第1話 あたし、勝ちます!
階段を一つ一つ、緊張した硬い足で登っていく。
でも緊張しているのは向こうも一緒。
登り終われば大きな歓声が聞こえる広いバトルフィールドへ出て、
あたしと向こうの子が向かい合わせになった。
武器を手渡されいよいよ始まりの時。
プォーン!
開始合図のトランペットが鳴る。
今だと言わんばかりに渡された剣を振りかざす。
冷静に立ち回れたことが良かったのか、いつの間にかあっさりと勝っていた。
バトルフィールドから降りるとすぐさま友達が駆け寄った。
凄いよエリン!1日目に出場してあっさりと勝っちゃうなんて!
私なんて2日目からだけど、勝てるか心配で、、
大丈夫、あなたなら勝てるよきっと。
友に投げ掛けたその言葉は自分自身にも言っているようだった。
その後あたしは2回戦、3回戦とあっさり勝ち抜いていき、
さっそく決勝まで進めた。
周囲の期待も高まり、決勝ということもあってか、会場のボルテージは最高潮。
相手は小さめの男。動き辛そうなぶかぶかのズボンを履いていて少し不気味だった。
始まりの合図が聞こえ、戦いが始まる。
ここまで冷静に戦えている自分が負けるはずなど無かった。
素早い動きで相手を翻弄し一瞬で詰め寄った。
剣の重い一撃を相手に食らわせる。
確かにダメージを与えた感覚はあった、今までならこれでノックダウンのはず。
が、相手はピンピンしている。
おかしい、と思った矢先、相手のズボンのポケットから魔法瓶が見えた。
アイテム!?なんで、確認されたのにいつどこで!?
あたしは完全に冷静さを失ってしまった。
使用禁止どころか会場へ持ち込み禁止の魔法瓶が何故。
戦う前にも必ずチェックされるはず。
動揺で一瞬の隙が出来てしまった。
相手のニヤリとした笑みが見えた。
避けようとした時にはもう遅かった。
相手の攻撃がクリーンヒット。
あたしの視線は宙を舞い、いつの間にか青空へ。
完全にノックダウンされた。
終わりの合図。あたしは決勝で負けてしまった。
あたしは慌てて審判の元へ駆け寄る。
ちょっと!相手のやつ魔法瓶持ってたんですけど!
アイテム使って回復してたんじゃ無いの!?
審判がそれを聞き目を見開き、口をあんぐりとさせた。
魔法瓶・・・?
この反応が返ってくるのは至極当然のこと。
さっきも言ったけど、この試験のバトル前には細かいチェックがある。
ドーピングアイテムの使用・武器、アイテムの持ち込み。
徹底的に調べられる為、そんなことはあり得無いのだ。
相手のポケットから少し飛び出していたのが見えたんです!
私は夢中で猛抗議する。
必死さが伝わったのか、審判団が集まり再び相手が呼び出された。
目の前で相手が検査される。
会場はざわつき異様な雰囲気に包まれた。
しかし、一向に魔法瓶など出てこない。
ポケットの中にも。フィールドの周りにも落ちていない。
審判が再びあたしに近づいてくる。
何度も確認しましたが、魔法瓶のようなものは見つかりませんでした。
改めて試合は成立しました、残念ですが相手プレイヤーの勝利です。
審判からのその言葉に全く納得できない私は、
未だに冷静さを保つことができずにいた。
だってあたしは・・・!
再び審判に詰め寄ろうとすると
友が慌てて駆け寄ってくる。
エリン落ち着いて!これ以上の抗議は退場処分になっちゃう!
そんなことになったら今まで何の為にがんばってきたのかわかんないよ!
まだまだ別パーティのトーナメントはあるから、ね?
友の言う通りだった。
あたしは悔しい気持ちを抑え諦めて素直にフィールドを後にした。