漂い、緊張感が走る。
段々と松明が多くなり、明るくなれば奥から話し声が聞こえてきた。
ラピス『ふぅ、やっとついた。じゃあ、開けるよ』
洞窟の奥、行き止まりに小さな木の扉があった。
ラピスが丁寧にその扉を開き、中へ入った。
一番後ろにいたあたしは、恐る恐る3人の後をついていった。
目の前に広がったのは地味でなんとも言えない光景。
ローブ姿が多くあまり姿を晒さない冒険者の姿。
壁に怪しげな何かの募集の張り紙や、古ぼけた地図が貼ってある。
ラピス『エリンはここで待ってるんだよ』
あたしはちょっとうきうきしていた。
だって、正式な役場には無い雰囲気。
これもあたしたちのパーティ、レスエトラスビレントでしか味わえない。
あたしに勝った優勝者はみんな、この景色を知らないんだ。
嬉しくてついうろちょろと辺りを詮索していた。
メルとシェリルはラピスと一緒に受付で話し込んでいた。
ん・・・?あの張り紙のマーク、どこかで見たことが。
シェリル『おい、エリン。離れるなって言ったじゃん。
こっち来て!』
少し小さい声で呼び止められた。
慌てて受付へ戻れば多くの書類にサインした。
ラピス『これで君とは一年契約だね、改めて宜しく
今夜は歓迎パーティだね』
一年契約とはつまり、このパーティとこれから一年間は
一緒にいて、共に冒険することが求められる。
途中でもし離れ離れになったら違約金や様々なペナルティが課せられる
エリン『絶対あなたたちを後悔させないからね』
ふふん、と鼻を鳴らした。
ラピスは何処か苦しそうに苦笑いを浮かべた。
あたしそんなに寒いこと言った?
外へ出ようとした矢先、さっき詮索していた時に見つけた
張り紙が再び目に入った。
ラピスたちが目を離している隙に・・・!
好奇心が勝り、素早く張り紙の元へ。
このマーク、、やっぱり・・・!
黒服『ねーちゃん。その張り紙に興味あんのかい』
エリン『は、はぁ?あるわけ無いでしょこんな闇パーティの!』
黒服『ほう、、ねーちゃんはここが初めてか?』
しまった・・・!つい、いつもの癖で悪口を言ってしまった。
男の服を良く見ると同じマークが刻まれてあった。
今すぐ逃げ無いとマズイかも。
エリン『初めて、、じゃ、じゃああたしちょっと忙しいから!』
黒服『おいねーちゃん、表出ろや、逃がさねーぞ』
壁側へ一歩ずつ下がる。
室内の戦闘では絶対やってはいけない回避方法なのに、
強い仲間が助けてくれる、という考えが頭の片隅にあったからか
案の定、壁に背中がつき、追い込まれてしまった。
大男がドン!という大きな音と共に壁に手をつけた。
周りの人を見渡しても、喧嘩は日常茶飯事なのか反応が無い。
エリン『ちょっとみんな、、助けて!』
あたしの体をあっさりと覆う体の大男。
恐怖で足が震える。
シェリル『なっ!?エリン何して!?早く逃げろ!』
エリン『えっ!?逃げろって!?』
あたし、もしかして試されてる?
エリン『ごめんね、あたし強いから』
何も考えることなく勢い良く大男の腹に足蹴りし、
猛ダッシュで逃げては扉を開き、長い洞窟の通路を走っていく。
外の光が見え仲間の姿が見えた。
が、様子がおかしい。
黒服の集団に囲まれているのが見えた。
大男の仲間だろうか。
エリン『みんな、ごめん。ラピスが忠告してくれてたのに・・・!』
ラピス『なにかいらない事を言ったんだね。まぁ君が悪いわけじゃ無いよ』
メル『おかげで囲まれてしまったけど』
エリン『うぐ、、ま、まぁこの4人なら余裕よ!』
シェリル『余裕、、か』
全員が負けを認めたような表情になっている。
今までにあった気迫も元気も無い。
エリン『何言ってるのよ、冗談言うなんてほんと余裕ね』
ラピス『・・・冗談じゃない。
僕たちは
最弱なんだ』