完全犯罪
現場検証を任された山川は、対応に苦慮していた。
店内に残された客から、野次が飛んだためだ。
「皆さん、静かに聴いてください。先ほど、殺人事件が発生しました。私も含め、この中の全員が現在、容疑者となります。応援部隊到着まで、誰もあまり動かないでください。ご自分の席で静かにお待ちください」
当然、反発が起きた。
「ふざけんなよ!死んだ女から、俺たちのテーブルまでどんだけ離れてると思ってる?どう考えても無理じゃん。頭悪いなぁ、あんた?」
「私たちこれから合コンなんですけど?もう行っていいですか?時間ないんで」
山川は顔を横に振る。
「おい、ポリ交!いい加減にしろよ?お前に何の権限があるの?帰せよっ!」
山川は顔を横に振る。
「誰がなんと言おうと、帰しません。これ以上は、公務執行妨害となります」
店内は静まりかえった。
「・・・横暴だわ。何このオヤジ?私ツイートするわ?権力?冗談でしょ?単たるパワハラじゃん?」
「ああ、そこのお嬢さん?携帯やスマホから手を離してください。他のお客さんも、機械関係には一切、手を触れないでください」
十分後、捜査本部から応援部隊が到着した。
「山川刑事、お待たせしました。警部はご一緒ではないんですか?」
「・・・科捜研だよ。佐久間警部は、大島可奈子の体内にまだ毒物が検出されると即断され、警察病院ではなく、科捜研に搬送指示を出されたよ。それより、早いとこ全員聴取を行い、解放してあげてくれ。敵わん」
「・・・わかりました。手分けして聴取します」
〜 科捜研 〜
大島可奈子が、この科捜研に搬送され二時間が経過した。
佐久間はただ静かに解剖結果を待った。
「・・・終わったよ」
「何か毒物は検出されたか?」
「・・・済まん。何も出てこん。おそらく、消毒用メチールアルコールか何かだろう。ビールに入れられるとわからなくなるからな。完全なプロの仕業だ」
「大島可奈子は、倒れる直前まで男と一緒だった。その男の仕業だろうか?」
「・・・わからん。しかし、犯人が男とすれば、そんな危険犯すかね。疑われるのは必須だぜ?お前たちは監視してたんだろう?」
佐久間は、その時の状況を思い出していた。
「それが、全てが一瞬の出来事だった。大島可奈子と男が口論となり、男が突然我々の方に歩いて来たんだ。悟られまいと一瞬下を向いて、出て行く男の姿を見過ごすまいと注視したんだ。その次の瞬間、大島可奈子が倒れたから正直、誰が大島可奈子を殺害したのかを見ていないんだ」
「・・・お前たちの視覚の隙をついて行なうとはな?もし、お前たちの尾行を知って、なおかつ実行したのなら、相当なプロと言えるよ」
「・・作戦を変える必要がありそうだ」