捜査本部設置
同日、五月七日、二十一時。
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中野区連続不審死に対する捜査本部が設置された。
所轄署の駐車場に保管してあった事故車から科捜研の氏原が予期した通り、微量であるが水銀成分が確認されたためだ。
捜査本部長の藤田が、捜査本部員に挨拶をする。
「皆、聞いてくれ。今回の二件ついて毒物や水銀など薬物との戦いになりそうだ。佐久間警部指揮のもと、各自慎重に行動すべし。佐久間警部、事件の概要整理を!」
「はい。まず、事件について整理します。三月二十一日、二十二時三分頃に中野区東高円寺駅近くの路上で単独の交通事故が発生。本日の再捜査結果、単なる交通事故ではなく、水銀を蒸発させ痴呆症に仕立て上げたうえで、被害者に運転させた疑いが生じました」
佐久間は、ホワイトボードに整理しながら、要点を書いていく。
「被害者は、三船敏朗六十歳。病院の通院履歴から痴呆症になって、まだ間もないことが判明。さらに事故の一ヶ月程前に生命保険に僅かであるが加入しております。この生命保険の名義は、三船敏朗ですが、支払い者と保険金受け取り者は、大島可奈子。四十五歳。同中野区で、スナック杏奈を経営しているママであります」
ここまで整理した佐久間は、大きく記載内容を赤枠で囲んだ。
「次に、本日発生した殺人事件について整理する。遺体発見箇所は、中野区内にある哲学堂公園近くのベンチであった。被害者は、佐藤健太。五十八歳。巡回中の所轄署交番の警官二名が第一発見者である。ベンチで不自然に寝ている被害者を発見し、声を掛けたところ、事切れていたことから、無線にて我々に要請が入った経緯である。遺体発見は、十三時十分。要請があり我々が現場に到着した時刻は十四時過ぎ。この間は、第一発見者の二名で現場保持に努めている」
山川刑事が、ホワイトボードの補助に入った。
「遺体に不審な点は特になく、一見自然死かとも思ったが、念のため科捜研に依頼。解剖の結果、胃の中から、イチイの有毒成分であるタキシンを検出。毒物による中毒死と判明。死亡推定時刻は、本日の十一時半から十二時半頃であるとの科捜研結果だ」
捜査本部長の藤田がまとめに入った。
「佐久間警部、この後の指示を」
「はい。佐々木班の五名は、引き続き、三船敏朗殺害に関係している大島可奈子の素性をあたれ。他にも保険金を誰かに掛けていないかを徹底的に洗うんだ。我々と大月班六名は、佐藤健太住所の家宅捜査、保険経緯などを調査する。また、検出された毒物が自宅からも検出されるかも調査する」
「それでは、捜査を開始します」