「ないない」
06年に書いた作品です。
誤字脱字、多少の修正のみ行っています。
幼児の視点で描いたので、ほとんどひらがなです。
読みにくいとは思いますが、ご了承下さい。
「ほーら。ないないしたよ」
ママがわらった。
ぼくのふてくされたかおを、ママはなでる。
ぼくのおきにいりのくまさん、ないないしちゃった。
「うそだよー。ほら、くまさん」
ぼくのおきにいりのくまさんのヌイグルミ。
ママのてのなかで、いきてるみたいにうごいてた。
「こんな若いのに、亡くなるなんて」
しらないおばさんが、なみだをふきながら、パパにそういってた。
くろいしゃしんたてのなかで、ママはにこにこえがお。
おばあちゃんのてが、ぼくのてをぎゅっとにぎってる。
いたいよ。
そういったけど、おばあちゃんにはきこえてないみたい。
みんな、かなしそう。
しゃしんのママは、たのしそうにわらってるのに。
ママはどこ?
みんな、はんかちでかおをおおって、こたえてくれない。
ねえ、ママは?
パパがぼくのほっぺにてをおいた。
そのてがすごくつめたくて、ぼくはとってもびっくりした。
「ママは遠くに行っちゃったんだ」
とおくって、どこ?
パパはちょっとこまったかおをしたけど、こたえてくれた。
「あの空の向こう」
クレヨンでぬったのより、もっともっときれいなあお。
そんなとおくにいっちゃったんだ。
だったらしばらくあえそうにないな。
そんなのやだよ。
ぼくはおうちをとびだした。
だってママのいないおうちはつまんない。
パパもおばあちゃんもおじいちゃんも、したむいてばっかりで、ぼくのかおをちゃんとみてくれないんだもん。
みんな、ママのこと「なくなった」っていってた。
「なくなる」ってなんだろう。
ママのいう「ないない」とおなじいみかな?
よくわかんないよ。
でも、ママはおそらのむこうにいるんだって、パパがいってた。
だったら、おそらのちかくまでいこう。
そしたら、ママはぼくのことにきづいて、あいにきてくれるよ。
そうだ。
あのおやまにいこう。
だってあそこはたかいもの。
ママにとってもちかづけるきがするよ。
おやまはとってもあるきにくい。
きのねっこがじゃまなんだ。
でもね。
ママにあえるなら、がんばれるよ。
とってもつかれた。
おひさまはどっかにいっちゃって。
まっくら。
なんだかとってもさむいし。
おばけがでてきそう。
ママがいなくてさびしいよ。こわいよ。
ママ、ママ
どこにいるの?
よんでも、へんじはきこえない。
さむいよ。
さびしいよ。
こわいよ。
ママにあいたいよ。
ママはぼくをみつけてくれないの?
もうあえないの?
どうすればあえるの?
きのねっこのところにねころがる。
こわい。こわいよ。
ぎゅっとめをつぶったら、なんだかふんわりあったたかった。
あれ?
ママといっしょにねてるときみたい。
いいにおいがする。
あったかいよ。
ママ、だいすき。
「いたぞ! 子供がいたぞ!」
うるさいおっちゃんが、ぼくをだっこする。
せっかくきもちよくねてたのに。
ぼくがほっぺをふくらませてたら、パパがはしってやってきた。
かみのけがおでこにひっついて、あせだらだらのパパ。
「何してたんだ! 探したんだぞ!」
そういって、パパはぼくをぎゅうってだきしめた。
あせくさいけど、あったかいな。
パパ、ぼくね、ママをさがしてたの。
「ママを探しても見つからないよ」
なんで?
「ママはね、お前がいっぱい笑って、いっぱい泣いて、いっぱい怒って、いっぱい楽しんで、いっぱい頑張って、いっぱい生きたら、会いに来てくれる。それがいつなのか、それはパパにもわからないけど。それまでは会えないんだよ」
いますぐあいたいよ。
「今は会えないんだよ。会えない間に、パパと一緒にママに話す思い出をいっぱい作ろうよ。ママが喜ぶように。だから、我慢だ」
ママにあえない。
さびしいよ。
かなしいよ。
でもね、ママにあえるひのために、ぼくはパパといっぱいいきるよ。
そしたら、ママはきっと、よろこんでくれるから。
だからそれまでは。
「ないない」
ないないしよう。
だってぼくはしってるんだ。
ママがないないしても、いつもどこからかまた、あえちゃうんだ。
ぼくのおきにいりのくまさんみたいに。
だから。
ちょっとだけ。
「ないない」
「ばいばい、ママ」
またあえるひまで、またね。
06年8月2日投稿作品。
「ないない」とは幼児語で「片付ける」や「無くす」という意味です。
この作品では「無くす」の意味で捉えていただけるとありがたいです(^^)
たくさんの方に読んでいただき、投稿から月日がたっても感想をいただけた、私の中では印象の強い作品です。
読んでくださった方々に感謝の言葉を捧げます!
ご意見ご感想お待ちしております。




